スノーフェスティバルで町おこし
来ていただいてありがとうございます!
「わぁ!皆さん今年も気合が入ってますね!」
「エメライン様!来てくださったんですね!準備は順調に進んでますよ!」
「おかえりなさい!エメラインお嬢様!」
町の入り口の横断幕を見上げてると、みんなが笑顔で声をかけてきてくれた。
ノールタウンはヴェルデ伯爵領の中の北の外れにある小さな町だ。農地と森そしてトゲトゲハーブの生える荒れ地があるだけの土地。近くの一番栄えた街(うちの領地)まではなんとか街道が通ってる。その街道が生命線だ。いわゆる過疎地?ちょっと違うかもしれない。でも、おじい様が私に遺してくれた大切な土地。
「エメラインさまぁ!こっち!こっち!」
町に入ると元気な子ども達が手を引いて一番大きな広場へ案内してくれた。町長が先頭に立って大きな雪像の設営を頑張ってくれている。
町の広場には多くの人達が集まっていて、今は凍結してる噴水を取り囲むように雪像(氷像)がたくさん作られていた。一年目の時は五体程だった雪像も今年は二十体を超える数が並んでいて。技術も上がり圧巻の光景だった。
「香ばしい!このハーブ入りソーセージ、美味しくなってる!また改良したんですね!」
「そうなのよ!エメラインお嬢様!こっちも味見してみて!」
「あ、こっちも美味しい!そっかスパイス系のハーブを使ったのね」
「いい出来でしょう?ユリアが考えたんですよ!」
ユリアと呼ばれた若い女の人が恥ずかしそうに婦人会のメンバーの後ろから押し出されてきた。ユリアさんはこの夏結婚したばかりの新婚さんだ。
「とっても良くできてるわ!ありがとう、ユリアさん」
「はい。エメラインお嬢様。ありがとうございます」
婦人会は町のお母さん達のグループ。彼女達が屋台料理を担当してくれて、今年は去年よりも品数が増えたみたい。他にも串焼きやこの土地で取れた根菜のスープやホットワインもある。
ハーブソーセージはスノーフェスティバルで出すメイン屋台料理の一つ。領地で自生するハーブを使ったソーセージ。これはいくつも試作をしてもらってやっと完成した自慢の特産品だ。去年はこれがたくさん売れたんだよね。王都のレストランからも仕入れたいって話が来るくらい人気になった。
「エメライン様!これも味見してみて!」
奥様方と談笑していると、若い女の子達が数人走って来た。
「あら?これはもしかしてこれはムスタ豆のパン?」
「そうなんです!お菓子もいいけど、食事にも取り入れられたらなって」
「サンドイッチも作ってみたんです!」
「これも美味しいわ!ほのかな苦みがチーズと合うわ」
「でしょう?」
「良かった!これも屋台で売りましょう!」
「ふふふ、今年はどのくらい売れるかしら!」
きゃいきゃい言いながら私に黒パンのサンドイッチを薦めてくれたのは、町の十代から二十代の女の子達だ。
ムスタ豆はこの町唯一の特産品の黒い豆だ。ここみたいに寒くて貧しい土地でも採れるこの豆は茹でてスープに入れたり、つぶして団子にしたりして食べるだけだったんだけど、ちょっと苦みがあってあまり美味しくない。でもその苦みが前世のココアパウダーやコーヒーみたいだなって思ったから、試しに臼で挽いて粉にしてみたら、本当にココアパウダーに似た感じになったんだ。それを使ってチョコレート(この世界では高価)風味のお菓子やホットチョコレートにして売り出すことにした。この三年間でいくつも試した名物づくりのうち成功したのはまだこの二つ。今はハーブの組み合わせで効果がある薬が作れないか研究中してもらってる。
これらを雪だけはたくさんあるこの冬の領地でお祭りを開催して売り込むことにしたんだ。前世の記憶を生かして(?)雪像とキャンドルを使った「スノーフェスティバル』
某北の大地の雪まつりの丸パクリだけど、私の明るい未来がかかってるから許して欲しい)。
正直最初の一年は町の皆を説得するのに時間がかかった。けど、話を分かってくれた有志を集めて冬のお祭りを開催したら結構好評で、もっともっと長い年月がかかるかと思ってたら二年目にはたくさんの人達がお祭りに来てくれるようになった。勿論私も王都やあちこちの町で宣伝しまくったよ。ビラ配りとか試食コーナーみたいなことをやったりね。後で知ったんだけど、ユフィーリア様もお茶会なんかで宣伝してくれてたんだ。本当にありがたかった。
