卒業
来ていただいてありがとうございます!
色々あったけどやっと王立学園の卒業式の日が来た。
「この制服も今日で最後ね」
「お嬢様、よく頑張られましたね」
アンナが涙ぐみながら髪を梳かしてくれた。お母さんが二人いるみたいね。
「うん。私結構頑張ったと思う」
学園ではすごく仲のいい友達はできなかったけど、その代わりノールタウンでは町のみんなと仲良くなれた気がするし。友達っていうよりは戦友みたいな感じなのかもしれないけど。
卒業式はつつがなく終わり、メインイベントの卒業パーティーが王都の大会議場を借り切って行われた。卒業パーティーの主役は勿論卒業生だけど、家族や婚約者の参加も許可されている。夕方からのパーティーの為に一度屋敷に帰って、家族とアンナに卒業証書を見せてから支度を整えた。
「人がたくさんいる……」
今まで参加した数少ないダンスパーティーのどれよりも大規模で、少し気後れしちゃう。多分お城で舞踏会なんかはもっと凄いんだろうけど、見たことないから分からない。怖くなって隣のアリスター様の服を強く掴んでしまった。
「エメライン?どうしたのですか?気分でも悪い?」
優しく気遣ってくれるアリスター様はいつにも増してキラキラしてる。それもその筈で元々美形なのに加えて、今日は騎士団の正装。ローブに勲章、髪は後ろにまとめててどこかの国の王子様って言われても信じちゃいそうなくらいカッコいい。その証拠に他のご令嬢方もパートナーそっちのけでアリスター様に見惚れてる。
「みんな見てますね」
「アリスター様、素敵だから。無理もありません」
「違いますよ?男達がみんな貴女を見てるんですよ」
「いや、それはないです」
ありえないです。そういう優しさはいらないです。
「どうして?今日のエメラインは一段と美しいですよ。今私は本当に悔しいんです」
「悔しい?」
「ええ。日ごと年ごとに美しくなる貴女を見逃していたことが、本当に悔しいのです」
「…………アリスター様は視力の検査を受けた方がいいです」
だって周りには綺麗に着飾った数ランク上の美少女達が山のようにいるんだから。同じ女性の私でも見惚れちゃうくらいの美少女達がね。あ!向こうからその更に上を行く美男美女が仲睦まじく歩いてくる!
「エメライン様!良かったわ、お会いできて!」
「ユフィーリア様!」
アイボリーのドレスを纏ったユフィ―リア様がローレンス殿下にエスコートされてやって来た。結構広い会場なのに私を探してくれてたんだ。感動!アリスター様と一緒にお二人にご挨拶して、ユフィ―リア様と私、ローレンス殿下とアリスター様とで少しお話することになった。
「ユフィーリア様、そのドレスとても素敵です!柔らかい白色なのに光を受けると銀色にも見えて、まるで月の女神様みたいです!」
「まあ、ありがとう!ローレンス様が選んでくださったのよ」
頬を染めるユフィ―リア様はとても美人でとても可愛らしい。
「エメライン様のドレスも素敵よ。まるで水の妖精みたいね」
「そ、それはちょっと身に余るお言葉といいますか……でもありがとうございます」
「今日で学園生活が終わりになると思うと寂しいわ。とても楽しかったから。エメライン様ともお友達になれたし」
「え?」
オトモダチ?ってお友達?ええ!そんな風に思ってくれてたんだ!超感動!!
「わ、私もユフィーリア様とお話させていただけて嬉しかったです!」
「ありがとう。この先、お城にも遊びに来てくれると嬉しいわ」
「わっ!ありがとうございます!是非!」
ユフィーリア様の言葉は嬉しかった。けどさすがにこの約束は叶う事は無いだろうなって思ってる。だってローレンス殿下は今後立太子される予定だから、ユフィーリア様は王子妃様、王太子妃様、ゆくゆくは王妃様になられる。私はただの伯爵令嬢。アリスター様がアスルスワード侯爵家が持ってる空位の伯爵家を継ぐけれど、領地も私が受け継いだノールタウン一帯だけだし。遠方の侯爵家の土地を譲り受けるお話もあったんだけど、アリスター様が管理が難しくなるからって辞退したんだよね。
「ユフィ、そろそろ時間だ。行こうか。失礼するね、ベルデ伯爵令嬢」
「じゃあまたね、エメライン様」
「はい!」
ローレンス殿下はユフィーリア様と一緒にこのパーティーの開会挨拶をされるそう。ユフィーリア様はなんと学年二位だった。首席はエリオット殿下だけど、今回は体調不良らしく卒業式も欠席だった。ちょっと心配だ。そういえばメロディの姿も見えないし、エリオット殿下に付き添ってるのかもしれない。
ローレンス殿下とユフィ―リア様のお言葉の後、音楽団の演奏が始まった。ローレンス殿下とユフィ―リア様が踊る姿はとっても素敵で、お似合いのお二人だった。
「私達も踊りましょう、エメライン」
「……はい」
「どうしましたか?もしかしてダンスは嫌い?」
「いえ、あの、あまり経験が無くて……ちょっと緊張してます」
「申し訳ない……。私が学園生活に無知だったせいで、エメラインに辛い思いをさせてしまいましたね」
アリスター様は王立学園を一年で卒業して騎士団に入ったから、学園の行事についてはよく分かってなかったみたい。私も早々に諦めてて何も伝えてなかったのも原因だよね。
「いえ。私も何もお伝えしませんでしたから」
「期待してもらえるほど交流を持たなかった私のせいですね」
ああっ!アリスター様が落ち込んじゃった。
「でも!ダンスは好きなんです!」
「…………では、私と踊って頂けますか?」
「喜んで!」
ほぼ初めてのアリスター様とのダンスはとても楽しかった。騎士様だけあって見た目よりずっと力強いリードで何曲踊っても全然疲れなかった。……と思ったけどさすがに五曲目で息が上がってきちゃった。
「そろそろ休憩しましょうか。何か飲み物を持ってきます」
窓に近い壁際に立ってアリスター様を待っていると、卒業生の貴族令息達が集まって来た。
「やあ、ベルデ伯爵令嬢、今日はとても美しいね」
「僕達とも一曲お願いできるかな?」
何だ?こいつら。男爵家や子爵家の令息達がニヤニヤしながら話しかけてくる。家の名前くらいは知ってるけど、私在学中にあなた達と話したこともないよね?
