第36話:一応の決着
「先輩。早く学校行きましょうよー」
俺の部屋の玄関に立って、ヒョコヒョコと手を振るカーマ。俺と同棲しているのはすでに言っているが、セクロスはしていない。してもいいのだが、俺は作法を知らないし、相手に至ってはそもそも男に嫌悪を覚えている。
「えへへぇ♡ ネバダせ~んぱいっ♡」
そうしてどこのバカップルがそうするのか。カーマは俺の腕に抱き着いてデレデレしていた。
「男が苦手じゃなかったのか?」
「苦手ですよー」
「俺は男なんだが」
「でも先輩って普通にカッコいいですよね?」
あまり自覚はない。そもそも自分の容姿について考察したことが然程ない。
「じゃあ私が言ってあげます。先輩はカッコいいですよ?」
「ありがとな」
彼女の茶色の髪ごしに頭を撫でて感謝を表明すると。
「えへへぇ」
彼女も彼女で嬉しそうにデレデレしていた。そうして登校。俺たちはマンションのエレベーターに乗って、一階へ。それから外に出ると。
「あ、ネバダくん。おはようご……ざいます?」
「あ。アキラ先輩。ちーっす」
で、俺の隣で俺にデレデレしているカーマが、アキラにあっさりとあいさつする。当たり前だがアキラには意味不明だろう。あの時殺したはずのカーマがあっさりと生きているのだから。
「何してるんですか?」
「恋してまーす」
「何で生きているんですか?」
「愛ゆえに」
「…………」
まるで生産性のない言葉の連続に、カーマも困ってしまったのだろう。説明しろと、無言で俺を見つめてくるが、そもそも何と申したものか。
「ネバダ先輩って人を蘇生できるらしく~」
「冗談ですよね?」
「もちろん冗談だ。血を止めて心臓マッサージをしたら無事息災だ。おかげで昨日は鉄分摂取のために悪夢のようなレバーを食わせる羽目になった」
そんな戯言をアキラが信じるはずもないが、じゃあどうやってと言われても想像つくまい。俺的にはとりあえずカーマが生きていることをアキラに見せつけるだけでも十分だ。
「じゃあ次殺す時はもうちょっとシチュエーションを把握する必要がありますね」
俺がいると泥棒猫を抹殺できない。それもまた必然の事実であって。却下ン視で見るに、アキラはカーマの排除を諦めていない。というか俺を世界から独占することを諦めていない。俺の隣の女子がいるだけで、アキラにとっては刺す理由になってしまうのだ。
「なわけで刺すなよ。さすがに俺が生き返らせられるから、って理由で殺人を肯定すると俺も引く」
「でもネバダくんを愛していいのは私だけですよね?」
「私もネバダ先輩愛してますよー?」
「あなたは私が好きだったのでは?」
「でも生きていられるのは先輩のおかげですから。私は先輩の所有物。先輩の命令には絶対服従の家畜です♡」
「もしかして……やりました?」
「いや? やってない」
「そこは私の胸を揉んで、『コイツは俺様のメス奴隷だからな』アピールじゃないんですかー? そしたら私は『あん。先輩のエッチ……でもそこが好き』って赤面してー」
だからお前は俺をどういう人間だと思ってんのよ。
「言っておきますけど。ネバダくんは誰にも渡しませんから」
そもそもアキラの所有物でもなかったような。
「でも私の心はネバダ先輩に奪われていますから。ごめんね。夢の中でなら素直になれるかもしれませんが」
「とにかく登校するぞ」
俺にとっての地獄は、そこから始まる。
「嘘だろ? 月影の女神が……」
「恋堕の天使もかよ」
「あいつ……月影の女神と恋堕の天使を同時に堕としたってのか?」
月影の女神と恋堕の天使。アキラとカーマの異名だ。もちろんいい意味で。とはいえだ。俺が堕としたつもりもないし、そもそも恋人ですらないのだが。
「須藤さん!」
で、俺の左右の腕に抱き着いているアキラとカーマ。そのカーマの方に呼びかける男子生徒が一人。
「そこの男とは……どういう御関係で?」
「恋人だよー」
「彼女面するな」
「恋堕の天使は皆に優しいアイドルだったじゃないですか! 何故そんな男に!」
「ほら。かっこいいじゃん?」
「そん……な……」
「私今ネバダ先輩がトレンドでしてー」
「正気に戻ってください!」
「むしろ正気に戻った結果がこれかなー?」
「うわぁぁぁぁぁぁんんん!!! 畜生~!」
そうして泣き荒びながら男子生徒は消えていった。
「なんですかね?」
「分かっていないフリは止めろ。お前が一番分かってるだろ」
「でも先輩が好き好きーっていうのは私の本音ですし」
だからってなぁ。
「ほらほら。チューしてもいいんですよ?」
「風紀委員に目を付けられるから止めとく」
「私も吐きますしね」
男嫌いは治っていないらしい。
「それよりネバダくん。私とキスしませんか?」
「お前はお前であんまり好きになれんのだが」
「でも私達って相思相愛じゃないですか?」
「彼女面するな」
「そういうネバダくんも好きですよ?」
「俺はあんまりだな」
「ネバダくんはツンデレですね」
「デレたことあったか?」
「私の命を救ってくれたじゃないですか」
「特に理由はない。単にあそこにいたってだけだ」
「でも私にとってはデスティニーだったんですよ?」
「お前が思っていることなんて、まさにわけわからん」
「アキラ先輩もネバダ先輩に助けられたんですか?」
「あの時私は運命を感じました。なのでネバダくんを好きになったのですよ」
「じゃあ蘇生仲間ですね」
「アナタさえ死ねば、私はネバダくんを独占できるんですけど」
却下の方向で。
「ところで何やらこっちを見る視線が痛々しいんですけど」
「そら月影の女神と恋堕の天使を侍らせていてはな」
「喪男の嫉妬ですねー。あ、おっぱい揉みます?」
「揉むなら私のにしてください」
せめて二人でやってくれんか? 俺を巻き込むな。




