あと33日
NTR進捗状況
駿の不安を正が解消する。
田中 正 :主人公、
橘 鈴 :幼馴染、寝取られる。
金谷 駿 :イケメン、クラスでは人気者、幼馴染とフラグ建築中。漫才をやりたい。友達の彼女に手は出さない。
「ああやだよやだよ、漫才なんてやだよ。人前なんてやだよ。ウケなかったらどうしよう。なんでこんなことしなきゃいけないんだよ。そうだ逃げよう。いやでも逃げたら今度教室に行くときにどんな顔をすればいいんだよ。逃げたいよでも逃げられないよ。」
体育館の舞台の袖でネガティブな独り言が延々と繰り返される。もうすでに体育館にはちらほらと学生服姿の客たちが集まっている。制服はこの学校のものがメインだが他校のものもいくらか混ざっていた。当然、正たちの学校の制服もそこに含まれる。
「ああ、なんで漫才やるなんて言っちゃたんだろ。ノリなんだよついノリで言っちゃったんだよ。深くなんて考えてないんだよ。」
「はー、ちっ、いい加減うるさいんだよ。そんなことする暇あったらさ、ネタの復習でもしろよ。」
舞台袖の空気が悪くなる。何もそこまで言わなくてもいいのに、正と駿は他人事ながら心配になる。本番を前にあんなので大丈夫なのだろうか。
「でもさ、A太郎。やっぱ俺の考えた漫才なんてどうせつまんないよ。ああ、なんで俺は漫才勝負なんて提案しちゃったんだよ。」
他校のコンビ、QアンドAの一人Q助が泣きごとを言う。初対面の時はあんなに自信満々で正が苦手に思うほどだったのに本番を前にして極度にネガティブになっている。それに対して、こちらも意外なことにあんなにびくびくしていたA太郎がきつい言葉でQ助のケツを叩く。
「面白いとかさ、つまんないとか関係ないだろ。お前は恥をかくのが嫌なだけだろ。」
図星を突かれてQ助が頷く。その態度にA太郎は続ける。
「だからさ、僕が一緒に恥かいてやるって、いつも言ってるだろ。漫才なんてさあ、いつ滑るか分かんないんだからさあ、そんなことで悩むなよ。二人で恥かいたら、そんなのただの笑い話だろ。」
きつい態度はそのままにA太郎は言葉でQ助を励ます。だからこそ本気なのだと分かる。A太郎の言葉を聞きQ助も覚悟を決めたようだ。
「うん、わかった。頑張る。でも絶対に逃げちゃだめだぞ。最後まで一緒に恥かいてもらうからな。」
Q助はそう言うと、客が待つ舞台へと進む。その背中を確認しA太郎も続く。その短い間にA太郎が少しだけ教えてくれた。
「Q助はさ、本場の前はいつもあんなだから、僕が引っ張ることにしてるんだ。いつもは逆だから。」
さっきまでの態度がまるで演技だったかのように最初に受けた印象のままA太郎は言った。
僕たちコンビもいつかあんな関係になれるのだろうか。正はまだ先を行く二人の背中に目を細める。体育館の舞台を照らす照明がいつもより眩しい。
「どーもーQ助です。」
「どーもーA太郎です。」
「俺たちってコンビ組んでから結構長いよな。」
「うんそうだね、もう2年ぐらいかな。」
舞台に上がった瞬間に二人のスイッチが入った。あの二人を見て袖にいた時の雰囲気を想像できる人間がいるだろうか。
「それでさ、言い難かったんだけど、俺、A太郎に言わなきゃいけないことがあるんだ。」
「え、なに、そんなに改まって。」
「実はさ、俺、コンビを解消しようと思うんだ。」
「え?」
「怒らないで聞いてくれよ、俺さネットの友達に忠告されちゃったんだ、バカと付き合うとバカになるぞって。」
「そっか、それは仕方ないね。Q助がそれでいいなら、僕はいいよ。」
「え、いいの。ていうかA太郎は怒らないのか。」
「はは、僕が怒るわけないじゃん。でも、そっか、気付いちゃったんだね、Q助。自分がバカだって。」
「え?」
「え?」
舞台の上では二人が大げさな演技で驚いたふりをする。そう言ったオーバーなリアクションでネタの面白さを僅かでも底上げしようとする努力が正には分かる。二人の思惑通りに集まった生徒たちから笑いが起こる。
「いや、この話の流れならA太郎がバカだって話になるだろ。」
「いや、僕がバカなわけないじゃん。Q助のバカが僕に移らないようにするって話じゃん。今のは。」
