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第104話:アンデッドとはどういう存在か


 ピンポーン。


「ん?」


 今日はキムチ鍋をしながら食卓を囲んでいたのだが、生憎とタイミングよくインターフォンが鳴った。キムチって乳酸菌で発酵しているらしいな。ヨーグルトの親戚かよ。


「お客様ですか?」


 モグモグとキムチ鍋を食べながらカーマが問う。


「面倒ごとの予感」


 とエリがジト目になる。


「……拙が出ようか?」


 危機感を覚えて聞いてくるレアス。俺が威力使徒に狙われていることは確定なので、来客にも相応の備えは必要だ。


「じゃあよろしく」


 俺は白菜をヒョイと鍋からとりながら応対をレアスに任せる。


「ネバダ。そっち寄って」


 で、俺の隣で鍋をつついているカーマが俺にすり寄って、だが冷静に鍋をつつく。


「あ、はい、はい」


 で、インターフォンで応対したレアスは安堵の表情で。


「誰だった?」


「常闇さんでした。着替えを持ってきたから開けてくれって」


「…………」


 それで俺の箸が止まる。却下ン視(サイドシーイング)は何も作動していないが、何かこう嫌な予感。俺の状況と、リンカの思惑、ついでアキラが考えそうなこととなると。


「失礼するぞ」


 あっさりと開錠したレアスの安易さを責める気には俺にはなれず。イモータルキャンセラーを握ったリンカが俺の部屋にズカズカと上がるのも規定内。


「ッッッ」


 で、事態を重く見たカーマが俺の前に立ちはだかり、リンカを制止するように腰に抱き着いたのがレアス。


「鬱陶しいな」


 それらを無視することも出来ず。威力使徒である限り、一般人には攻撃が出来ないのだ。


「何しに来たの?」


「神敵を誅しに来た」


「させると思う?」


「お前の意見は聞いてない」


 ただ俺が教義違反だから殺す。それ以上の感情はリンカには無く。


「ふーん。頑張ってね」


 俺はキムチ鍋を食べていた。今日は奮発して海鮮の食材も入れていたので、タコとイカの出汁が出ている。


「どけ。邪魔だ」


 大きめのパイルバンカー……イモータルキャンセラーを構えながら鬱陶し気にカーマとレアスを見る威力使徒。もちろん呪術誓約で一般人には攻撃できないので、無理矢理排除という手段もとれないわけで。


「そいつが何なのか分かってんのか?」


「伏見ネバダ……でしょ?」


「アンデッドだ」


「それは……聞いてるけど」


「おい。話してねえのか? ベルゼバブ?」


「知らなくていいこともあるしな」


 良く煮えた豚肉をモグモグと食べながら、俺は余裕で言う。


「アンデッドがなんで神敵認定されていると思う?」


「不死……だから?」


「人を襲うからだよ」


 ??? ……とカーマとレアス、それからエリが疑問を浮かべる。俺が人を襲ったことがないので事実を想像できないのだろう。


「アンデッドはな。人脳を食べる化け物なんだよ。ここ百年ほどで多くの犠牲者が出ている」


「本当? ネバダ?」


「嘘ではないな」


 それにも理由はあるのだが、アンデッドが人の脳を食べるのはれっきとした事実。


「だから滅ぼさないといけない。人間の脳を食べる化け物をこの世に肯定してはいけない」


「でも。ネバダは……」


「そうやってお前が肉壁になることを想定して、人を襲っていないだけなんだよ。自分が無害ですって主張して、お前を盾にして身を守っているのがベルゼバブだ」


「ベルゼバブ……」


「ハエの魔王の異名だ。魔王番台と呼ばれる六十番台のナンバリングでな。創始者の悪意を受け継ぐ凶悪な個体だ。ソイツがその気になれば都市一個くらいは一晩で壊滅する。ヨーロッパでは一日経たずにアンデッドに殲滅された集落が両手の指では数えきれない程度の被害が出ている」


「……ネバダ」


「嘘ではないぞ。俺はやってないが」


「は! それもその気が無いからやってないだけだろ?」


「それも否定はしない」


「ネバダ先輩……」


「……ネバダ……」


 カーマとレアスに動揺が走る。俺を信じ切れなくなっているのだろう。アンデッドという存在が人を襲って人脳を食べるのは本当だし、その被害が世界中で勃発しているのも本当ではあるのだが。


「だからどけ。そいつが新しい人間の脳を食わない内に」


「「…………ッッ」」


 それでも二人はどかなかった。俺を信じてる……というより信じたいのだろう。伏見ネバダがそんなことをしないと、心のどこかで信じたいのだ。


「頭わりぃなぁ。そいつは人を襲う化け物だぜ?」


「でも、ネバダ先輩は私を助けてくれたんです」


「……拙を愛してくれた」


 はっ、とリンカは鼻で笑う。


「それもこれもお前らを肉壁にするために洗脳した結果だな」


「違うよね? ネバダ先輩はそんなんじゃないよね?」


 縋りつくような瞳のカーマが印象的だったが。


「残念ながらリンカの言論が本当だな」


 俺は威力使徒に襲われた時に肉壁にするために月影の女神や恋堕の天使や高嶺の唯華を篭絡した。その事を肯定はしても否定はしない。


「なん……で……? 嘘だって……言ってよ……」


「……ネバダ……違うよね? ……拙を……そんな」


「じゃあ気は済んだろ。どけ」


 俺に裏切られた。そのことをどうにも肯定できず。俺がカーマやレアスを裏切ったことを肯定する、その意味を彼女らは知らなくて。


「殺そうか? ネバダ」


 追加で席を設けていた砂漠谷エリが、キムチ鍋をつつきながら俺に聞く。


「あー……大丈夫じゃない?」


 なので、俺から言うこともさほどではない。


「騙されるお前らが悪い」


 無気力に、押しのけられて無力化される肉壁。そのまま俺はキムチ鍋をつついて、然るべき執行を待ったのだが。ソレは訪れなかった。


「ダメですよぉ。リンカさん。ネバダくんは私のモノです。私以外の誰にも傷を付けさせません」


 にこやかな笑顔でナイフを握っているアキラ。その晴れやかな笑顔とは対照的に、彼女はそのナイフをリンカの首筋に刺していた。まるで殺人を懸念でもしないように。


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