「申し訳ありませんが、今は疲れているので……」
移動しようと思ったら立ち塞がられた。何なの?!
「酷いなぁ。クラスメイトだったのに」
「じゃあ、ダンスはいいから、少しばかりムスタ豆を融通してもらえないかなぁ」
「うちはアロマランプを。従妹が欲しがってるんだけど、今なかなか手に入らなくてね」
「それも申し訳ありませんが、父や兄に依頼してください」
いずれは私が生産流通を管理することになってるけど、今はお父様達に任せてるんだよね。勉強頑張らなくちゃ。
「同じ卒業生のよしみじゃないか」
「それくらいいだろう?」
うわぁしつこい……!顔見知り程度なのに図々しい!これ以上相手をするのも面倒だから、振り切るように壁伝いに早歩きして逃げた。
「あらぁ、あの方がアスルスワード侯爵家の……なんて美しい方!不思議ねぇ。あんな美しい方がどうしてまたベルデ伯爵令嬢なんかと?」
「一度は婚約解消なさったのでしょう?再婚約だなんてエメライン様ったら未練がましくてしつこいのね」
「ベルデ伯爵家は今潤ってらっしゃるらしいからお金で解決なさったのかしら?成金って嫌よねぇ」
「うふふ、きっとそうね。じゃなければあんな素敵な方がエメライン様を選ぶはずないもの」
なんだとぅ?!女の子達のムカつく会話が聞こえてきた。こっちを見て嗤ってるから聞こえるようにわざと言ってるのがよく分かる。しかも、今のは私だけじゃなくアリスター様の事も侮辱してる!これは許せない!!
「アリスター様を侮辱するのはやめてください!アリスター様はそんな……」
文句を言いかけて気が付いた。この令嬢達私の事を散々「放置令嬢」とかいって馬鹿にしてた子達じゃない!今日は徹底的に言い返してやるんだから!
「聞き捨てなりませんね」
背後から冷たい冷たい声が聞こえた。振り返ると、なんか形容しがたいオーラを放ったアリスター様が立ってた。ちょっと言い方が悪いかもだけど、魔物みたいな禍々しさがある。
「アリスター様……?」
滅茶苦茶怒ってる。
「私の愛するエメラインを侮辱するのはやめてもらいたい。彼女は幼少の頃からとても愛らしく、どんどん美しくなっています。直視するのが眩しいほどだ。可愛いエメラインは君達とは違ってとても気高く、在学の頃から領民達の為に努力してきた。その成果を対価として受け取っているだけで当然の事なのですよ。誰かにそしられるいわれも無い。そんな素晴らしいエメラインに相応しくない私は一度は振られてしまいましたが、必死に懇願してやっと婚約しなおしてもらえたのです。美しいエメラインは美しいのにとても謙虚な女性なのです。君達の戯言を真剣に受け止めて悩んで、病気にでもなってしまったらどう責任を取るつもりなのですか?そもそも愛らしいエメラインのおかげでこの王都は…………」
「ストップ!隊長、ストップです!」
「クリス?どうしてここに?」
「急遽親戚の子のエスコートを頼まれたんですよ。それよりもエメライン様を見てください」
良かった。クリスさんが来て止めてくれて。私も止めようと思ったんだよ?でもどんどん恥ずかしくなっちゃって、一応服の裾を引っ張ったんだけど気付いてもらえなくて、もうどうしようかと思った。
「エメライン!気分が悪いのですか?」
「いえ、そうでは無くて……」
「顔が赤いです。熱があるのかもしれません。はっ!先程のダンスのせいか!」
「違うでしょ。周りも見てください」
クリスさんの言う通り……。そうなんだよ。みんな見てるんだよー。褒めてくれるのは嬉しいんだけど、人前なのと過剰なのは困る。私はそこまで言ってもらえる程じゃないと思う。
「とにかく君達には発言を撤回してもらいたいのです」
アリスター様は令嬢達に向き直った。
「僕も同じ気持ちだな」
「私もですわ」
え?!ローレンス殿下とユフィーリア様?いつの間にいらしてたの?
「僕達の恩人を侮辱するような発言は撤回してもらいたい」
「エメライン様は私の大切なお友達ですのよ」
「も、申し訳ございませんでした……」
アリスター様やクリスさん、ローレンス殿下やユフィーリア様に冷たい視線を投げられて、周囲の視線に耐えかねて、その子達は今にも消え入りそうな声で謝ってからそそくさと人混みの中に消えて行った。
なんか自分で全然言い返せなかった。けど庇ってもらえて嬉しかったな……。胸の辺りがほっこりする。
「殿下、ユフィ―リア様、ありがとうございました。クリスさんも。アリスター様も」
「気にしては駄目よ。あの方達はきっとエメライン様が羨ましいのですわ」
「そうなんでしょうか……」
あの令嬢達はアリスター様のことを好きだったのかもしれない。だって魔物から王国を守った騎士様だものね。
「顔は覚えたよ」
「顔は覚えました」
ローレンス殿下とアリスター様が異口同音に呟いた。……なんか背筋がぞわっとした。
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