「じゃあ、どっちがバカかはっきりさせようぜ。クイズで。」
「いいとも、Q助がバカだってこと証明するよ。クイズで。」
恐らくこういった流れで強引にクイズ漫才に持っていくのが彼らのいつものやり方なのだろう。漫才がクイズに移行したところで彼らをよく知る同級生たちから拍手が沸く。その会場からのエールに少し二人の表情が軽くなった。やはり緊張はそう簡単には消えないのだろう。それでも積み重ねてきた練習があれだけの形になって報いてくれているのだ。正は改めて彼らと自分の長年の努力の差を思い知った。
「じゃあ、俺からいくぞ。クイズです。ポルトガル人のバスコ・ダ・ガマがインドに行った際に通ったアフリカ大陸の南端の名前は『き・・・』何でしょうか。」
「き、き、き、きーーーー、まかれー。」
「キーマカレーはカレーの名前だろ地名じゃないだろ。あとインドじゃなくてアフリカ大陸だから。」
「いや違うよ。キーマカレーって言う地名があるんだよ。木間さんがカレーを食べた場所で有名になった場所が。」
「なんで、アフリカで木間さんがカレーを食べるんだよ。そして、なんでそれで地名になるんだよ。」
「分かった、今回は僕の負けでいいよ。それじゃあ次は僕がクイズを出すね。じゃじゃん、クイズです。イギリスが中国との貿易で紅茶を輸入する代わりに麻薬を輸出したことで起こった戦争の名前は『あ・・・』何でしょうか。」
「あ、あ、あーーめりかおうだんうるとらくいず。」
「どっからアメリカ出てきたの。しかも戦争じゃなくて、それクイズ大会だよね。」
「ちげーし、あの番組は戦争並みに盛り上がるし。」
「戦争とクイズ大会は盛り上がるベクトルが全然違うよね。確かにあの番組に出ている人は真剣だけど、戦争はもっと死に物狂いだよね。」
「ちっ、分かったよ。俺の負けでいいよ。でもまだ1対1だから、イーブンだから。まだどっちもバカだとは証明されてないから。」
「ああ、分かったよ、どっちがバカかわかるまでとことんやろう。」
二人が慣れた掛け合いで漫才を進めていく。今の会話を見ればもう結論は出ているだろうと観客たちは誰もが思っているだろう。そういったツッコミを客にさせることで一体感を生み出していることに正は気付いた。よく練られたスタイルだ。正直に言うと勝てる気がしない。でも負けるつもりはない。正と駿はライバルの心配をするのを止め、自分たちのネタの確認を始めた。
「いやー、負けたね。」
「ああ、ぼろ負けだ。」
正と駿は帰りの道すがら今日の感想を言い合った。足の速い夕日はとっくに沈んで、今は遅れて来た月が町を照らしている。そんな暗い街を二人で帰る。
「もっとやれると思ったんだけどなー。」
駿が悔し気に、でもどこかすっきりした声で言う。正は駿を追い抜いて前を向いたままそれに答える。
「でも仕方ないよ。僕たちじゃ全然足りなかった。」
場を温めてくれたQアンドAのおかげで場が白けることは無かったが、もしもそれが無かったらひどい有様になっていただろう。それぐらいに完敗だった。駿も同じ意見なのか黙って歩いている。駿が今、どんな顔をしているのかは分からない。でも何を言うべきなのかは分かる。
「だからさ、次はリベンジしよう。ぜったい。」
正は振り返らずに言った。約束するのに相手の顔色など気にする必要はない。だってこの約束はきっと駿だって望んでいることだから。約束する二人が望んでいるのなら、その約束が破られることなんてあるわけがない。
「そうだな、そうだ、次はリベンジだ。盛大にリベンジしてやる。」
駿が嬉しそうに言う。
きっとこの約束を正は一生忘れないだろう。もしも僕が忘れてしまったら、あと知っているのは駿と、そして、空で僕らを見ている、お月様ぐらいなのだから。正は何となく思い出した古い洋楽を鼻歌で歌う。4人の少年たちが死体を探しに線路を歩く、そんな映画の主題歌。僕たちは2人だけれど、ここから始まる冒険は、きっと映画に負けないぐらいの大冒険になる。そんな気がした。
もしも、正と駿がいつかこの時のことを忘れてしまっても月だけはいつまでも覚えているだろう。きっと。




