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第39話 衣を脱ぐ時

 5月20日 火の日 15時30分 騎士団訓練場


「今日は模擬戦をするわ。これが最後の修行よ」

「はいっ! ──え!? 最後ですか師匠!?」

「期限まで残り十日。あなたも大分『(そら)』の領域を掴みかけている。」


 最後、頭の片隅にも無かった。

 忘れていた訳じゃないけど、いつの間にそんなに時間が経ってたんだろう? 思えば本当に色々なことをやったなあ。

 魔衣状態を維持するのは当たり前でタルの上に乗ってタルを持ってバランスを取ったり。

 ず~とタルの上で逆立ちさせられたり。

 すごい重りが付けられたかき混ぜ棒で、粘液が入った釜をひたすらかき混ぜたり。

 とにかく体を鍛えることが多かった。

 サウナも大変だったけど、色々学べた気がする。あの後は沢山食べたなぁ~。

 修行の中でも城壁の上を1週するのは街を見下ろせて楽しかった。

 沢山の人が小さく見えてわたしが神様にでもなったみたいで村では見ることができなかった。それに壁の外の自然を遠くまで見ることができた。近くで見てみたい自然が沢山あった。

 そんな風景に夢中になりすぎて踏み外しそうになったのはちょっと怖かったけど。


「構えなさい……はじめるわよ」


 礼を1つして体の1部になるぐらい使い慣れた杖を構える。

 師匠は虚の修行だけじゃなくて騎士団で扱う槍術や棒術、そして体術と魔術も教えてくれた。

 正しい力の使い方や強化魔術のバランス、基礎的な放出(ショット)(シールド)の使い方もなんとなくだったのが説明できるぐらいになった。

 うん。本当に色々なこと教えてもらった。だから、これは師匠にちゃんと見せないといけない。師匠を落胆させないためにもわたしはちゃんと修行をしてきたって証明しないといけない。


「はい! お願いします!」


 大きく踏み込んで習ったこと全てを吐き出すように突き、払い、振り下ろしと全力で色々な攻め方をしてみる。けど、師匠は全てかわすし、なんなら拳で受け止めてもくれる。

 わたしの攻撃は決して遅くは無いと思う。この修行でわたしの体は強くなった。無駄な動かし方もかなり減ったはず。

 わたしの体は変わった。でも──師匠ははるか高くにいる。

 

「まだまだ魔力が漏れてる! そんなんじゃいつまで経っても会得は無理よ!」

「くぅっ──!」


 戦いの中で虚をするのは本当に難しい。

 どうしても踏み込みや振り下ろしで魔力がこもってしまう。

 たまに魔力の放出がゼロのときがあっても理由がわからない。偶然なのか疲労なのか。理解して言葉にできるほど覚えられてない。

 師匠の拳は早く体に当たる。魔力もこもってないし訓練用の手袋がかする程度で痛みは全然ないけど不思議なぐらい体勢が崩れる。後だしなのにわたしより早く攻撃が届くなんて本当にすごい。


「これはあなたの問題! 魔力の無い人間もいて、生きている! あなたは鉄雄の何を見ていた!?」

「どうして、そこでテツがでてくるんですか!?」


 テツ。魔力を持たない大人の人。毎日見てる。

 破魔斧を手に入れても全然偉ぶったり力を誇示したりしない。外に出るとき以外はレクスは部屋に飾ってある。


「答えなんて最初から出ているのよ! そもそも虚はやろうと思えば誰でもできる、でも誰もしない! それは何故か? 分かっているのに向き合ってないだけ! だからそれを叩き込む!」

「っ──!?」


 防御越しに叩きつけられた掌底に大きく後退(あとずさ)ってしまう。と同時に師匠は距離をとってきた。

 負けじと踏み込もうと思った。けど、師匠の右拳が見えた瞬間鳥肌が立って足が前に進まなくなった。

 業火のように魔力が溢れる拳。それなのに他の身体の部位は薄く魔衣に覆われ。水面のように無駄なく静かだった。


「私はこれからあなたに攻撃する。そして、これを回避出来る出来ない関係無しに修行はこれで終わり。伝えることは伝えた、後はあなたが理解できているか否かだけ」

(こんなの──!?)


 師匠の姿が歪む程の威圧感に足がどんどん後ろに下がろうとする。

 手加減が感じられない。本気で攻撃するつもりだって肌に伝わってくる!

 避けられる未来が見えない。どこに行こうとも師匠の攻撃はわたしを捉える。防御しないと、強い魔力で防御壁を作れば――


(違う……違う……! そうじゃない! 師匠はこれを修行だと言っていた。これじゃあ今までの日々を裏切ることになる!)


 師匠は何かを伝えようとしてくれている!

 虚ができない理由は。0のテツとわたしの違いは?

