表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/403

第38話 サウナで修行!

 5月18日 月の日 10時10分 ネーヴェ地区


 今日の修行は訓練場とは別の所でやると言われて少し心がウキウキしながら師匠に付いて行く。王都北の壁外に出ると初めて見るお店に到着した。

 そこは男と女で入るところがわかれていて、湯浴みっていう布面積が少なくて濡れてもいい服に着替えることになった。

 最初はどんなお店かわからなかったけど、寮の浴場と似た部分もあったからすぐに繋がった。こういう場所だと全裸じゃなくて湯浴みが必要なんだと少しかしこくなれた。

 ガラスの扉を開けると、寮にもあるお風呂がいくつか見えて師匠はお風呂には目をくれず石製のドアを開いたので、いっしょに入ることに。

 そこはモアモアと熱く白い水蒸気で満たされている部屋。

 綺麗に切りそろえられた石材で床や壁が作られていて、座れそうな長い椅子も石でできていた。


「ここっていったい……?」

「ここはサウナよ。今日はここで修行をしてもらうから」

「サウナ……? こんな熱いところでできるんですか?」


 わたしの修行は魔力の放出を抑えること。これじゃあ体力とかを鍛える修行になっちゃいそう。


「魔力の有無がここならわかりやすいからよ。いい? 見てなさい」


 沢山石が積み重なっているところに水をパシャってかけるとジュワって音が鳴ると同時に水蒸気が凄く湧いて出た

 その上に師匠は右手をかざすと。


「あ──!」

「気付いたわね? 魔力で水蒸気の道を塞ぐことができるのよ」


 手から出てる魔力が蓋になって蒸気が上まで昇ってない!


「同じように魔力を纏っていると肌に水蒸気が触れない。視覚的にも感覚的にもわかりやすいってこと。虚の状態だと環境の情報が直接肌に届くから、小さな刺激にも驚いて思わず魔力で守ろうとする。虚をマスターできたとしても鉄雄の黒霧に触れて魔力を溢れさせたら意味がないのよ」

「つまり、虚の状態でここの環境に慣れることができなければテツの黒霧の中で調合ができないってこと?」

「そういうこと」


 黒霧には触れたことがあるけど魔力を纏っている時だけ。もしも虚の状態で触れたらどんな感覚に包まれるんだろう?

 痛いとかかゆいはなさそうだけど……ちょっと不安になる。あっ! でもテツは黒霧の中でも平気そうだった、何も身体で覆われてないのに。それに、テツって──


「テツって普段から何にも覆われてないのに平気そう」

「そう、そこが大事なのよ。魔力をまとわなくても普通に生活ができる。理屈的に言えば私達にもそれが可能。単純に言えば慣れの問題だと私は考えてる。このミストサウナで少しでも慣れることを覚えなさい。水風呂も水分補給の用意もできてるから」

「はい!」


 更衣室に用意していた大量のビンはこのためだったんだ。

 それとこの修行は本当にわかりやすい。

 こうして座っているだけでもすごく熱い……じっとりしてて全身が温められて汗が沢山出てくる。

 魔力を少なくすると熱の伝わり早くなる。やけどには程遠い熱さでも体が怖いと思って魔力が鎧になろうとする。

 こんなにはっきりと魔力の防御能力を感じられるのははじめてかも……


「師匠、今更なんですけどこのサウナってなんですか?」

「い、いきなりな質問ね。でも、サウナとは何かを聞かれると難しいわね……入浴施設というには複雑すぎるし……自分と向き合う場……汗をかく場所……健康になる場所……一つ言えるのは人によってサウナの感じ方は違うってことね」


 作られた理由とかが聞きたかったんだけど……でも、部屋の外にはお風呂がいくつかあったから入浴設備の1つなんだと思う。

 きっと冬の時期でも暖まれるように作ったけど強力すぎて、服を着ることができないから入浴設備として扱われるようになったんじゃないかな?

