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第52話:そのころ俺は


「……ん……」


「これでいいのか?」


「……ちょっといい」


 アキラが阿久津に呼び出されて、グダグダやっている頃。俺は安藤先輩を背後から抱きしめていた。ギュッと背中から抱いて、腕を彼女の腹部に回している。最近安藤先輩は俺とこういうコミュニケーションを取ることを喜んでいる。


「……伏見くん……ドキドキしてる?」


「超してる。部室で安藤先輩とこうしていると」


「……おっぱい……揉んでいいよ?」


「それは風紀に違反するのでやめておく」


「……じゃあ……場所変えない? ……ここじゃなきゃ……いいんでしょ」


「理屈としてはそうだが」


「……拙のおっぱい……やっぱり気持ち悪い?」


「大きければ大きいほどいいんだよ」


「……本当?」


「すっごい揉みたいのを我慢してる」


「……意識して……くれるんだ?」


「言っただろ。先輩が一番好きなんだよ。これは嘘じゃない」


 はっきりと虚偽だが。


「……昼休み。……常闇さんと須藤さんと仲良くしてた」


「まぁ友人だし」


「……友達なんだよね?」


「惚れられてはいるけどな」


「……拙が好き……だよね?」


「……ペロ」


 俺は安藤先輩の耳を舐めた。


「……ひゃん!」


 ゾクゾクッと痙攣する安藤先輩。俺の唾液の冷たさに驚いたらしい。


「好きじゃない相手にこんなことすると思うのか?」


「……嬉しい……拙も……伏見くんが好き」


「相思相愛だな」


「……うん……だからわかってるよ。……常闇さんと須藤さんより……伏見くんは拙が好き」


「愛してるよ」


「……嬉しい……嘘じゃないよね?」


 この場では誰より。


「この温もりが、嘘だと思うか?」


「……信じる……それもいい女の条件だし」


「じゃ、ここまで」


 背後から抱きしめていた安藤先輩を解放する。


「……も……もうちょっと」


「いや。アキラが来る」


 既に屋上での一件も終わっている。このままアキラは部室に入ってくるだろう。俺はパイプ椅子に座って、何事もないように本を読みだす。


「……常闇さんに……何を言われても……拙が好きだよね?」


「イエス」


 少しだけニコリと微笑んで、俺はそう言う。そして時間的にそろそろだと思っていると、ちょうどよくアキラが部室に現れた。


「ネバダくん」


 そして部室で俺を見つけて、そのままツカツカと歩み寄って、俺を抱きしめる。


「はぁ……ネバダくんだぁ」


 俺を抱きしめることで脳内麻薬でも分泌しているのか。嬉しそうにアキラは言う。


「ネバダくんは私の王子様。私の全てを肯定してくれる存在」


「…………」


 俺を抱きしめて至福そうに言うアキラと、その光景を見て不満そうな安藤先輩。


「ねえ。ネバダくん」


「何か?」


「私のこと好き?」


「好きだぞ」


「大好き?」


「大好きだ」


「世界で一番好き?」


「言わせるなよ。恥ずかしい」


「うんうん。私も世界で一番好きだよ?」


「ありがとな」


 そう言って彼女を抱きしめ返す。涙を流すのでは、と錯覚するほどアキラの瞳はうるんでいて。俺に何を求めているのかも悟れる。だから俺もキスをした。彼女は既に俺に愛を求めていると分かるから。


「ん……」


「ちゅ……ん……」


 部室でキスを始めた俺とアキラを、恨めしそうに安藤先輩が見つめる。俺が安藤先輩を一番好きだという言葉は疑っていない。だがそれはそれとして俺とアキラのキスにも思うところがある……ってところだろう。


「ネバダくん……好き♡ ちゅ♡ ……大好きぃ♡」


「俺も好きだぞ」


 だがこの高校で、常闇アキラ……月影の女神と関係を持っているのは俺で。だから公認的には高嶺の唯華こと安藤レアスにはアキラの恋路は邪魔できない。俺はアキラとキスをしながら、その手をアキラの死角でヒラヒラと振る。安藤先輩に対しての合図だ。同意を求めるソレ。


「…………」


 ソレで留飲を下げたのか。安藤先輩は小説の執筆に戻る。


「ねぇぇネバダくん。このあとウチに来ない?」


「残念だがバイトのカーマを迎えに行かないと」


「いいじゃん。あんな後輩。私とイイコトしよ?」


「優先順位があるだろ」


「私より?」


「バイトの帰りに迎えに行くって言ったんだよ。反故には出来ない」


 言うまでもないことだ。


「じゃあ今日で迎えは終わりね。そもそもネバダくんは私が好きなんだから私以外はどうでもいいでしょ?」


「世の中には渡世の義理というものがあってな」


「それは私より優先されるもの?」


「逆に聞くが。お前は俺を失望させたいのか?」


 目を真っ直ぐ見て俺が言うと。


「あ……ッ」


 悲痛にアキラの顔が歪んだ。


「ごめん……ごめんなさい。そんなつもりじゃ……」


 しおらしく消沈する。その彼女を抱きしめて、俺は背中をポンポンと叩く。


「分かってる。ちょっと逸ったんだよな。怒ってないから」


「本当……?」


「愛してくれるのは嬉しいが、それで俺を縛る真似はお前もしないだろ?」


「うん。私はネバダくんが第一だよ? だから嫌いにならないで……」


「いい子いい子」


 俺はアキラの頭を撫でて、御機嫌を取る。


「お前が従順である限り、俺はお前を失望したりしないから」


「捨てないで……お願い……いい子にするから……」


 分かってるよ。お前がいい子にしていれば、俺から捨てることはあり得ない。


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