第54話:小さな不満と
試合が終わって。シャワールームを借りて汗を流す。
「ネバダくん! スポーツドリンクとタオル!」
「先輩! ドリンクとタオルです!」
安藤先輩は行動しなかったが、アキラとカーマは明らかに敵対し合って俺の補佐に回っていた。どっちを受け取っても角が立つので、俺はアキラからスポドリを受け取って、カーマからタオルを受け取った。水分補給をしながら汗を拭いて、それからシャワーを浴びてさっぱりする。試合は終わったので、それ以上は何もなく。
「それではー」
と文芸部室に戻り。
「カッコよかったですよ! 先輩!」
「濡れちゃいました! ネバダくん!」
「……入る部活を間違えているのでは?」
安藤先輩がそういうが、俺は読書の方が好きなのだ。安藤先輩にも刺激になったのか。彼女の創作も進んでいる。部活が終わるまでキーボードは華麗に叩かれていた。
「じゃ、帰りますか」
「ネバダくーん?」
「なんでございましょう?」
「送ってくれない?」
「構わんが」
それくらいは苦でもない。
「では失礼をば」
カーマには先に帰るように言って、渋った彼女を説き伏せ、俺はアキラを送っていく。
「バスケ。上手いんですね」
「下手ではないな。少なくとも」
肯定も難しいが否定も難儀だ。
「何か不満でも?」
「わかっちゃう?」
「そこそこな」
俺に不満が無いとそういう顔にならないが、原因が何なのかまでは俺にも悟れず。
「じゃあ言いますけど。私じゃなくて須藤さんからタオル受け取りましたよね?」
「しょうがないだろ。角が立たないように立ち回った結果だ」
あそこで片方のフォローを優先したらどちらかが不満を持つ。
「私のタオルで汗を拭ってほしかったです……」
「残念だったな」
「私はネバダくんが好きですよ?」
「まぁ俺も好きなんだが」
「そうですよね。ネバダくんも好きですよね」
否定も難しいが。
「じゃあ須藤さんを追い出してください」
「何故?」
「ネバダくんが私を好きなら、他の女の子と同居なんて不誠実です」
言っていることは御尤も。
「とは言っても、既に住居は登録されているしな」
「ネバダくんは優しいから須藤さんを突き離せないんですよね?」
「そういう側面もあるな」
「でもそれは須藤さんのためになりませんよ。ネバダくんは私が好きなんですから、わからせてあげないと」
「俺にカーマを放置しろと」
「距離を取ってくださいというお願いです」
「断る」
だから俺は即決した。
「……なんでですか」
アキラの瞳からハイライトが消える。根本的にコイツは俺を理解していない。
「見捨てるくらいなら、最初から救っていない」
「アイツは私のネバダくんを奪おうとしているんですよ」
「カーマから見たらお前が正にソレなんだが」
「私は……ほら……ネバダくんが好きですから」
「カーマもそう思ってるんじゃないか?」
「私からネバダくんを奪って?」
「可愛い奴だよな」
「……嫌です」
だから、アキラは本音をぶつける。
「ネバダくんが須藤さんに優しくするのは嫌です」
「別に付き合おうとかそういう話でもないんだし」
「お願いです。私だけを見てください。代わりに私の全てを差し上げますから」
「全てって。全部か?」
「全部です」
「土地の権利書とか」
「欲しいですか?」
「いや。ジョーク」
そんな重いものは貰えない。
「私は本気でネバダくんのこと……っん」
皆まで言わせず。俺はアキラの唇にキスをする。
「アキラ?」
「あ♡ ……はい」
「いい子だから。従いなさい?」
「ネバダくん……」
赤面して、視線を逸らして、アキラは恋する乙女になる。
「俺は別にカーマとどうこうって思ってないから」
「信じて……いいんですよね?」
「分からせてやろうか?」
「ぁ♡ わからせて……ください」
懇願するアキラの顎を片手で持ち上げて、そのまま俺はキスをする。一度、二度と。
「ネバダ……く……ん♡」
その俺とキスに夢中になって、アキラの意識が全部飛んだ。俺の首に腕を回してもっともっととキスをせがんでくる。それに応えて、俺はアキラの口の中の唾液を全部舐め取った。
「は……ぁ……は……」
興奮しすぎて息を上げているアキラに、俺はハグで返す。
「好きだぞ。アキラ」
「大好きです。ネバダくん」
そうして俺たちは抱きしめ合う。そのあと、若干ぎこちなく手を繋いで、俺は彼女を家に送っていく。
「寄っていきませんか?」
「お邪魔はしない」
「邪魔じゃないですよ?」
「わかっちゃいるが。今日は帰るよ。じゃな」
「須藤さんとイチャイチャしちゃダメですからね?」
「適切に距離を取って過ごそう」
別にイチャイチャしてもいいのだが。ソレをここで言う必要も無く。そもそもカーマは男嫌いだしな。
「ネバダくん」
「何か?」
「愛しています」
「それは重畳」
俺はそれ以上言わず。帰路についた。駅までは近いし、駅から俺のマンションまでも近い。この際テロリストでも現れない限り、帰宅に支障は出ないだろう。