 それにしても静か…………お客さんがわたし達ぐらいなのもそうだけど、水蒸気が発生する音ぐらいしか聞こえない。

 師匠も訓練場の時はうるさいぐらい色々口を出してくれたけどぜんぜん静かだ。


「ししょー……熱くないんですかぁ~?」


 師匠は虚の状態で目を閉じて静かに座ってる。肌に水蒸気が当たって汗も沢山かいてわたし以上に熱を感じているはずなのに小さい魔力すら見えない。


「熱いわよ、でもこれは悪いことでもなければ敵じゃないからね」

「敵じゃない……?」

「匂いも熱も私を癒してくれる、余計な考えも溶かしてくれてととのえてくれる。向き合い方を変えれば自分を鍛えてくれる試練にもなってくれる。自分を高めてくれる相棒でもあるのよ」


 敵じゃない……その言葉に何だか心が楽になった。

 魔力も自然と抑えられるようになって、水蒸気が顔に触れると確かに熱い。けどいい香りもする木の匂いだけじゃなくて花の、ううんアロマって言う液体かな?

 熱いけど落ち着かせてくれる。ここはそんな場所なんだと思う。


「ふぅ……一度出るわよ」

「え、これで終わりですか?」

「まだまだ続くわよ。サウナの入り方を教えてあげるから私のやり方を真似しなさい」

「あ、はい」

「次に入るのは水風呂よ、入る前にかけ湯で汗は流すのがマナーよ」


 師匠にならって汗を落として、水風呂というのに入──


「つ、冷たい──!? こんなのは入れないですって!? 身体がおかしくなっちゃう!」

「サウナは温冷を繰り返すことにあるの。それに虚で入るとすさまじいわよ、私ですら魔力の抑えるのが難しくなるもの……!」


 肩まで入ってる師匠を見て、どうかしてるという思いと凄いという思いがいっしょになってる。

 これも修行なんだ……! 魔力の密度を上げたら水も弾けるけど、それじゃダメ! テツが同じことしたら魔力無しでやることになる。テツにできてわたしにできないわけがない!

 覚悟を決めて足から入ると。


「あ、ああっ! ……あぁ~……ああ──!」

「入水は静かに、動くと余計に冷たさが肌に刺さるから不動を貫いてなさい」

「は、はいぃ~……」


 水の中に入った足先からツンというかキンという感覚といっしょに体温が奪われていく。

 村にいた時でもこんなことしたことない。なんでわざわざ温かくした後に冷たい思いをしないといけないの!?

 条件は同じのなのに師匠はぜんぜんつらそうな顔をしないのはどうして? 大人だから? 慣れてるから? 身体が震えると同時に魔力もざわざわって安定しない。冷たさが不規則に伝わってくる。


「な、なんだか吐く空気が冷たくなってきたかも……?」

「そろそろ上がって次は外気浴よ。外に出るわ」

「外ぉ!?」


 何かの冗談かな? って思ったら本当に外に繋がる扉があった……。

 整えられた木々の庭、屋根のある石造りの床には横になれそうなベッドみたいな椅子がいくつかあった。


「そこに座って」

「この後は?」

「何もしないわ、虚を意識して休憩よ」


 修行と言えば修行なんだろうけど、今までみたいな激しさがぜんぜんなくて少し心配になる。ちゃんと会得できるのかそんな心配も……。

 あぁ、なんだか頭がぼーっとする……。

 これからどんどん温かくなっていくんだろうなぁ……そうだ、雨が多くなるのもこういう温かくなってからだ……鳥の鳴き声も聞こえる……あれ、今魔力って出してるっけ……。


「さてと、二週目向かうわよ。水分補給したらまたサウナよ!」

「ふえっ! ……は、はい」


 今なんだか変な感じになってたような……? いけないいけない、気を引き締めないと!

 師匠から汗をかいた体によく効く飲み物をいただいてからサウナに入る。

 最初の時に感じたちょっと不安はどこかにいって、熱を受け入れて楽しめる余裕もでてきた。

 壁にくっついてる温度計は55℃を指していて、わたしは今体験したことのない温度の中にいる。


「ふぅ……」


 熱いけど、これは魔力をうすくしてもだいじょうぶ。

 次の水風呂はすごく怖いけど慣れてきたらだいじょうぶ。

 外気浴は安心していい、体を落ち着かせて頭を真っ白にするようにのんびりすれば──


「あぁ~……」


 フワフワして修行どころじゃなくなっちゃう。

 これって本当に修行なの~……?

 な~んて思っていたらまるで小さな時間旅行をしたみたいにけっこうな時間が経ってた。

 浴場を後にすると何だか身体が軽くなった気がしてすっきりしてた。

 それと師匠が近くのお店でカツカレーっていうのを食べさせてくれた。ちょっと辛かったけどとてもおいしかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