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第50話:ちょっとしたこと


「えーと」


 で、俺もニュースはあまり見ないのでアレだが。噂は一瞬で広まった。俺をボコボコにした五人の生徒が退学処分。俺はまた制服が血で汚れたので、ジャージと運動着で授業を受けている。


「殴られたんですか?」


「金属バットでボコボコになー」


 あっはっはーと笑うが、アキラには笑えないらしい。


「刺してきます」


「俺の軽蔑を買っても……か?」


「ネバダくんはズルいです」


「元々非暴力主義だしな」


「ソレで反撃しないのはむしろ問題ですよ!」


「まぁ弱点だとは思ってる」


 ズビビーとざるそばをすすりながら、俺も頷く。非暴力主義にも欠点はある。そもそも完璧なる思想なんて存在しないのが人間社会の真理で。


「なんで非暴力主義なんて……」


「攻撃する理由が無いからな」


 そもそも俺は攻撃されても死なない。だから攻撃の必要がない。マハトマ・ガーンディーがその理想の果てに倒れたのは彼が死に対して対抗策が無かったからだ。本当に非暴力不服従を貫くためには不死身の身体を手に入れなければならない。あらゆる攻撃で死なない身体を手に入れれば、その時こそ非暴力不服従は完成を見るのだ。なので俺は不死身であるが故に非暴力主義を貫けるわけで。


「私が我慢ならないんです!」


「それは私もかなー」


「カーマか」


「失礼しまーす」


 チキンカツ定食を頼んでいたカーマは俺の隣に座った。


「先輩はちょっと優しすぎます。もうちょっと逆らうものは皆殺しだーでもいいと思いますけどね?」


「須藤さん……」


「アキラ先輩もそう思いますよねー?」


「無論です。ネバダくんを害する人間は全員敵です」


「ま、ネバダ先輩の恋は私のモノですけど♪」


「殺しますよ?」


「また刺すんですか? 今度は助命できるとは限りませんよ?」


「あと俺も軽蔑する」


 ズゾーとソバをすする。


「ネバダくん。コイツなんてどうでもいいでしょ? 私さえいればいいよね?」


「まぁ月影の女神は可愛いしな」


「そうです。私だけいればいいんです。だから恋堕の天使をフッてください。私と愛を育みましょう」


「好きですよ? せーんぱい?」


 俺の隣に座っているカーマが俺に抱き着く。周囲の視線が冷たい。まるで俺が悪いことをしているかのように。


「ちょっと伏見ってさ」


「月影の女神と恋堕の天使とイチャイチャ」


「あの退学どもの気持ちもわかるっていうか……」


「風紀的にどうなんだ?」


 などなど。色々と囁かれている。


「離れろ。カーマ」


「先輩が命令するならノーパンで登校しますよ?」


「パンツは俺が洗っているだろ」


「まず須藤さんとの同居を止めてください」


「別に支障はないしな」


 俺が困っているわけでもないし。


「だから好きですよ? せーんぱい♡」


 なわけで、カーマとの同居はそのままで。


「ちなみに私が一緒というのは」


「お前には家があるだろ」


「ネバダくんと一緒にいたいです」


「却下」


「須藤さんばかりズルいです」


「一応家に金は入れてくれてるし」


「メイド喫茶で働いていまーす」


 闇のカルマちゃんは今日も絶賛大人気。


「でしたら私も金を入れます」


「いや、そもそも金に困ってねーし」


「お金持ちなんですか?」


「税金で養われている感じだな」


「健康で文化的な最低限度の生活?」


 それとはちょっと違うが。


「とにかくまずは先輩を殺しかけたアイツらをどう殺すかですよー」


「私のネバダくんを怪我させたんですからね」


「やっぱり毒殺ですかねー」


「狙撃も手だと思います」


「駅で線路に突き飛ばすとか」


 恐ろしいことを言うな。お前ら。


「俺は気にしてないから」


「だから先輩は優しすぎるんですよー」


「もうちょっと危機意識を持ってください」


 無理。そもそも不死だから危険が無いし。


「ありがとな」


 で、俺はカーマの頭を撫でる。


「えへへ。せーんぱい♡」


 撫でられて嬉しかったのか。甘えてくるカーマ。


「ちょ! ネバダくん! ズルいです!」


「はいはい。アキラにも」


 なでなで。


 周囲の視線は冷たい。俺がアキラとカーマに甘えられていることを好意的に見る生徒などいない。中には怒りのあまり割り箸を握り折っている生徒まで出る始末。とはいえ、別にそれを問題にしていない。殴るなら殴れ。刺すなら刺せ。穿つなら穿て。それでも俺は死なないから。


「……ボソボソ(結局先輩って不死身なんですよね?)」


「まーなー」


「二人で何を納得しているんです?」


「……秘密です♡」


「黙秘」


「ネバダくん? スマホを貸してください」


「何をするか聞いていいか?」


「私以外のアカウントと電話番号を消します」


「意外とソクバッキー?」


「ネバダくんは私にだけ愛されていればいいんです!」


「先輩♪ 今日も夜のムツミゴトしましょうね?」


「まさか!?」


「してねーから」


 俺はハンズアップ。そもそもカーマは男嫌いだ。俺に抱かれるのも悪夢だろう。そうと知って相手をする俺でもない。やっぱり初めては合意の上でしたいじゃん?


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