表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/13

第12話:月影の女神の失恋


「え?」


「だから。俺たち別れよう」


 男の方がそう言ってきた。それでアキラは意味不明になった。月影の女神は愛した一人の男子から拒絶を突きつけられていた。


「なん……で……?」


「他に好きな人が出来た」


 月影の女神より可愛い女の子……ということらしい。受け入れられるわけなかった。でも相手はすでにアキラをオワコンにしていて。だからアキラには信じられなかった。


『アキラを愛している』


 そんなことを言ってくれた男子のソレが虚偽だったのか。アキラのことを愛していると言った口で、「別の女子を好きになった」と彼はそう言ったのだ。なんで。好きって言ったよね。覚悟も無く? 私を玩具にするために?


「だったらそっちにも覚悟を求めるよ」


 好きだった人。愛していると言ってくれた人。その人に電話をかける。


「もしもし」


「あぁ? アキラか? 別れたんだからかけてくるなよ」


「今から私はビルの屋上から飛びます」


「!?」


「止めたかったらビルまで来て私を抱きしめて」


 それが無理だと知っていて。けれどこれ以上愛を取り戻すためにベッドするチップは自分の命以上のものはなく。


「貴方が来てくれなかったら、私はガチで飛び降りる」


 そんなわけでアキラは覚悟で臨んで、ビルの屋上の縁に立った。


「へえ。死ねば?」


 だから男の言葉もあっさりとしたものだった。アキラがビルの屋上に立っていることをどれだけ実感として持っているのか。それすらも分からないレベル。死にたいなら死ねば位。理屈としてはそれだけのモノ。その責任を負う気が一切ない一言。だからアキラは飛んだ。


「もういいや。どうせフラれたんだから」


 そうしてアキラは飛んで、すぐに重力に捕まって落下。秒速二十キロで地面に激突あわや。そこで一人の男子に助けられた。まるでスーパーイケメンと言って過言ではないイケメン。それこそ伏見ネバダだった……らしい。それから元カレに振られて自殺未遂をしたことをネバダ……つまり俺に相談するアキラ。月影の女神とか言われていても、男子にフラれるのはかなり痛い。けれど、そこで漸くアキラは真実の愛を見つけた。


「ネバダくん♡」


 自分の命を救ってくれた人。あの飛び降り自殺をお姫様抱っこで迎え入れてくれた人。だからネバダくん……つまり俺はアキラにとって星の王子様に相違なく。


「ふむふむ」


 そうして俺はアキラに惚れられた。そのまま学校でも纏わりつかれ、他の女子との会話も禁止。ソクバッキーなアキラ節全開で俺を愛する。


「ふむ」


 で、アキラの失恋と俺との恋を脚色して小説にすると、そこそこのプロットは出来上がった。


 そして水炊きを食べる。俺とアキラ。それから砂漠谷エリ。


「ん-ん。美味しいね」


「アキラがメシマズでなくてよかった」


「メシマズだと思っていたんですか?」


「ヒロインの特権だろ」


 で、鶏肉を食って春菊を食う。


「それで、コレをドラマ性を加えて、三万字の小説にすればいいんだな?」


「イエス」


 じゃ、後は書くだけだ。執筆担当は俺。アキラはアイデア出し。エリに至っては何で此処にいるかもわからない。


「だから今は私はネバダを愛していますよ?」


「俺は何もしてないんだが」


「飛び降りた私をお姫様抱っこしてくれたじゃないですか」


「そんなことでいいのか?」


「乙女が惚れるには十分です」


「さいかー」


 気持ちはわからんじゃないが。好きな人に助けられるって惚れるしかないよな。俺は飛び降りたアキラをお姫様抱っこで救った。そのことを思わないアキラでもない。


「ネバダ♡ ……ネバダぁぁ♡」


 で、水炊きを食いながらアキラは俺にキスをしてくる。もちろん隣にはエリがいるのだが。


「ネバダくんは私の王子様です。アキラ姫を幸せにしてくれる最高の王子様です」


 然程の存在でもないんだが


「じゃあこれをドラマチックに三万字の小説にしましょう」


「プロットは出来ているから難しくはないのだが」


 実際に書こうと思えば書ける。


「私とネバダくんの恋愛ストーリー。直木賞は貰いましたね!」


 然程の執筆能力は持っていないのだが。


「でもネバダくんが助けてくれたから……今の私がいるんだよ」


「ネバダぁ……んちゅ♡」


 真剣に俺に惚れている宣言をしてくるアキラと、その視界内で俺にキスをしてくるエリ。俺の口内にベロを入れてディープキスをしてくる。俺の唾液を舐め取って、だが認知されないので、俺は普通にアキラの恋心を聞くだけだ。


「じゃ、そんな感じで編集して」


「へえへえ」


 そういうわけで、そうなった。


 彼氏に裏切られた女の子。ソレを助けた謎の男子。男子の正体は転校生だった。そして深まる愛。ラブラブの二人に、嫉妬する元カレ。


「お前は俺のモノだ!」


 未練タラタラで女の子に押し掛ける男子。


「いまさら何をしに来たんだ」


 そんな困っている女の子を助ける今カレ。つまり俺だな。


「いやッ! 私には既に愛している人がいるの!」


「関係ないな! 俺の女に戻れ」


 身勝手な男の言い分。で、ストーリーの中の俺が暴力で解決。


「愛しているぞ。アキラ」


「私も愛しています。ネバダくん」


 そしてお邪魔虫を排除して俺とアキラはハッピーエンドになる。死ぬまで幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。もちろんこれだけでは三万字の小説にはならないので、もうちょっと脚色する。だが概ねこんな感じの重めのラブコメを展開すればいいだろう。


「ところでその男子はなんでアキラをフッたんだ?」


「他に好きな人が出来たそうです」


 寝取られ~。寝取られ~。


「エリ的にはありか?」


「無し! あとこの水炊きは美味しい」


 鶏肉を食べながらそんなことをいうアキラ。


「じゃ、これで安藤先輩に提出するか」


「怒られませんかね?」


「実話に基づいたラブコメだ。なんだかなぁ」


「今の私はネバダ一筋ですからね?」


 その俺を愛しているアキラが、俺にキスをしているエリに気付かないというこの矛盾よ。


「飛び降りて。お姫様抱っこされるとは思いませんでした」


 却下ン視(サイドシーイング)は余計なことまで拾うからな。ま、別にアキラが地面と激突死しなかっただけでも俺としては助かった体ではある。南無三。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