第28話:バスケの助っ人
「伏見!」
「んぁ?」
で、とある日の金曜日のこと。俺が放課後を文芸部室で過ごしていると、真盛先輩が訪ねてきた。俺が文芸部に入ったことは彼にも伝わっていたらしい。普通に流行りのラノベを呼んで、安藤先輩と小説について語っていたのだが、そこに真盛先輩が突入してきた。あるいは突貫か。
「今日は他校と合同練習で」
「はあ」
まさにだから何だとしか言えないのだが。却下ン視が大体の事情は察していた。つまり俺の練習試合に出ろと言いたいのだろう。
「試合に出てくれ! 後生だ!」
「お断りします」
俺の理は晴れやかな笑顔だった。そもそも受諾する理由が無い。
「そこをなんとか!」
「外注の人間に頼って試合に勝っても部全体のためにならんだろ」
「そこを推して頼む!」
「ボクはネバダのプレイ見たいなー」
入部許可も持っていないのに文芸部で暇をつぶしているエリがそう言った。
「ネバダくんネバダくん。私にカッコいい所見せてください」
アキラも無責任なことを言ってくる。俺はさてどうしたものか。
「じゃあ出てもいいが……」
「なんだ! アイスくらいなら奢るぞ」
「いや、報酬は求めてない。代わりに二十点取ったら交代な」
「二十点……取れると?」
「そりゃ全国の強豪とかなら無理だが」
「わーい。ネバダのプレイ楽しみ」
「ネバダくんのバスケはカッコいいですから」
「…………そうなの?」
高嶺の唯華……安藤先輩が聞いてくる。
「カッコいいですよ。創作のネタになるかもしれませんし安藤先輩も見るといいですよ」
「……わかった」
「あ、でも惚れちゃいけませんからね。ネバダくんは私のモノですから」
「そうだね。アキラはネバダに惚れているもんね。じゃあネバダ。チューしよ?」
「はいはい」
そうして公衆の前で俺はエリにキスをした。
「ん♡ ちゅ♡」
他者の目の前で。堂々と。
「ネバダぁ。ボクおまた濡れるよぉ」
「さすがにスポーツの試合するから、体力は使えんぞ」
「???」
「???」
俺とエリのキスに、訳も分からず不安を覚えるアキラと安藤先輩には真実を告げず。
「それじゃ試合開始しまーす」
他校との合同練習。それによる練習試合。その試合の最初に俺はスターティングメンバーとして出ていた。そこそこ筋肉のついた身体。スポーツ選手としては及第点レベルだ。
「?」
だが他校の選手は俺を見て思案していた。さっきのさっきまで合同練習にも出ていなかった生徒がいきなり試合に出ているのだ。疑うところもあるだろう。まさに知ったこっちゃなかったが。
「がんばれー。ネバダー」
「おう」
体育館の上階ギャラリーでエリが俺に応援をしてくる。
「ネバダくーん! ファイトー!」
月影の女神こと常闇アキラも応援してくれる。もちろん二年生で一番可愛い女子だ。当校の生徒も他校の生徒もアキラを見てだらしない顔をしている。その隣でヒラヒラ~と手を振っているのは須藤カーマ。彼女は文芸部員ではないが、どこからか今回のことを聞きつけて体育館のギャラリーにいる。ついでに安藤先輩も。
「おい。月影の女神、恋堕の天使、高嶺の唯華……そろい踏みだぜ?」
「こりゃ恥ずかしいところは見せられないな」
「やぁってやるぜ」
バスケ部員も気を引き締めている。とはいえ、三人プラス砂漠谷エリの興味は俺なのだが。それを言ってしまうのも野暮だろう。試合開始のジャンプボール。センターに俺はお願いしていた。
「俺の方にボールをくれ」
と。ジャンプボールはその性質上、前方より後方にボールを弾く方が容易い。俺はジャンプボール役のセンターの真後ろに立っていた。そうして試合開始。ボールが投げられて、それを身長の高いセンターが弾いて、俺の近くには送る。そのボールを受け取って、そのままドライブ。相手のディフェンスはマンツーマン。俺を意識しているのは、俺とポジショニングをしている一人のディフェンスだけ。その意識につけ込んで、そのままドリブル。真っ先にディフェンスを追い抜いてゴール下まで一直線。対応が間に合わない相手のチームを無視してダンクを決める。
「「「「「――――ッッッ!!!!」」」」」
そのプレイに、バスケ部もギャラリーで観戦している生徒も沸いた。そのままディフェンスに移行。俺はスモールフォワード。ディフェンスはマンツーマンなので一人の人間に対処。ボールを受け取ったターゲットが俺を見て、そのまま抜けると思ったのだろう。ドライブで切り込んでくる。そのドライブに抜かれたふりをして背後に回り、ボールをスティール。こっちチームの選手が拾ったことを認めた瞬間、
「ボール寄こせ!」
俺は走り出していた。ロングパスが俺に送られ、そのボールを受け取って、ディフェンスの誰も追いついていないフリーの状況。俺はまたダンクを決める。これで四点。ノルマまであと十六点。そうして試合でドタバタしながら十八点まで取り続ける。フックシュートだったり、プロレイアップだったり、様々だ。
「あと二点かー」
さて、どうするか、と悩んでいると俺にボールが来た。既に試合前半で十八点取っているのだ。相手も俺を警戒してディフェンスを厳しくしている。俺のドライブに追いつけないと思っているのだろう。ロングシュートの可能性を犠牲にして、少し距離を取ってディフェンスをしていた。俺との距離が離れていればいるほど、俺がドリブルで突っ込んで来ても対処が容易になる。とはいえ、俺はロングシュートは然程得意ではない。全くではないが、ダンクと違って百パー成功するわけではないのだ。だが既に俺がワンオンワンのスキルで秀でているのは相手も悟っているだろう。とすると。
「ふむ」
オフェンス側の味方も俺の得点力には既に信頼を置いているらしい。スモールフォワードの俺にパスが通る。敵のディフェンスは距離をとっている。このままフリーでシュートさせてくれる……なら。俺はスリーポイントシュートを打った。ドライブで切り込んでくると信じて疑っていなかったディフェンスが困惑する。そのまま俺のシュートを目で追ってゴールを見る。もちろんシュートは外れた。ガコンとボールが跳ねる。そのボールをリバウンドしようとするセンターやパワーフォワードが跳ぶ中、それよりも高く俺が跳んでいた。ボールを目で追っていたマンツーマンのディフェンスを追い抜いて、そのまま外れるだろうスリーポイントシュートのボールを片手で受け止めて。
「ッッッ」
外れたシュートを補完するように、リバウンドしたそのまま……着地する間もなくダンクでゴールに叩きつける。
「「「「「…………」」」」」
体育館の生徒、全員が唖然としている。俺がやったのは自分の外れたシュートを自分でリバウンドしてフォローしただけだ。だが館内が沸いた。バスケ部も。見学の生徒も。月影の女神も。恋堕の天使も。高嶺の唯華も。全員が俺にワーキャー言っていた。
「じゃ二十点取ったし」
「ああ、助かった」
真盛先輩も、自分から俺に助っ人を頼んだのに若干引いていた。然程のことはしとらんのだが。だが俺のプレイは学内に広まって、そこそこ話題にはなったらしい。