 テツだったらこんな攻撃が来ても防御することもできない逃げることしかできない。

 でも、どうして、黒霧が効かない相手ならテツはわたし達みたいに防御できないのに、あの時の腕の怪我だって、魔力があれば、魔力があれば……

 怖くなんて――


「あっ……」


 わかったかも。虚ができない理由。


「いくわよ──!」


 師匠はちゃんと教えてくれていた。ちゃんと理解してなかっただけなんだ。

 怖かったんだ。これが無くなったら傷つくかもしれないから。

 ずぅっとわたしがわたしを守ってくれる大事な盾で鎧だから。どんな時でも1番信用できるわたしの力だから脱げなかったんだ。

 でも、だいじょうぶ……だいじょうぶなんだ。テツは普通に生活している笑顔にだってなれるんだから!

 受け入れるんだ。見えるもの、聞こえるもの、嗅げるもの、触れるもの、全部を何にもないまっさらなわたしで!

 だから師匠の動きも良くみなきゃ。魔力の流れも、()()に力を込めた場所も。ちゃんと見えるから。

 だから――動かなくていい。


「正解──」


 息を吐いて力を抜くと、わたしの目の前は岩の柱で埋め尽くされた。

 わたしの周りだけを狙いすましたかのように石柱が花を開いたみたいに広がってた。

 師匠は最初から当てる気なんて無かった。だから、動かないことがわたしの答え。

 わざとらしく脅威を見せて、わたしを動かそうとしてた、本質を見極められなければ、理解していなければ。石柱の餌食になっていた。

 でも、拳を使うとみせかけて魔術を使うなんてなんだかいじわるだ。


「これが虚なんですか?」

「そうよ。でも、私とあなたじゃ世界の感じ方が違うかもしれない」


 いつもより空気の感じ方が違う。魔力の感じ方も、それに……

 

「あわわ……!」


 誰かが見てると思って振り向いて見たらあわてた様子でセクリが引っ込んだ。でも、すぐに少し顔を出して心配そうにこっち見てる。

 何だか夜中の森にいるときみたいに敏感になったみたい。視線、いや意識に? 普通に立っているだけでわたしに向けられている何かが肌を刺すように感じられる。

 このおかげで師匠の攻撃をしっかりと見極めることができた。でも──


「あぁ~……怖かったぁ……!」


 修業前にトイレ行ってなかったら大変なことになってた気がする。あの包帯男以上の殺気込めてくるなんて師匠容赦無さ過ぎるって……。


「その気持ちと感覚は忘れてはダメよ。それと魔術に対しての防御力が無くなることも。ただ、虚になったからって死ぬわけじゃない。それはあなたが一番よく分かってるわよね?」


 虚の状態だと魔術を出せない、魔力に反応する道具も起動できない。纏っていた方が便利。

 でも、テツを見ていればそれはただの怯えを誤魔化す丁度いい理由。ただ不便なだけ。よくわからない理由で当たり前だと思っていた。

 みんなが業火のような魔力を纏っている人を尊敬しているからそうだと思い込んでいた。でも、そうじゃないんだ。


「今までは偶発的に無意識的にできていたけど、理解できたなら意識的にできるはずよ。修行はこれでお終い。これからは日常的の合間に虚を続ければ精度も上がるし応用ができるわ」

「はい! ありがとうございました師匠!!」


 虚だけじゃない、戦いに必要な身体の動かし方。武術。てきとうなわたしに正しい動かし方を教えてくれた。

 あのときテツが師匠にお願いしてくれたように自然と背中に物が置けそうなぐらい頭を下げた。短い間だったけど本当にこの人の弟子になれて良かった!



 慣れないことはするものじゃない。あの子に修行を付けて改めてそう思った。

 ようやく帰ってくれた。大体半月ぐらい修行してあげたってことかしらね。


「はぁ、やっと解放されるわ。不出来な弟子を育てるのは性に合わないわね。レイン姉さまにも全然会えなかったし」


 本当に性に合ってない。自分で言ったこととはいえ師匠、師匠と追い回されることになるなんて。昔の自分を思い出す。

 半オーガなだけあって肉体だけは優れてた。それで生き残ってこられたんだから嫉妬しそうになるわ。我流で覚えたちぐはぐな力任せの棒の使い方。強化術も魔力量に物を言わせた力ずく。

 虚だけじゃなくて矯正するのも苦労した。

 ただやっぱり、お爺さん達みたいに教えられたとは思えない。


「どの口が言うのよ。わざわざオーガの生態に調べたり、滅多に使わない魔術を使ったり、しかも夜に練習したり。ケガさせないように力加減も練習したり、随分と力入れてるように私の目には見えたけど?」

「キャミルッ! 見てたのね!?」


 見られたくない奴に見られた!? こいつとは入団当初から馬が合わない、レイン姉さまと妙に仲が良いのも気に入らない。

 それだけならまだしもキャミルが遠距離タイプで私が近距離タイプ。年も近い。姉さまや副隊長もこいつと組ませたがってるのも気に入らない。


「ええ、見てたわよ! ちゃんとレインにも報告しておいたから安心しなさいな!」

「なっ──!」


 高笑いをしながら魔術を駆使し壁を越えて逃走するキャミル。本当に色々な逃げ方持ってるわね……。それに姉さまにちゃんと報告しているなら見逃してもまあいいけど。

 そういえば修行を付けてるあいつはどう仕上がったのかしら?

 アンナが出来るようになっても、肝心のあいつが持たせられなきゃ望んだ調合はできないって話のはずだし気になるわね。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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