あと41日
NTR進捗状況
輝が正へのいじりを再開しようとしたところを駿が止める。
田中 正 :主人公、
橘 鈴 :幼馴染、寝取られる。
金谷 駿 :イケメン、クラスでは人気者、幼馴染とフラグ建築中。漫才をやりたい。友達の彼女に手は出さない。
黒川 輝 :チャラい、イケメンの取り巻き。演技派。駿の漫才の相方。
いつものホームルーム前の騒がしい一時、しかし、その中である一角だけが普段なら想像もつかない光景になっていた。
「えー。だってさー。駿って、俺のこと嫌いじゃん。ならさ、おともだちの正と一緒に漫才やればいいじゃん。」
「だからホントごめんって。輝じゃなきゃ、俺の漫才ライブできないって。ほら、あんなに練習したんだからさ、もったいないじゃん。」
駿が輝のご機嫌を窺うようなことを言っている。いつもは輝が一方的に人気者の駿の取り巻きのように振る舞い、その上下関係はもはやクラスの常識だったのに。これは冬に霰の代わりに煎餅が降ってくるくらいの天変地異だ。クラスでのカースト順位が人生の重要度の上位を占める高校生にとっては、世界のルールがまさに変わったと同義なのだ。
「ほら、正、来てんじゃん。じゃっ、あとは若いお二人でー。」
そう言うと輝は話は終わりだと駿から離れる。そのくせ駿の視界に入る場所にとどまり駿が焦っている様子を見てほくそ笑んでいる。
「駿、大丈夫?」
「ああ、正か。いや、参ったわ。輝が急にへそまげちゃってさ。いや、大丈夫だよ。輝のことだからすぐに気が変わるさ。」
駿は強がってみせるがそう都合よくいくとは思えない。輝が突然へそを曲げたのは昨日の一件が原因だろう。せっかくの楽しみを駿が邪魔し、そしてさらには駿がその場の空気をすべて持って行った。それは改めて輝と駿のクラスでの差を見せつける形になり、余計に輝の神経を逆なでしたのだろう。
「でも、もう学園祭は明日だろ。輝がやめるって言ったら代わりなんて。」
「大丈夫、大丈夫。もしもの時は一人ライブで何とかしてみせるって。」
それは無理があるだろう。漫才にはそれほど詳しくない正にだってシングルとコンビとでは漫才のやり方が全く違うことは分かる。しかも一人でやる練習やネタ作りだってやってこなかったはずだ、それを昨日の今日で何とかするなんて。
「大丈夫だって。」
確認するようにそう言う駿を輝が面白そうに盗み見ている。
昼休み、正は一人決意を固めて輝に話しかけた。駿がいないタイミングは今しかない。もし駿が見ていれば間に割って入って失敗に終わる可能性がある。危険かもしれないがこれは一人でやった方がいい。
「輝、ちょっと話があるんだけどいいかな。」
「えー、俺はないしなー。忙しーし。」
予想通り輝がもったいぶった言い方でこちらの反応を見ている。
「そう、学園祭の話だったけど。ならいいや。」
正はなるべくそっけなく聞こえるように言って教室から出ていくと、輝が慌てたように追いかけ来た。
「うそうそ、じょーだん。俺と正の仲じゃん。そんな怖い顔するなって。」
思った通りだ。輝のこの無敵期間は学園祭が終わるまでの期限付き、ならば目いっぱい楽しもうとするはず。せっかくおもちゃから近づいてきたのだから、それを逃すはずがない。あまり時間がないので輝に変に焦らされる前に話を始めようと一旦引いてみたが、予想通りについてきた。
「それでー、なんの話。つーか、なんか最近えらそーじゃん。」
暗にもっと下手に媚びた態度をしろと言ってくる輝を無視して正は本題に入る。
「輝は、昨日のことを怒ってるの?」
「えー何それ。わけわかんないんだけど。」
輝がキレ気味に答える。輝と駿の格の違いを見せつけられた昨日の一件は確かに原因だろうが、それを指摘されるのは嫌なのだろう。反射的に否定の言葉が輝の口から出る。
「そう、それならよかった。それじゃあさ、僕の提案にも乗ってくれるよね。」
正は一転して安心したという顔を作って話を進める。それに虚を突かれた輝は反応に困りあいまいに返事する。正は輝の反応に予定通りにことが進んでいる手ごたえを感じる。輝が最初から拒否の姿勢を取るとこちらがどれだけ魅力的な提案をしても、最初の判断に固執して説得に失敗する可能性がある。そこを回避するためには取りあえず輝を驚かして最初の関門を回避する必要があった。
「輝はさ、明日と明後日の学園祭が終わったらどうするの?ほら今、駿と微妙になってるでしょ。学園祭が終わったらまた仲直りして元に戻ろうとしてるの?でも、それっていけるかな、今回結構、駿と険悪になっちゃったよね。」
輝の顔が怖い表情になる。だが正には分かる、その仮面の下には不安でパンパンに膨らんだ顔が隠れているのを。今、正の手にはつまようじが握られている。正が持てる武器と言えばその程度でしかない。だから、そのつまようじが致命的に見える状況にするしかない。
「それってさ、結構、怖いよね。僕は分かるよ。だって僕も前まではその場所にいたから。」
輝の目が揺れる。仮面を押し上げるほどに膨らんでいる。正が振り回すつまようじ程度の脅し文句でも十分に怖いだろう。チャンスは今しかない。
「でもさ、これってチャンスだよね。」
藁を一本、水面に落とす。静かな波が広がる。普段なら見向きもしない魚も、それしか食えるものが無ければ食いつくしかない。
「輝ってさ、クラスじゃ駿の腰ぎんちゃくって思われてるでしょ。ごめんごめん、別に悪い意味じゃないよ。なんて言うかナンバー2って感じでかっこいいじゃん。でも今回みたいなことがあると、やっぱり不安でしょ。輝自身が駿ぐらいに人気を持つ必要があるんじゃないかな。漫才ってさ、ボケの方が面白いって思われるでしょ。輝、今回の漫才で面白いって、そういう評価になったらさ、もう駿に頼る必要、無くなるんじゃない。だから、今回のはチャンスなんだよ。それに、今はこんなものもあるし。」
正はスマートフォンを取り出す。
「これで輝が面白いところを切り抜いて編集したら、輝はもうクラスの人気とか気にする必要なくなるんじゃないかな。もっと外の世界で認知されれば、ちっちゃなことを気にする必要なんてなくなるよ。」
正がバラ色の未来を語る。そんなにうまくいくわけがない。でも不安を抱えた人間は失敗する未来よりも成功する未来を夢見がちだ。そこにうまく付け込めれば。
「そっか、そうだよ、俺はこんなところでくすぶってる人間じゃないんだよ。」
輝は秘めた何かが刺激されたのか、正が思った以上に反応する。あとは煽るまでもなく輝のテンションは上がり続けた。
放課後、駿に輝が話しかけている。
「どうしたんだよ、駿。朝のは冗談だって、な。」
輝が上機嫌に言っている。あまりの変わりように駿は面食らっているが最悪を回避できそうな様子に深く考えずに喜ぶ。これでもう大丈夫だ。正は思った。そう思おうとした。
何かが引っ掛かる。輝が漫才に協力したのは最初から自分の地位を上げるためのはずだ。それを忘れて、駿を困らせる快感に酔っていた。正は思い出させただけ。だが、輝はそんなに単純な人間だろうか。輝が近づいてきたとき、僕は最後はすっかり信用していた。ただのバカだと侮っていた。また、同じ失敗を繰り返してはいないのか。
正はもう一度、輝の顔を見た。




