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第103話:カルマちゃんの思うこと


「千八百円になりまーす」


 闇のカルマちゃんの仕事場でのこと。俺は普通に彼女のシフト終わりを待って、それから合流する。俺としてはカーマが心配だからということが大きいのだが、カーマはカーマで俺が心配らしい。


「…………」


「手に汗かいてるぞ」


「先輩は命を狙われているんですよ?」


「あー……まぁ」


 だから何程度にしか思っていないのだが。


「どうして警戒しないんですか?」


「あんまり危機的状況じゃないから?」


「イモータルキャンセラーに刺されると死ぬって言ったのは先輩じゃないですか!」


「それは俺じゃなくてもアンデッドだったら死ぬから」


「説得する気ゼロですか?」


 納得しろと言われても、そもそもの思考の次元が違うのだ。


「先輩は殺されてもよくないんですよね?」


「ツクモに会うために生きているようなもんだしな」


「それはそれで無理筋な気がしますけど」


 死者の再現。でも、別に百パーセントがツクモでなくてもいいのだ。俺の望むツクモであればそれでいい。


「そのツクモさんに会うまで死ねないでしょう?」


「そういう理屈になるな」


「じゃあ生きないといけませんよね?」


「それも都合だな」


「じゃあ私が死んでほしくない理由も分かりますよね?」


「だからさ」


 俺は繋いでいるカーマの手をギュッと握る。


「威力使徒は一般人に攻撃できないんだから、お前が盾になればいいだろ」


「私は捨て駒ですか!?」


「だから物理的というか因果的に攻撃できないんだって。墓穴効果は解呪以外の方法で脱却は出来ないから、お前が盾になれば百パーセント威力使徒は手詰まりなんだよ。打つ手が無いから誓約を破ろうとか思って破れる代物じゃねーんだよ」


「むぅ。でも」


「ある意味でお前らがいれば俺は安心ってことだな」


「じゃあ先輩を助けるために私はガチになりますよ」


「精々頑張ってくれ」


「その。そのためにもですね」


 俺とつないでいる手を、カーマの側からギュッと握った。


「私のモチベーションを上げてください」


「どうすればよろしいので?」


「自分に聞けばいいんじゃないですかね? ――んんッッ」


 不機嫌そうに毒づくカーマの唇を奪って、その乙女にキスをする。


「大好きだ。世界で一番カーマを愛してる。だから俺を守ってくれ」


「…………叙述トリックのくせに」


「今のこの世界で、お前が一番であることは嘘じゃない」


「誰にでも言ってるんですよね」


「お前が俺を許してくれるから」


 最後にボソリと耳元で。


「……ボソボソ(本当はお前が一番だぞ?)」


 言った瞬間、カーマが真っ赤になって、アワアワと慌てだした。思ったよりも効いたらしい。


「本当……ですか?」


 飼い主に愛されているか懐疑的な愛猫のように困惑するカーマに。


「俺を信じろ。お前を裏切ったことあるか?」


「何度でもありますけど」


「じゃあ別の奴に守ってもらうか……」


 俺が興味をなくしたように前を向くと、


「ッゥッ」


 握っている俺の手を引いて、自分の方に引き寄せ、カーマが俺にキスをする。


「しょ……しょうがないから騙されてあげます。ネバダ先輩が私を利用しているのは知っていますけど、ちょっとだけ信じてあげます」


「いい子いい子」


「ほらぁ。すぐ調子のいいことを……」


「好きだぞ。カーマ。愛してる」


 だからぁぁ、と悩まし気にカーマは言う。


「そうやって女の子を篭絡するんですから……」


「じゃあどうしろってんだよ?」


「私の処女を奪ってください」


「呪術誓約で無理」


「つまり私が一番じゃないじゃないですかー」


「この世界では一番だって」


「都合のいいこと言って……。それで何人堕としてきたんです?」


「恋堕の天使に言われるとおま言うなんだが」


「可愛い女の子がうぶな男の子をからかうのは日本国憲法で認められています」


「男は狼だと聖書に記されているんだぞ」


「食べていいとは書いてませんよね?」


 まぁアレも言ってしまえば曲解した表現だがな。


「だから威力使徒が襲ってきたら、その時は頼む」


「私の命を賭けます」


「賭けなくていい」


「花京院の魂の方がいいですかね?」


「勝手すぎるだろ」


「墓穴効果ですっけ? アレで何とかならないんですか?」


「なると言えばなるが、あんまり推奨は出来んな」


 人を呪わば穴二つ掘れ。


 これはつまり相手を不幸にするなら自分も同じだけ不幸になれという言葉だ。危険を示相させるものではなく、物理的に、即物的に、因果的に、必ず後悔する手段だと啓示する言葉である。人を呪う時は絶対に自分も後悔しろというクソシステムである。砂漠谷エリがいい例だ。誰よりも美少女なのに、誰にも相手をされない孤独。リンカもそう。俺を殺すために、一般人には無力になった。俺はその間隙をついて、一般人を味方に引き込んだのだ。そもそも俺だって事情が無ければ貞操の一つや二つ、どこかで取り落していても不思議ではない。まぁ俺の場合は童貞であることに懸念が無いので呪術誓約でデメリットが顕在化していないちょっと特殊な例でもあるが。


「先輩が死ぬのは嫌です」


「俺も俺が死ぬのは嫌だ」


「なんでリンカさんを家に招いたんですか」


「スーパーマーケットで買い物したまま安売り卵を台無しにせずに相手を巻く手段が無かった」


「そこは卵を諦めてください」


「ワンパック百円だぞ? 割ったらタタリが起こる」


「不死身なのに怖いんですか?」


「超怖い」


「ほんッッッとうぅぅぅに先輩はぁぁぁ……」


「愛してるぞ。カーマ。だから俺を守ってくれ」


「仕方ないので先輩の盾になってあげます。あくまで仕方なく、ですよ?」


 正直威力使徒の墓穴効果はほぼ確定なので俺としては懸念の材料はそんなにない。ぶっちゃけ家に帰ればカーマ以外にもエリやレアスもいるし。アキラだっているのだから。


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