スノーフェスティバルに来た人達
来ていただいてありがとうございます!
「え……何で……」
小さな町では見たことが無い豪華な馬車が二台と比較的質素な馬車が一台、町の入り口に到着した。建国祭が始まって三日目。ノールタウンでもスノーフェスティバルが盛り上がっている最中のことだった。
ノールタウンはお父様であるベルデ伯爵の領地に隣り合っていて、一番近くの街からは送迎のそりが往復して走ってるんだけど、それには乗らずに来たらしい。街道は町の皆で協力して雪かきをしてあるけど、よほど雪道に慣れた馬できたんだろう。やって来た人達の姿を見て、そりを使わずに来た理由は納得できた。けど、ここへ来た理由は全く分からなかった。
「まあ!随分と可愛らしいお祭りですわね!エリオット様、連れてきていただいてありがとうございます!噂を聞いて一度来てみたかったの!嬉しいわ!」
馬車の車窓から、可愛らしい声が聞こえる。
「メロディ、君の頼みなら何でも叶えてあげるよ」
そういえば王子様のお名前ってエリオット様だったわね。っていうか名前で呼んでたんだ。なんかもうメロディに夢中みたいだけどユフィーリア様との婚約解消の話すら出てないこの状況で、この王子様は何を考えてるんだろう?すっごい腹が立つわ。
「この忙しい時に面倒な………」
思わず呟いてしまった。慌てて周囲を見回したけど近くにはアンナしかいなかったから安心した。それにしてもこんな展開はゲームにあったかな?疑問には思ったけど、貴族の娘として王族を無視するわけにはいかない。仕方なく王子殿下に近づきご挨拶をしようとした。
「これはこれは!ようこそおいでくださいました……?」
顔を上げてまた驚いた。
馬車から下りてきたのはメロディと仲間達。そこまではいい。あまり良くないけどまあいい。だって王子殿下が訪れたとなればかなりの広告効果があるから。とりあえず歓待して満足して帰ってもらえればいい。驚いたのはアスルスワード様まで一緒にいること。しかも他の取り巻き達を差し置いて、当然のよう
にメロディの隣にいる。宰相の息子とかが後ろから睨んでるのに気付いてないの?なんかハラハラする。
あ、目が合った。なんか嬉しそうに微笑んでる。メロディのそばにいるのがそんなに嬉しいのね。筋書き通りに二人は無事、舞踏会で出会ったんだろう。やっと婚約を解消または破棄してもらえるのかしら。でも今は本当に忙しいから、そういうのは建国祭が終わってからにして欲しい。
「エメライン!」
「お兄様!一体どういうことですか?」
馬車から最初に下りてきた私の兄ジェレミーから急いで事情を聴いた。お兄様は攻略対象じゃないけれど、王子様達を案内して(させられて)きたらしい。さっきメロディが言ってたとおり、彼女がどこからかこのスノーフェスティバルの話を聞きつけて、どうしても来たいとおねだりしたそうだ。王都のお祭りの方が賑やかなのになんでわざわざ。まあお金を落としてくれるのはありがたいけど。
「あと、言いにくいんだけど、建国祭の舞踏会でアスルスワード殿がバートネット男爵令嬢をエスコートして会場に入って来たんだ……」
小声だったお兄様の声は更に小さくなった。
「っ!」
「その後もかなり長い時間二人が一緒にいたもんだから、もう噂になってるよ」
やっぱりそうなったんだ。わかってはいたけど、お兄様から聞かされると少し辛いかも。だってお兄様はすごく心配そうな顔をしてくれてる。
「大丈夫?エメライン」
お兄様も私が長い間放置されてるのを分かってるんだよね。でも私はこの時の為に色々やってきたんだから大丈夫。我がままで振り回したりもしてない。私には非はないはず。
「私は全然平気ですわ!」
私は明るく笑って見せた。
「……そう。なら、忙しいところ悪いけど町を案内してくれるかい?ここはエメラインの土地だから。僕はこれから戻って屋敷の準備を手伝ってくるから」
「わかりましたわ」
