第13話:思わせぶりっ娘
「パイセン♡」
で、学校に持ち込んだタブレットで入部試験の小説を書いていると、今度は今度で厄介事がネギをしょって寄ってくる。ところで入部試験の小説ってAIに書いてもらうわけにはいかんのか?
「ちょっとお願いがぁ」
甘えるように……というか事実甘えて、モジモジしている乙女が俺に話しかけてくる。
「須藤さんは暇なのか?」
「失礼なー。パイセンとの愛に真剣ですよ?」
思ってもいないことを良く吐けるな。
「恋堕の天使と会話しているぞ」
「判決は?」
「死刑でよくね?」
衆人環視の嫉妬の視線が痛い。これで優越感を覚えるのは無理がある。そもそも恋堕の天使こと須藤さんは俺のことを何とも思っていない。
「そのー。昼休みに男の人に呼び出されましてー。恐いんで一緒してくれません?」
「断る」
「えー。ひどーい。パイセン。私がその男に乱暴されてもいいんですか」
「いい」
「…………」
その汚物を見るような目を止めろ。
「私怖いんですよー。パイセンにしか頼れないんですー」
「俺の側に付き合う理由が無い」
「パイセンのことを私はこんなに愛してるのに……」
だからその虚偽報告をだな。クラスメイトの俺を見る目が汚物を捉えるソレなんだよ。月影の女神と恋堕の天使を相手取って、双方にやれやれ系主人公をしている俺はギルティだろう。
「何かしたのか?」
「私って愛され系じゃないですかー。なので告白されることも多々でー」
「頑張れよ」
「お願いします。先輩。一緒に来て」
土下座はしないが頭は下げる。このままスルーしてもいいのだが、そもそもコイツが男をからかっているの今更で。その上で、今回の勘違いがどういう風に転ぶのかは俺にも予測がつかない。せめて相手がわかって俺の却下ン視で見れれば事態も分かりやすくなるんだが。
「じゃあ昼休みな」
「ご飯は奢りますので。焼きそばパンでいいですか?」
「屋上で飯か。それもいいな」
「じゃ、シクヨロデース」
俺の了解を取ると、言質取ったとばかりに舐め腐った態度に戻る須藤氏。まぁそれもアイツのいいところではあるんだが。
「小説はいいの?」
「今日はもう三千字書いたから一日の目標作業は終わってる」
とはいえ、なんで文芸部に入るためだけに架空のラブロマンスを俺が書かないといかんのだ。しかも自己の一人称でヒロインがアキラと言う。
「ま、いいかぁ」
そもそもエリも文芸部には興味あるみたいだし。これで四人ほどに部員が増えるというわけだ。学祭で同人誌を出したりするのか?
で、それはともかくと言うか閑話休題というか。
「須藤さん。俺と付き合おう!」
誰とも知らぬ男子生徒。その彼が昼休み。屋上で須藤氏に告白していた。俺はそれを眺めながら焼きそばパンを食べている。もちろん須藤氏の奢り。
「えーと」
モジモジして、愛の告白に嬉しい感情を覚えている……みたいな表情をしている須藤氏だが、俺の目には相手への嫌悪しか見えていない。
「ウザい。キモい。話しかけるな。汚らわしい」
須藤氏が男子生徒に思っているのはそんな感情。
「気持ちはとても嬉しいんですけどー。お付き合いはちょっと……」
「何でだ!? 俺のことを好きだと言ってくれたじゃないか!」
「えー? 言ってませんよ?」
「SNSで先輩に彼女がいなければなーって!」
「ちょっと恋に憧れがあって……その……勘違いさせちゃいました?」
そりゃ勘違いするだろうよ。名も知らぬ男子生徒が恋堕の天使に気を持たれていると錯覚してもおかしくはない。男に彼女の有無を聞くとか、惚れていると言っているようなものだ。けれどその上で、却下ン視で把握するなら……なるほどね。
「そういう問題じゃねーんだよ!」
激高した男子生徒が須藤氏に詰め寄って、その手首を握る。
「お前と付き合うために俺は常闇さんをフッたんだぞ!」
ああ、なるほど。つまり目の前の男子生徒はアキラの元カレ。彼女を投身自殺に追いやった元凶。で、その元カレがアキラをフったのは、思わせぶりにアプローチした須藤氏と恋仲になるため。ややこしいことに俺を巻き込んでくれたな。
「やめとけよ。強姦罪が適応されるぞ」
「なんだテメェ!」
「どこにでもいるモブ男子」
間違ってはいない。
「黙ってろ! これは俺と須藤の問題だ!」
「とは言ってもフラれただろ。その上で迫るのはちょっとな」
「コイツは俺のことが好きなんだよ! 相思相愛だ!」
「でも断られていたよな?」
焼きそばパンをモグモグ。屋上は徹底的に飛び降り自殺禁止のフェンスが造られており、一般的な生徒では乗り越えられない。なので米糠高校では屋上は解放されている。
「そもそもテメェは誰だ!」
「だからモブ男子」
それ以上の存在ではない。
「先輩~。助けてください。今私襲われていますよ?」
「刑事事件になったら助けてやるよ」
「既にレイプ案件なんですけどー?」
「なぁ須藤ちゃん? 俺のこと好きだよな? そう言ったもんな? 俺と付き合うよな?」
「えーと。謹んでごめんなさい~」
「テメ! クソ! お前のために! 俺は月影の女神をフッたんだぞ!?」
「それは私の責任ではありませんからー」
「まぁ自己責任だな」
俺も追従する。事態自体は俺も把握しているが、今回に関しては事故だと受け入れてもらうしかない。
「助けてー。先輩~」
「めんどいからヤダ」
「焼きそばパンくらいは役に立ってくださいよ」
「どっちにしろ俺がここにいる以上、そいつは暴行できないだろ。犯罪やったらそのまま終わりだぞ」
「じょ、冗談だよな? 須藤ちゃん……。俺のこと好きって……?」
「言ってません。勘違いさせたのなら謝りますー」
小悪魔みたいにテヘッと舌を出して、残酷な事実を提議する須藤氏だった。
「う……あぁ……ああああぁぁぁぁ」
で、脳破壊された男子生徒は、この現実を受け入れられないのか。偏頭痛に襲われて、悪夢のような光景に幻視している様だった。
「おい。須藤さん」
「なんですか? 先輩?」
「ちょっとスマホ見せろ」
「えー。乙女のプライバシーは常に特秘事項ですよー?」
じゃあこっちにも考えがある。




