幸せの地
来ていただいてありがとうございます!
「ええ?!エリオット殿下とバーネット男爵令嬢が南東の辺境へ?!」
「まあ、ご存知なかったの?エメライン様」
「はい……」
すみません。私あまり友達いなくて情報に疎いんです。でもこのままじゃ駄目よね。お父様やお兄様にも言われたし、これからはたくさん交流してかなきゃ。
花々が咲き乱れる温室の中、真っ白なクロスのかかったテーブルの上には色とりどりの可愛いお菓子やケーキ達。ムスタ豆粉を使ったお菓子もたくさん並んでる。目の前には妖精みたいな美女。何?ここは天国ですか?王立学園卒業の年の春の終わりに、ローランド殿下と国を挙げての盛大な結婚式を挙げたユフィーリア様が私を王宮に招待してくださった。ユフィーリア様のウエディングドレス姿、綺麗だったなぁ……。でもまさか本当に王宮に遊びに来ることになるとは思ってなかったから、今でも夢を見てるみたい。今日は二人だけのお茶会。てっきり他にも人がいると思ってたからちょっと安心した。でもメロディ達の話は初耳で更にびっくり。
「南東の辺境っていえば、粗暴な遊牧民族達の住む草原と隣り合っていてとても危険な場所だと聞いていますが」
「エリオット殿下が志願されたの。バーネット様は悩まれたけど結局ついて行かれたそうですわ。どうして悩まれたのかしら?不思議ですわね。愛する方のそばにいる為でしたら、私なら悩むことはありませんけれど……」
ちょっとだけ、ユフィ―リア様の笑顔が怖い……。
メロディは成績不良で王立学園始まって以来の落第が決まって、自主退学したらしい。確かにいつも試験の成績はあまり良くなかったけど、補習と再試験っていう救済措置があったのにどうして?ここはあのゲームの世界の筈なのに主人公がそんな目に合うなんてアリなんだろうか。エリオット殿下については何か王都から出なくてはならないことをしてしまったんだと思う。たぶん。これじゃトゥルーエンドどころがバッドエンドに近いかもしれない。
「悪意を持った者は裁かれ、努力を怠った者にはそれ相応の報いがある。どの世界でもそれは同じです」
「ユフィーリア様……?」
今、少しユフィーリア様の印象が変わった。何だか違う人の顔に見えた気がする。もしかしてユフィーリア様って……?尋ねることはできなかった。だってなんて聞けばいい?もし違っていたら?それに今それを尋ねてもこの結末は変わらない。
「そうですわ!お聞きしたいことがたくさんありますのよ?結婚式のドレスはもう決まりまして?」
打って変わっていつもの感じに戻ったユフィ―リア様が目をキラキラさせて尋ねてきた。
「えっ?!は、はい。アリスター様がデザインしてくださることになって、今作ってもらってるところなんです」
「まあ!素敵!アスルスワード様は戦いだけではなくて芸術の才能もおありなのね。確かアロマランプのデザインも担当なさってるとか」
「はい。小さな頃から絵を描くのがお好きだったそうです」
「うふふ、それなのにエメライン様の為に騎士団に入られて、魔物をほぼ全滅させてくださったのよね?」
「え?!いえ!!それはっ!騎士団の皆様全員のおかげですから!!」
「あら、でも一番の脅威だった魔物の巣を掃討してくださった功績は大きいですわ!それもこれもエメライン様とのお約束の為だったのでしょう?素晴らしい旦那様ですわね!ふふっ愛されてますのね?」
「……あ、ありがとうございます……」
うう、顔が熱い……。ユフィーリア様、完全にからかいにきてない?
