第26話:ペンを武器に
「くあ……」
欠伸をしつつ、結局昨日は非生産的だった。俺はカーマに手を出さず。カーマはカーマで既にお泊りセット一式を持って、俺の部屋で一晩。もちろん何もしていないが、この際ナニもしていないというのが、俺的には不満で。とはいえ童貞だしうまくリードもできないんだよなぁ。カーマのおっぱいに縋りつきたくはなったが。
「トーストとスープでいいか?」
「もちろんでーす。ハムとか無いんですか?」
「卵ならあるが」
「バターで油を引いてスクランブルエッグとか」
「オーライ」
そんなわけで、トーストとスクランブルエッグ、サラダとスープの朝食。
「朝帰りですね」
「帰ってないだろ」
俺のツッコミも冴えない。まさかとは思うが。
「俺の部屋に入り浸ろうとか思ってないよな?」
「却下ン視を持っていながらそれを聞くんですか?」
だよなー。
「アキラに刺されるぞ」
「アキラ先輩、今日も先輩が部屋から出てくるのを待ってるんですか?」
「十中八九」
その際に俺と一緒に部屋を出るカーマを見て何を思うかは、まぁ察せて。
「未来が見えるっていうのも心労が祟りそうですね」
「分かっているなら、どうにかしてくれ」
「私ボロアパートに住んでるんで、お湯が出にくいんですよ」
「まさか住まわせろとか?」
「さっすが先輩。話が分かるー」
言っておくが、マジで性欲の暴発には責任持てんぞ。
「ゲロを吐く私を蹂躙してパコパコする先輩ってエロ動画サイトに上げれば人気出ません?」
「女子校生モノって銘を打ってか?」
女子高生ではない。女子校生だ。ここら辺の言葉のマジックは、日本のエロ業界では懐かしい風習だったりする。そして飯食って、シャワー浴びて、制服に着替え、二人で登校する。そのマンションのエントランスの外にアキラがいて。
「き、奇遇ですね。ネバダくん。もしよければ……いっ……しょに……登校……を?」
語尾が掠れていったアキラ。
「アキラ先輩~! 大好き!」
そのアキラの胸に飛び込むカーマ。アキラのおっぱいに頬擦りして、百合の空間を創る。俺は気にしていないとばかりに駅に向かって歩き出す。
「なんで須藤さんが……ネバダくん……と?」
「ネバダ先輩にアキラ先輩に惚れるなって忠告していたんです。アキラ先輩は私のモノですからー。性欲処理の相手が欲しいなら、私がお相手しますよって」
「……………………したの?」
「ポッ」
顔を赤らめて目を逸らすカーマ。無論ジョークのつもりだったのだろう。だがそれでアキラの堪忍がはちきれた。
「この泥棒猫!」
胸に差しているペンを握って、何のためらいも無くカーマの眼球を狙う。刺した場合、事案になるのは必然だが、それより先に俺が動いた。
「落ち着け」
遠慮もへったくれも無くカーマの眼球目掛けてペンを振り下ろした、その切っ先が俺の左手を貫通する。
「ひっ!」
その俺の危害で意識を現実に戻すアキラ。俺の手をペンが貫通していて、まぁ見れば見るほど重症。その流れる血がペンを滴ってカーマの頬に垂れる。
「ご! ごめんなさい!」
「気にしてない」
「そいつが! その泥棒猫が! 私! 許せなくて!」
「だから大丈夫だって」
俺は手からペンを抜いて、血塗れになっているから、さすがに道具としては機能停止だろうとそのまま保管する。ゴミはゴミ箱に捨てましょう。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい! こんなつもりじゃ! 愛していますネバダくん! これは嘘じゃないです! だからカーマを見限ってください! 私だけ! 私だけいればいいでしょう!?」
「だからカーマはアキラが好きなんだって」
「なのでネバダ先輩が性欲を暴発させないように私がお相手しますよーって言ってるだけで」
話をややこしくするな。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
で、そんなカーマを見て怨嗟のごとく殺すを連呼するアキラ。こいつもこいつでヤンデレか。別に殺そうとしたところで俺には支障はないが。
「この泥棒猫! 死ね!」
で、そのカーマに襲い掛かって、アキラは彼女の首を絞める。殺す気満々で。
「ネバダくんは私のモノだ! 誰にも渡さない! 私だけの王子様だ! 私以外の女は皆半径五十メートルに入るな!」
「ぐ……ッ……が……ッ!」
気道ではなく頸動脈を止められて、そのまま意識が天に上りかけるカーマ。
「それ以上はシャレにならんぞ」
だから俺が止めた。頸動脈を締められると、最悪一分以内で人は死ぬ。それくらい重要な血管なのだ。
「落ち着け」
だからショック療法として、俺はアキラにキスをする。それを意識朦朧としながらもカーマは見届けて、そして俺に嫉妬する。
「このクズ男……私のアキラ先輩に触れるな……ッ!」
「ネバダくん……私の王子様……キスしてくれた……」
当たり前だがアキラには嬉しいことらしい。キスの一つで軽いものだ。
「ネバダくんは世界で一番私が好きですもんね!」
「別に」
「……き……嫌い?」
「……………………………………………………………………………………別に」
「なんで躊躇いがそんなに長いんですか?」
「ちょっと引いているのは事実」
「大丈夫です。ネバダくんが私を愛してくれる限り、私から裏切ることはしませんから」
それもお前の機嫌次第だろ?
「じゃあ私とラブラブで腕を組んで登校しましょうね?」
「じゃ、そのアキラ先輩と私はラブラブしまーす」
「離れなさい」
「俺は三ピー両論もアリだぞ?」
「ネバダくんは私以外の女の子には触れていはいけません。代わりに私の身体は何処に触れてもいいですから」
「そりゃ重畳」
「あと保健室に行きましょうね。刺したペンは大丈夫じゃないですよね? 私が一思いにカーマを殺せなかったから。もっと即断即決でカーマを殺すべきでした。躊躇ったことがネバダくんの同情を介入させたんですよね? ごめんなさい……」
謝る箇所を間違ってる。まぁ今更っちゃ今更か。別に俺としては誰が誰を刺そうとどうでもいいのだが。そもそもアキラにも恋愛感情は持ってない。
南無八幡大菩薩。




