第22話:優秀なオス
『情けねえ! 反撃も出来ないのか!?』
『はっ! 腰抜けが!』
『こんな情けない男……お前も嫌だよな? 俺ならもっと男として愛してやれるぜ?』
『なぁ? 情けないよなぁ? お前が抱きしめた相手は。俺の方がオスとして優秀だぜ?』
『ひひゃ! なっさけねえ! ソレでよく女の前でカッコつけようと思ったな!? 手の足も出ねーじゃねーか!』
というわけで。
「ほい。以降アキラに近づくの禁止な」
俺はスマホに映っている映像を見せて、阿久津氏に脅しをかけていた。そこに映っているのは俺を一方的に殴っている阿久津氏の姿。もちろん暴行罪。学校に報告したら生徒指導どころではない。ゲリラライブ並みに臨場感あふれる俺への暴行。しかもカメラアングルを意識して、ダイナミックに撮影。誰が撮ったかって? エリ以外いないだろ。
「ボクが殺してやろうかとも思ったけどね」
自重してくれて助かった。あの場で殺されると、俺かアキラに被害がいく。エリは黒子迷彩を着ているので、警察もスルーぜざるを得ないのだ。ある意味で透明人間よりタチが悪い。
「てめ! それを! どこで!」
「さーてなー」
「そのスマホを寄こせ!」
「データ消しても意味ないぞ。安全な場所にマザーファイルは保管しているので」
つまり流そうと思えばいくらでも流せる。
「もちろん生徒指導の先生に持っていくとかしないぞ?」
「じゃあ何だ!」
「SNSに流すに決まっているじゃないかぁ。顔までしっかり映っている映像が全国に報道されるわけだ」
しかも取れ高バッチリ。これほどのエンターテイメントはそう無い。
「な、わけで自重しろよ」
ポンポンと肩を叩いて、俺は去っていく。その俺の隣にはアキラがいて。俺と腕を組んで仲睦まじく歩いている。
「凄い動画ですね? どうやって撮ったんです?」
「知り合いに頼んだ」
「あそこまで臨場感を出すのは、そこそこカメラワーク意識しないとできないと思うんですけど」
「ああ、知り合いに透明人間がいんの」
「ふわー」
適当なことを言ってスルーさせるつもりが、ちょっと感嘆とされてしまった。
「でもカッコイイです。ネバダくんは」
「惚れ直したか?」
「一秒単位で惚れ直していますよ。あ。キスします?」
「生徒指導に呼び出されるので却下」
「一緒に怒られましょうよ」
「却下で」
「……いけず」
むすっと不機嫌です、みたいな表情をするが、俺には関係ないね。
「彼女面はするなよ」
「ネバダくんは私の気持ち……知ってますよね」
「吊り橋効果の勘違いだろ?」
「空から降ってきた女の子を受け止めたら、男の子は命を賭けて守るものですよ」
「天空城じゃねえんだから」
「私にとってはそれだけの衝撃だったということです」
「さいですかー」
「好きですよ。愛しています。ネバダくんに全てを捧げます。存分に消費してください」
「エッチはありか?」
「私から頼みたいくらいです」
ああ。さいで。
濡れ羽色の黒髪をサラサラと流しながら、月影の女神と言われるだけの可愛さで、俺を篭絡する。その笑顔だけに一万ボルトくらいあって。俺としても女子と仲良くするのはジャスティスではあるんだが。こっちにも事情があるからなー。
「一応言っておくとだ」
「はいはい?」
「お前の運命の人は俺じゃない」
「ああ、ちょっと前に流行った……」
「俺はソイツの恋を応援するつもりだ。だからとっとと諦めろ」
「でもそれって私が承認しなければ意味なくないですか?」
「つまり俺との恋愛も俺が承認しないと……」
「大丈夫です。諦めない心に関しては誰よりも強いので」
まぁ頑張れとしか言えんのだが。
「アキラ先輩!」
で、俺とアキラが歩いていると、須藤カーマが駆け寄ってきた。須藤さん……というのも今更か。カーマは笑顔満面でアキラに接触し、嬉しそうに微笑む。
「おはようございます!」
「おはようです」
もち、アキラはカーマが彼女に惚れているとは思っていない。その想いを届けるために、俺がフォローする気になったのは何なのか。
「もう! 先輩! ネバダ先輩とイチャイチャしないでくださいよー」
「恋敵には容赦しませんよ? 私……」
「じゃあネバダ先輩を刺してください。任せてください。死体は私が処理しますのでー」
それを出来なかった奴がどの口で。
「ネバダくんは私のモノです!」
「えー。アキラ先輩は私のモノですよー」
「冗談が上手いんですね」
「キャラキャラ! でもアキラ先輩って魅力的だからー」
「私が好きとか?」
「愛していますよー。男とか性欲の塊じゃないですかー」
「ネバダくんも性欲持ってます?」
「そりゃ勃ちはするけども」
だからどうしたとしか言えないわけで。
「月影の女神は男に触れちゃダメなんです。その可憐さは女子にしか扱えない代物ですから」
「私が好き、と」
「大好きです!」
「じゃ、俺はここで。あとは二人でイチャコラしてくれ」
「ネバダ先輩空気読めるー♪」
いまさら流した血の量を語ってもしょうがない。恋堕の天使……須藤カーマが月影の女神を愛しているというなら仲を受け持つだけだ。
「ネバダくん。愛していますから」
「それはカーマに言ってやってくれ」
「何気に私のこと呼び捨てですかー?」
「気を使う仲でもないだろ」
「それもそうだー」
「何かあったんですか?」
「色々ありましたー」
「それでネバダくんに惚れたとか……?」
「いえいえー。私はアキラ先輩一筋ですのでー」
「そっちの趣味は無いんですけど」
「えー。でもネバダ先輩と恋仲になると角が立ちますよー?」
確かにそれも真理だ。ま、カーマがアキラを堕とすのが一番穏便なんだよな。




