第37話:米糠バスケ部の奇跡
「伏見ネバダー!」
で、登校。ホームルーム。授業。昼休み←今ここ。
俺の教室に突撃してきたのは誰あろう。真盛先輩。バスケ部のエースでフォワード兼センター。筋肉もよく鍛えられているし、男としての暑苦しさはまさに一級。でもそういう男が好みの女子もいるので世間は上手くできている。
「な、なにか?」
「入部してくれ!」
「嫌」
一文字二音で切って捨てる俺。
「そう言わず! バスケ部で結果を出せば内申点爆上がりだぞ!」
「普通に成績は自力でどうにかするので」
「そこを何とかー!」
「鋭意うっとうしい……」
さて、俺がどう躱すか。悩んでいると、クラスメイトの一人がポツリと言った。
「っていうか入ってやれば?」
バスケ部への援護射撃。暑苦しい真盛先輩が俺の腕を掴もうとしてきて、その顔を手で押しやって距離をとっているところにそれだ。
「何でだ?」
最近はアキラと一緒にいることが多かったので、クラスメイトの……というか全校の男子生徒からはよく思われていない。
「だって相手の高校……」
と言ったのはクラスメイト。何とかという高校は地区ではかなりの強豪校らしく、地区優勝の筆頭候補だったらしい。そこに試合で二点差とはいえ勝ってしまったのだから米糠高校のバスケ部は沸騰。監督権顧問の教師も「アイツは何処の誰だ!?」と俺に興味を持ち、そのまま真盛先輩がゲロって。顧問教師は俺のデータを精査して、だが有益な情報は手に入れられず。当たり前だが。そもそも進学校から転校してきたのだから、バスケで強いとかそういう情報は入ってきていない。
俺がバスケ部に入れば、つまり地区大会での優勝を目指せる。そう確信したバスケ部は俺の勧誘に全力を尽くすことにした……らしい。
「興味ないっす」
「なんでだ!」
「基本ビブリオマニアなんで」
本を読んでいる方が性に合っている。
「そう言わず、だ。なんなら兼任でいいから!」
「バスケを頑張ろうって意欲が無いんだよ。俺を入れると不和になるぞ」
「しかしお前の二十点があったからあの時の試合は勝ったのであって……」
「じゃあその二十点を取れるように頑張れ」
俺に言えることはそれくらい。
「じゃそういうわけで」
「学食か!? 奢るぞ!」
「断る」
借りは作りたくない。というかこのままズブズブと沼に沈む気が無い。
「お前はバスケをするために生まれてきた存在なんだよー!」
「暑苦しいから離れろ」
「ちなみにだが。あのまま試合に出ていたら、何点くらい取れそうだった?」
「まぁ三十五点は固いな」
「やはりバスケ部は入れ!」
だから嫌だっちゅーの。
「せんぱーい。お昼にしましょう?」
「ネバダくん。お昼一緒しませんか?」
「ああ、今行く」
で、俺に迫っている真盛先輩を見て、ジトーッとした視線を送ったのはカーマ。
「BL?」
「名誉棄損で訴えるぞ」
「じゃあなんでその暑苦しい人と密着しているんですか?」
「とりあえず、学食行くぞ」
そういうわけになった。辺りはヒソヒソと噂している。その視線が俺を向いているので、どう考えても噂されているのは俺だろう。別にいいけどさ。
「米糠バスケ部の奇跡って呼ばれているみたいですね」
「実際カッコよかったですしねー。先輩のプレイって濡れるんですよ」
せめて普通に褒めてくんない?
「実際相手は強豪校だったらしいですし」
それは聞いた。
「ウチは進学校なので……というのは理由になりませんけど、運動部はパッとしないというか」
部活推薦で大学に行くという選択肢は然程の生徒は持っていないのだろう。
「ちなみにネバダ先輩って勉強得意ですか?」
「平均程度」
俺はチキンカツをパクつく。
「でも先輩、身長平均なのによくダンクできますね」
「ジャンプ力はそこそこあったりして」
「まぁそうなりますよねー」
こっちはざるうどんを食っていた。
「ネバダくんがバスケ部入るならマネージャーしますよ?」
「そうしたら俺以外の男にもマネージャーすることになるぞ」
「ネバダくん専属で!」
部活が内部崩壊しそうだ。
「実際にやる気はない感じで?」
「バスケは好きだが、見ている方が楽しめるな」
「もったいない。モテるのに……それは困りますけど」
カーマとしても複雑な心境らしい。
「とにかく。バスケ部には入部しない」
「でもたまにしてくれません?」
「見たいのか?」
「先輩のプレイって派手で好きです」
「やって出来んではないが……」
「ところで部活動は……」
「文芸部」
「はぁ!?」
そこでガタンと机に手をついてカーマは立ち上がった。
「文芸部って……文芸部?」
他に同音異義語は無いと思うぞ?
「それって高嶺の唯華が所属している部活じゃないですか!」
「あ、知ってんの?」
「一年の私が恋堕の天使。二年のアキラ先輩が月影の女神。で、三年の安藤先輩が高嶺の唯華ですよ」
まぁ知らないわけじゃないが。
「あの大きいおっぱいが好きなんですか?」
「あそこまで行くと色々と悟りを得ないとなんとやら。俺は単純に本が好きだから文芸部なんだよ」
「むー」
そこで唸られても。
「というわけでネバダくん。一緒に部活動しましょうね?」
「アキラ先輩も入っているんですか?」
「無論です。ネバダくんと同じ部に入部するのは当然でしょう?」
「じゃあ私も入ります!」
まぁ頑張れとしか言えないわけで。