「結婚式は秋でしたわね?」
「はい。秋の終わり頃になります」
本当ならもっと準備期間が必要なんだけどね。アリスター様は私が卒業してすぐに結婚式をしたかったらしいんだけど、それは到底無理な話。だって春は結婚式ラッシュだから。貴族子女達は王立学園在学中から結婚の準備をもうとっくに始めてる。王都にある主な聖堂はお城にあるものを除いて四か所。卒業後の春から秋にかけては結婚式場になる聖堂を後から押さえるのはほぼ無理なのだ。だから秋。それもお祭りなんかが多い時期を避けるから秋の終わり頃、つまりほぼ初冬の結婚式になる。
「楽しみですわね。今、一番お幸せでしょう?」
「…………はい」
心からそう思えたことが嬉しかった。だってまさかこんな風になるとは王立学園の入学式の時には思わなかったから。
半年後、結婚式の朝
聖堂の控室で家族達との面会を終えた私はアンナにお化粧やドレスの最終チェックを受けてた。
「アンナったら!もう直すところなんてないわよ?」
「いいえ!お仕度は念入りにです、エメラインお嬢様!」
そこへノックの音がして入って来たのはアリスター様だった。
「アリスター様?!」
「待ちきれなくて来てしまいました!!私の可愛いエメライン!ああ!なんて綺麗なんだ!」
「お待ちくださいませっ!」
私を抱きしめようとするアリスター様をアンナが必死で止めた。
「そんなことをなさっては、せっかくのドレスや髪が滅茶苦茶になってしまいます!」
「ああ、これは申し訳ない。そうでしたね」
アリスター様はシュンとなっちゃったけど、私の両手を離すことは無かった。危なかった……。アリスター様は結構力が強いから、ドレスがしわになっちゃうところだった。
「アスルスワード様」
アンナが意を決したようにアリスター様に声を掛けた。
「アンナ?どうしたの?」
アンナはいつもニコニコしてるのに、急に怖い顔をするから不安になる。
「なんでしょうか、アンナさん」
私の手を離して真剣な表情のアンナに向き合うアリスター様。
「王立学園在学中のエメラインお嬢様は、いつも強張ったお顔をしていらっしゃいました」
「……はい」
「ちょっと、アンナ?何を……」
言いかけた私をアリスター様が腕で止めた。
「笑顔になられるのはノールタウンにいらした時ばかり」
「……申し訳ない」
「アスルスワード様にもご事情はおありだったのでしょう。けれど、でしたらこれからは今までの分もお嬢様をたくさん笑顔にして差し上げてくださいませ。どうかお願いいたします」
アンナはそう言って深々と頭を下げた。
「お約束します。アンナさん。もう二度とエメラインを悲しませるようなことはしません」
「ありがとうございます。エメラインお嬢様をよろしくお願いいたします」
「アンナ……」
「まあ!お嬢様ったら!お化粧が崩れてしまいます!さ、すぐに直しますからお座りください!」
「…………ありがとう、アンナ」
色づく木々に囲まれた王都の北の聖堂でこの日アリスター様と私は結婚式を挙げた。誓いの口づけは私達の初めての口づけだった。参列者の中にはなんとお忍びのユフィーリア様とローレンス殿下までいて、冗談ではなく腰を抜かしそうになった。護衛の人が困った顔をしてたけど、クリスさんやケインさんをはじめ、参列してくれた騎士団の人達もたくさんいたから、たぶん警備は大丈夫だったんじゃないかな。
アリスター様と私は今、雪の降るノールタウンで暮らしてる。今は恒例になった夕方の散歩中。
「じゃあ、トゲトゲハーブは無事に根付いたんですね」
「ええ。元気に増えているようですよ」
「じゃあ、春にはあちらでもトゲトゲハーブの花が見られるかもしれないですね」
「本当にいいのですか?ここにいてくれてもいいのに」
「何言ってるんですか。せっかく結婚したのに離れ離れなんて嫌です」
「エメライン!!」
小雪の降る中、トゲトゲハーブの野原の真ん中でアリスター様は私を抱きしめた。
結局アリスター様は騎士団を辞めることは無かった。トゲトゲハーブは順調に根付いているけど、全ての魔物の侵入を防ぐことはできていない。まだ力の強い魔物が王国の方へ向かってくることがあるから、砦が無くなることはないそうだ。ただし、人員を大幅に削減することになって、アリスター様の砦での勤務は半年ごとになった。私達は話し合って半年ごとにノールタウンと砦の街を行ったり来たりすることにしたんだ。もちろん、ノールタウンの町おこしは続けていく。
「さあ、次はこのノールタウンで何をしましょうか。私のエメライン」
「そうですね。新たな商品を開発しようと思ってます」
「次はどんな?」
「火を使わなくてもハーブが香る道具とか、この辺りで取れる大根があるじゃないですか?あれって凄く甘いんです。だからなんとかお砂糖を作れないかなって考えてます。それと……アリスター様?」
アリスター様は私を抱きしめたまま、私を見つめてる。結婚して旦那様になったのに、この至近距離でこの綺麗な顔に見つめられるのはまだ慣れない。恥ずかしい。
「顔が真っ赤だ……。いつもいつでも可愛いですね、私の奥さんは」
どんどん顔が近づいてくる。雪を舞い上げて風が吹き、足元のトゲトゲハーブを揺らしてく。冬でも香るハーブの良い香り。唇に温かい感触。私達はもう何度目かになる口づけを交わした。
終
ここまでお読みいただいてありがとうございました!
この物語はここで終わりとなります。
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