第39話:浸食と無自覚
「ほー。ここがネバダのマンション」
駅近で、特に米糠高校との距離もさほどではない。柳原区では結構立地条件のいい不動産でもある。そのマンションを見て、何か思うようにエリは言った。
「お金持ち?」
「いや。血税」
それもそれでどうなんだという話ではあって。
「ねー。先輩? なんかすっごい不本意な感情が私の中で生まれているんですけどー」
「気のせいじゃないか?」
俺と同棲しているカーマはもちろん帰り道は一緒。アキラは学校からの駅で別れた。だが俺の部屋にお邪魔してみたい、と言ったエリの発案で、俺は彼女を城に招くことになった。それはまぁどうでもいいのだが。着々とテストが近づいて、学校での授業もテストに出る項目を教える程度には本格的に。
「おお、ひろ……」
俺のマンション。その俺の部屋に上がったエリは感動していた。
「ちょ。いい物件過ぎない?」
「一応わがままは言っているからな」
「そのわがままでこんないい場所用意されたので?」
「偏に言って」
「いいなー。恋堕の天使は同棲してるんでしょ?」
「まぁ」
「ボクもいい?」
「構いはしないが。どうせお前は誰にも認知されないんだし」
「代わりにエッチさせてあげるから」
「それは却下で」
「ボクのおっぱい、カーマより大きいよ? ロリ巨乳が趣味?」
「いや。今のところ一番評価高いのはお前なんだが」
「では何故?」
「魔法使いは童貞じゃなくてはいけなくてな」
「なるほど」
そこで納得されるととても物悲しい気持ちになるのだが。
「それではボクもここに住む。荷物運んでいい?」
「構わんが。どうせ部屋余ってるし」
俺はクリーニングから帰ってきた学校制服を眺めていた。
「先輩の血も綺麗に洗われていますね」
「そもそもお前が俺を刺さなければ今回のことはあり得ないのだが」
「まぁそこは気にしない方向で」
「じゃあ飯作るか」
「私がやりますよ」
「いや、俺がやる」
エリにも飯を作らないといけないし。
「希望があります! 先輩!」
「なんだ?」
「裸エプロンで作ってください!」
ハイ却下~。
「米もあるし。雑炊にするか」
「先輩って結構多芸ですよね」
「何かしたか?」
「バスケできるし。勉強できるし。本も読めるみたいだし。料理も」
「時間のリソースは同じだから、誰だって俺の様に生きれば俺みたいになれるさ」
「……本気で言ってます?」
「得意分野が違うから、俺と違う人生を歩んでるのだろう?」
「私はおっぱい大きいですよ?」
「あー。そーですねー」
我ながら心のこもっていない言葉だった。その俺に引っ付いているエリがHカップの爆乳ということを加味すれば、カーマにアドバンテージはない。
「じゃ、私は引っ越し業者に頼んでおくね」
「マジで引っ越す気か」
「ネバダは許してくれるでしょ?」
「別にお前くらいは迎え入れるスペースはあるんだが」
個室はまだ余っているし。
「今日のところは帰るね。荷物も纏めなきゃだし」
「じゃあお疲れ」
「そ・の・ま・え・に♡」
色っぽい声音でエリは俺を抱きしめて。俺はゾクゾクと悪寒にも似た性欲を覚えた。
「最後にキスしてほしいなぁ」
「カーマの前でか?」
「カーマの前でです」
まぁ見えてはいないから、何とも思わないだろうというのは察せるが。
「ネ・バ・ダ♡」
「ちなみに軽いキスか?」
「ネバダの唾液を味わいたい」
つまりディープキス……と。
「ん。エリ。ぅん」
「ネバダぁ♡ しゅきぃ♡ ネバダはボクのものぉ♡」
そうして俺たちはカーマが見ている前で情熱的にキスを交わす。エリを抱きしめて、その腰に腕を回して、細い腰を抱きしめたままエリとディープなキスをする。その事をガン見しているカーマが、だが自分が何を見せられているのかを理解できない。正確には意識できない。
「ネバダ先輩? 何をしていらっしゃるので?」
そうしてエリとのキスが終わって、黒子迷彩の効果が俺に適応されなくなると、まるで回答が難しい問題のようにカーマが聞いてくる。
「料理」
さっきまでのエリと抱き合ってした情熱的なキスをカーマは認知できない。ただソレを見たという事実だけを残して。
「そんなわけで。ネバダはボクのモノだから♡」
聞こえないと分かっていながら、満足したエリはカーマの耳元に囁く。それが意識できない言葉であれ、不快感まで無くなるわけではなく。
「あれ。なんで。今。先輩を……刺したい」
「意味ないけどなー」
俺の再生力を持てば殺傷事件など、そこらの怪我と変わらない。
「ちなみにリビングを血で汚したら、今度こそハウスクリーニングの請求はお前にするからな?」
「むう」
「ほら。そのEカップの胸でネバダを誘惑するんでしょ?」
そう言って、エリはカーマの胸を揉んだ。Eカップの巨乳が無造作に握りつぶされる。
「あ♡」
その胸揉みに感じたカーマが色っぽい声を上げる。だがその声が何処から漏れたものか。それをカーマは理解していない。エリは彼女の肢体をまさぐって、性的に興奮させる。エリにとってはカーマも性欲の対象なのか。
「その……ネバダ先輩。夜のお相手も務めてくださりますか?」
「しないって。だから」
「でも今……なぜか私は性的に興奮しております」
「じゃあ一人でしろ」
「していいんですね? ここで」
「構わんぞ」
俺はあっさり受諾する。ソレを挑発と受け取ったのか。カーマはマジでここでするつもりらしい。服を脱いで下着姿になり、あられもない格好になって、そのままリビングで…………。