建国祭に合わせたお祭りだったとはいえ、王都から離れたこの地にたくさんの観光客が訪れてくれたのを見て、町の人達は奮起して積極的にこの町を盛り上げようって雰囲気になってくれた。私も私が受け継いだこの土地を豊かにするためにもっともっと頑張らなくちゃ。将来私はこの地で暮らす予定だから、みんなにも受け入れてもらいたいしね。
今日はもうすぐ行われる三回目のスノーフェスティバルの準備のためにここにやって来た。
「準備って言ってもみんなが頑張ってくれてるだけで私なんて何もできてないんだけどね」
ちょっと料理の手伝いしたり物を運んだり小さいランタンや雪だるまを作ったり。うーん、子ども達の方がよっぽど役に立ってるわ。
「そんなこと無いよ!お嬢様は発案計画担当兼現場監督だからね。どーんと構えていてください」
私の独り言を聞いていて返事をしてきたのは最初に私に賛同してくれたジョン君だった。一番最初に私の計画に賛同してくれた男の子で、ノールタウンをとても大切に思ってる。彼はフェスティバルの実行委員長を買って出てくれて、今年も忙しく走り回ってくれてる。
「今年も作ってきたから置いてもらえるかしら」
私はジョン君に香り袋を見せた。綺麗な端切れにちょっとした刺繍を施した袋。その中にトゲトゲハーブを乾燥させたものが入ってる。
トゲトゲハーブは私が名付けたんだ。荒れ地にたくさん自生してるんだけど、これまでは特に活用されてなかった。歩いてる時に良い香りがすることに気が付いて、たくさんあるし何かに使いたいって考えて商品にしてみたんだ。
「了解です!これ良い匂いだし、刺繍が綺麗ですよね」
ジョン君がムスタ豆のケーキの屋台の端っこに置いてくれた。去年は全部売れたから今年は倍の数を作ってきちゃった。売れるといいな。私は掃除を手伝った後、小さな雪像作りを始めた。
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「え?いない?王都にいないのですか?確かに建国祭の前後は学園は休みですが、何故領地に。ああ!忙しいと言っていたのは本当だったのですね。てっきり私と会いたくない口実だと思っていました。安心しました」
「…………」
「隊長ってポジティブですね……」
「では今からノールタウンへ」
「隊長、残念ですが今から向かったら、今夜の舞踏会の警備に間に合いません。今回は……」
「そう、ですね。舞踏会が終わり次第すぐに向かいます。早く会いたかったですが、一応仕事が優先ですからね」
エメラインに断られたアリスターは諦めきれずにベルデ伯爵家を訪れていた。舞踏会へ行けずともせめて婚約者の少女の顔を見たいと思ったのだ。ベルデ伯爵夫人からはにこやかに「お久しぶりですわね」と挨拶されてアリスターはやや引きつった笑顔を浮かべた。
そして王城で行われる舞踏会の警備中にその運命の出会いが訪れる。
「きゃぁっ」
「これは失礼いたしました」
「なんで隊長が謝るんですか?ぶつかって来たのはそっちの令嬢でしょう?」
「まあ……なんて素敵な方!お名前は?」
「……まず謝れよ」
共に警備に当たっていた副隊長のケインが呟く声は幸か不幸か届かない。
「アリスター・アスルスワードと申します。レディ、そのような踵の高い靴で走っては危険ですよ」
「まああっ!侯爵家の方ですのね。私はメロディ・バーネットです!」
アリスターは困ったように微笑んだ。しかし、メロディには満面の笑みに見えたらしい。
「私、迷ってしまって……。良かったら案内してくださる?」
「……わかりました。お手をどうぞ」
「ああ、面倒なことになっても知りませんよ!隊長」
「大丈夫だよ。迷子を送り届けるだけだから。ははは」
何も分かってなさそうにのんびりと笑ってるアリスターを見て、ケインは顔をしかめて頭をかいた。
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