第101話:ストーカーというかなんというか
「で、今日の飯は……」
ざるそばにでもするか。出汁はあるし、ネギと調味料もあるし。アキラは一回帰って、それから下着を取ってくると言っている。俺の家に泊まることを両親が納得しているかは別だが、なんにせよアキラの我儘を両親は制止できないのだろう。
「とすると天ぷらも欲しいが……これは出来合いでいいな。スチームクッカーでカリカリにするか」
そんなわけでヒョイヒョイと食材をかごに入れて、それから決済。俺は意気揚々とスーパーマーケットを出ようとし。
「あ」
「あ」
そこでリンカに出会った。相手は買い物かごを持っており、これから買い物をするらしい。たしかに飯は食わんとどうしようもないので、リンカがスーパーマーケットを利用するのも不自然ではないのだが。
「貴様!」
「ここで騒ぐと出禁になるぞ」
俺の常識的な一言に、グッと呻くリンカ。本当に俺が数歳ほど年を取ればこうなるだろうなという容姿。俺の双子の兄なので当たり前っちゃその通りだが。周囲の人は俺とリンカの邂逅に何も思っておらず。今日の晩飯をどうするかだけ考えていた。
「じゃあな」
特にグダグダする理由も無く、俺はそのまま去っていこうとし。
「…………」
その後ろをついてくるリンカ。
「何か?」
「お前の家を特定する」
「やめた方がいいと思うが」
あそこは魔窟だぞ。
「ベルゼバブはどうやって女子を篭絡したんだ?」
「単に結果が付随しただけだ」
大仰なことをした覚えはない。
「だがツクモを……」
「殺されたいのか?」
「お前に殺すという手段があったのか?」
「たしかに無いと言えば無いのだが。で、いつまで付いてくるつもりだ」
「ネバダの家を特定するまで」
さいですかー。ご苦労なこって。
「夕飯は買わなくていいのか?」
「後回しだ」
特に隠す程のもんでもないのだが。
「言っておくが刺されても文句言うなよ」
「刺されるのか?」
「可能性的には無いでもない」
「ま、俺は誰にも負けないがな」
それも神敵限定だろ。
「ベルゼバブはどうしてここに?」
「陰陽省に頼まれて。半村領域の調査は俺向きだし」
「貴様が?」
「何か提言があるなら聞きますが?」
「特にないが……お前がね……」
何か失礼なことを言われている気がする。
「ここにイモータルキャンセラーがあれば……」
だからそんなもん撃ったら警察沙汰にだな。
「お帰りー………………ネバダ?」
シャワーを浴びていたのだろう。下着姿のエリがいた。お前はよぅ。
「ここがベルゼバブの家……いいところに住んでるんだな」
もちろんエリを視認できないリンカには何も言えない。
「どうしてお兄様がここに?」
「ついてきた」
「居場所バラすのはマズいのでは?」
そうではあるんだがなー。
「ま、気にするな」
「刺していいですか?」
「せめて外でやってくれ。俺は勘弁だ」
「たまにネバダが何を考えてるか分かんないんだけど」
いいだろ。別に。俺はそのままリンカを上げて、そのまま夕食の料理にとりかかる。とは言っても乾麺のそばを茹でて、サラダとスープを用意するだけだが。
「…………」
「…………」
カーマとレアスも微妙な表情をしている。俺と殺し合いの関係にまでなったリンカを警戒しているのだろう。有難い話だが、ここで殺すのは勘弁な。
「ネバダ先輩?」
「はいはい」
「なんで敵がここに?」
「一緒に飯を食いたいらしい」
「殺してもいいんですよね?」
「ただし血の一滴も出さない方向でな」
「むぅ。難しいですね」
「……頸動脈でも……止める?」
まぁそれが一案か。
「マジで言ってるのか?」
「貴方を殺すのに理由はいりませんよ?」
「……生きているだけで……邪魔」
「愛されているな。ベルゼバブ」
「人間を篭絡させるのも魔王の仕事ですので」
「マジで殺していいか?」
「俺に許可を求めるな」
「ツクモを殺しておいて……」
「あれは自殺だ」
「お前が追い詰め――ッッッ!」
「「…………」」
俺を糾弾しようとしたリンカが、サラダについていたフォークに切っ先をカーマとレアスに向けられる。威力使徒は神敵と戦う能力を得る代わりに、一般人を攻撃できない。
「で? お話の続きは?」
ニコリと微笑むカーマだが、目が笑っていない。余計なことをすれば刺す。誰でもわかるような悪意で、そう言っていた。
「そいつは魔王ベルゼバブだぞ?」
「ええ。そう聞いています。不死身のアンデッドだとか」
「お前らはその化け物に惚れているというのか?」
「愛していますよ?」
「……愛してる」
「ベルゼバブは?」
「好きだぞ?」
問題はその好きが、俺とヒロインでは密度が違うことくらいか。
「不愉快だ」
怨敵で見つめるようにリンカは俺を見た。
「じゃ何時でもかかってこい。攻撃はしないがやられる気もそうそうない」
リンカが何を思って俺を敵視しているのかは知っている。ただそれは俺の方も同じで。リンカさえいなければ俺はツクモと相思相愛になれていたのだ。果たして怨敵は?