もう夕方に近い時間だし、この町には貴族、まして王族が宿泊できる場所なんてない。だから一番近くのベルデ伯爵家の屋敷に滞在してもらうしかない。前もって決まっていれば準備もできるのに、メロディ達のせいで大変なことになっちゃった。
「悪いけどアンナもお兄様を手伝ってきくれる?今頃屋敷は大わらわだと思うから」
「かしこまりました。ですが、お嬢様は大丈夫ですか?」
「ええ。急だけどビジネスチャンスでもあるから、せいぜいうちの特産品を売り込んでくるわ!」
「まぁ、お嬢様ったら……」
苦笑しつつもアンナはお兄様と一緒に馬車に乗り込んでいった。
ああ、面倒くさい。でもさっきも言ったようにこれはチャンスだ。メロディと王子様の周りには高位貴族の令息令嬢が何人もいるんだから、特産品の注文契約までは無理だとしても、せいぜいお金を使って帰ってもらおう。とりあえずアスルスワード様は無視でいいよね。
私はお祭りの事をジョン君に任せて、王子様達を案内していった。王子様とアスルスワード様を両脇に侍らせてご満悦のメロディ。私は王子様の隣を歩いて雪像や商品について説明したり試食をお出ししたりと忙しく動いた。何度かアスルスワード様に話しかけられそうになったけど、聞こえないふりをしたりメロディに遮られたりして何とか回避できた。たぶん婚約破棄について話そうとしてたんだと思うけど、そっちの都合ばっかりで事態が動くと思わないで欲しい。
ビジネスにつながったかはわからないけど、無事に案内を終えて王子様ご一行は帰っていった。たくさん商品を買っていただいたし、雪の中のキャンドルナイトもご覧になられたし、十分に楽しんで満足してもらえたと思う。あー疲れた……。夜も更けてお祭りも無事終了。ホッとしておじい様が避暑に使っていた小さな邸宅に帰ると、何故かアスルスワード様が隣街から戻って来ていた。なんでいるの?
家の管理をしてくれてる老夫婦が困り顔で私に報告してくれたんだけど、私も困惑したわ。何でメロディのそばを離れてここにいるの?ああ、そうか。さっさと婚約破棄の話をしたいってことか。私はため息をついた。せっかく三年目のお祭りが大成功していい気分だったのになぁ。仕方ないか。覚悟を決めて応接室のドアを開けた。
「やあエメライン、お疲れ様。とても良いお祭りだったね。美しくて幻想的でアットホームで」
立ち上がったアスルスワード様の後ろには騎士団の方々が三人控えるように立っていた。ここの応接室はそんなに広くないから威圧感が半端ない。
「ご無沙汰しております、アスルスワード様」
「……うん。久しぶりだね。とても綺麗になったね、エメライン」
元々綺麗なアスルスワード様に褒められてもあまり嬉しくないや。
「ありがとうございます。それで、何か御用がございましたでしょうか」
これから言われるだろうことを想像して顔がこわばってしまう。
「え……えっと……少し話をしたくて」
ソファに座り直したアスルスワード様はおずおずと話し始めた。
「ではお話しくださいませ…………」
「…………」
って思ったら下を向いて黙り込んでしまった。もう!何なのよ一体。
重い沈黙が流れる。ああ、さっさと嫌な事は終わらせてゆっくり休みたい。そういえば夕食もまだだったんだわ。仕方なく私が切り出した。
「婚約解消のお話ですよね?」
私は婚約破棄されるような悪い事はしてないつもりだし、そちらの都合なんだから婚約は円満解消でいいはずよね。
「え?いいえ!私はそんなことを話しに来たのではありません。どうして……」
アスルスワード様から出たのは意外な言葉だった。
「ずっとお会いしてませんでしたし、お互いに気持ちもありませんよね?建国祭の舞踏会では私以外の方をエスコートなさったのでしょう?私と婚約している必要はないのでは?」
「エスコートなんてしていません。バーネット男爵令嬢が迷っておられたのでご案内しただけですよ」
「そもそも貴女がエスコートをお断りになったからなのでは?」
後ろに立っていた黒髪の騎士団員の人が私を呆れたように睨みつけた。その騎士団員を他の騎士団員さんが殴りつけて黙らせた。バキって変な音がしてたけど大丈夫かな?
「ケイン!無礼だぞ!」
「す、すいません、隊長」
涙目で謝るケイン。それを他の団員さんが更に睨みつける。
「私は以前から婚約の解消をお願いしております。その件で何度もお手紙を差し上げております。それに応じていただけていれば今回の問題は起きていないと思います」
格上の侯爵家の令息に対する言葉ではないとは分かっていたけど、今まで交流は殆んど無かったし、多分メロディに心を奪われてるんだから、当然即婚約解消だと思ってたのに何をごちゃごちゃ言ってるの?後ろにいるケインとかっていう男もムカつくわ。大体この騎士さん達は関係無い人なのにどうしてここにいるの?体が大きいからちょっと怖い。
「私には婚約解消の意思はありません。騎士団の任務が忙しく中々王都へ戻れず申し訳ないことをしました」
「そうですよ!隊長は本当に忙しくて!魔物の数も減って来てやっと落ち着いて来たんです!ですからこれからだと思うんです!」
「アスルスワード隊長がいないと回らないことも多いんです」
「隊長は本当にすごい人で……そうだ!北東の砦にいらっしゃいませんか?」
「来てもらえれば隊長の素晴らしさがわかりますよ」
「是非!」
ケイン以外の騎士団員さ達に口々に言われて戸惑う私。何なの?この展開。
「いえ……私は……」
そんなことしたら、仕事の邪魔をしたとかって悪く言われてしまうじゃない。それは困る。絶対行かないわ。
「そうだ!あのハーブ入りのソーセージ!!美味かったなぁ。是非、うちの食堂でも出して欲しいですよ!」
「あのケーキも!黒いパンも美味しかったし……珍しいですよね?あんなの他で見たことないですよ!」
「そうそう!それにチョコのお菓子があんなに安いなんてありがたいですよね!」
「え?!そうですか?」
やだ!この人達、うちの商品を気に入ってくれてたんだ!よく見たらお菓子のいっぱい入った紙袋(徳用品)を持ってる人もいる!あんなにいっぱい買ってくれたんだ!なんだ!それならそうと早く言ってよね!私は営業用スマイルを浮かべた。
「まあ!まあ!我がノールタウンの特産品を気に入っていただけて光栄ですわぁ!」
「は、はい!良かったらうちの料理長にも食べてもらいたいなぁ!」
「ですね!あのソーセージが食堂で出てきたらやる気が違いますよね」
よっしゃぁぁ!ビジネスチャーンス!
「でしたら、是非商品を持って砦へ伺いますわ!」
騎士団の宿舎で取り扱ってもらえれば、かなりの利益が出るはず!
「ええ!お待ちしています!ベルデ伯爵令嬢!」
気が付けば私はアスルスワード様の頭の上で隊員さん達とガシッと握手を交わしていた。
こうして私は北東の砦の街へ行くことになったのだった。
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「アスルスワード様か……。以前は名前で呼んでくれてたのに」
エメラインの邸宅に泊めてもらえなかった隊員達は雪の夜の街道を馬車で走らせていた。
「隊長、女に舐められすぎじゃないですか?あんな可愛げのない令嬢は止めてあのピンク色の髪の令嬢の方にしといたら?ちょっとあざといけどまだマシなんじゃないですかね?」
「ケイン!いい加減にしろよ!」
「ちょっと黙っててください」
「……ケイン、次に彼女を侮辱したら許さないよ」
隊長の体に瞬時に魔力が漲った。その青い目が鋭い光を帯びる。
「ひっ!すいません!もう言いません!!でも隊長は凄い人なんだから、もっとさぁ……」
ケインはアリスターの第八小隊の中で唯一の平民出の騎士だった。己の強さだけでここまで這い上がっていたケインはアリスターの強さを目の当たりにして彼に心酔したという経緯がある。ケインはアリスターを尊敬すると同時に畏怖もしていた。ケインにとってはアリスターの強さは異常だった。
北東の地には砦に近い場所に魔物が次々と生まれてくる『魔物の巣』と呼ばれる場所がいくつかあった。これまでそのほとんどをアリスター率いる第八小隊が先頭に立って掃討してきたのだ。残る魔物の巣はあと二つ。そのうちの一つはもう間もなく討伐に向かう。そして近々砦全体が協力して最大の魔物の巣を叩く予定になっている。自分達が王国を魔物から守っているという自負があるケインにとってはエメラインの態度は気に入らないものだった。
「大切にされてもいと思うんだけどなぁ……」
ケインの呟きとアリスターの悲し気な微笑み、そして隊員達のため息が重なった。静かな夜に再び雪が降り始めた。
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