王都に魔物が現れた!
来ていただいてありがとうございます!
「皆さん!今日は嬉しいニュースがあります!」
「ゴクリ……」
「なんと!アロマランプの大量追加注文が入りました!!キャンドルの方にも!」
「うおぉぉぉ!」
「やったわ!」
「つきましては、小さいですが工場を建てて量産体制に入りたいと思います!」
「よっしゃぁっ!!」
ノールタウンの集会所は今日も大盛り上がりだった。よしよし順調順調!これから農作業も本格的になるし、夏までは町おこしのペースもスローダウン気味になる。私も卒業式を控えてるし、しばらくは町長さんやジョン君達、それにお父様とお兄様に領地のあれやこれやを任せようと思う。
「ランプ、王都でも売れ行きがいいようですね」
「はい!アリスター様のデザインのおかげです!よかったら、これからもご協力をお願いします」
「私のデザインでいいんですか?」
「勿論です!もちろんデザイン料もお支払いします。アリスター様のデザインは繊細で可愛さもあって、町の女の人達からも好評なんですよ!私も大好きなんです」
「……そ、そうですか」
「あれ?アリスター様?顔が赤いみたいですよ?大丈夫ですか?」
「……いえ、体調は何ともありませんよ、はは……」
ノールタウンでの町おこしの会議の後、王都に戻ってレストランで二人で夕食をとった。今日はアリスター様と一緒に注文してあったドレスの仕上げに王都のデザイナーのアトリエにも行ってきたんだ。私は既製品でいいって言ったんだけど、アリスター様がどうしてもって譲ってくれなくて、結局オートクチュールのドレスを作ってもらうことになった。この薄青色と白のプリンセスラインのドレスで、卒業式の後のパーティーに出席する。学園の行事にアリスター様と一緒に参加できるなんて思ってもみなかった。(パートナー同伴のダンスパーティーなんかは、外部からの参加オーケーになってる)不参加なことが多かったから今すごくワクワクしてる。
「この後もう少し時間いいですか?エメライン」
「はい。もうこれからは用事は無いので少しくらい遅くなっても大丈夫です」
「じゃあ、ちょっと付き合ってください」
アリスター様が連れて行ってくれたのは植物園のある広い公園だった。薄暗闇の中一つの区画だけとても明るく見えてる。満開の薔薇!
「綺麗……これは夜光薔薇ですか?」
「ええ。この時期に夜の間だけ花開く花です」
夜光薔薇は花が開く夜の間だけほのかに光を放つ不思議な植物なんだ。王宮にはたくさん植えられてるって聞いてたけど、ここにもあったんだ!
「あの……エメライン……これを」
花に見惚れてるとアリスター様に声をかけられた。振り向いてびっくり、アリスター様が跪いて小箱をこちらへ差し出してる。これっていわゆるアレじゃない?
「改めてになりますが、もう一度言わせてください、エメライン」
「は、はい……」
「改めてになりますが、どうか私とこの先の人生を共にしてください」
やっぱり、プロポーズだった!でもどうして?もう婚約してるのに?戸惑ったけどちょっと前世でも憧れてたシチュエーションだったから嬉しかった。
「は、はい!不束ものですがこれからもよろしくお願いいたします」
アリスター様は安心したように微笑んで、私の指にカットの美しい青い宝石の付いた指輪をはめてくれた。
「綺麗……ありがとうございます……」
「エメラインに私を好きになってもらえるように頑張ります」
「?私はアリスター様のことを好きですよ?」
「……ありがとう。今はその言葉だけで嬉しいです」
アリスター様は私を抱き寄せて頬にキスをした。なんだろう?ちょっと違和感……。そういえばアリスター様は必要以上に私に触れてこない気がする。今だってキスは頬だったし。婚約期間ってみんなこんな感じ?恋人同士ってもっと、その、くっついたりするものじゃない?アリスター様が紳士なだけ?
「エメライン、もっと私のそばに……」
突然アリスター様の声に緊張の色が混ざり、私を抱きしめる力が強まった。同時に少し離れた茂みがカサリと音を立てる。何?誰かいるの?覗き?変態?ボウッっと浮かび上がってきたのは黒い影みたいなものだった。よく見ると動物みたいにも見えるけど、多分生き物じゃない。だって向こうが透けて見えるもの。
「消えろ」
アリスター様は静かに手を振った。それだけでそれは消滅した。魔法を使ったらしいけど、どんな種類のものなのかは分からなかった。
「魔物だ」
「魔物?!今のも?!」
「すぐに帰りましょう。城へ行かなくては」
アリスター様の表情が今までになく強張ってる。あれが魔物なら緊急事態だ。私達はすぐにお城へ向かった。
この夜から、王都にこの影みたいな魔物が出現するようになった。ただ、現れるだけで特に何もしてこない。ただゆらゆらと揺蕩ってるだけ。けど事態を重く見た王国は砦から騎士団員を何人か呼び戻した。アリスター様はその指揮を執る為に仕事に戻っていったんだ。
「なにこれ、卒業式前にこんなイベントあったっけ?えーっとえっと……」
私は自室で考え込んでた。必死に思い出そうとするけど全然ダメ。私自身、このゲームをそれほどやりこんだ訳じゃなくて、キャラクターデザインのイラストレータ―さんが好きだっただけなんだ。一番の推しは実は宰相の息子のノインだったかな?藍色のサラサラの髪のキャラ。当時はすっごく好きだったけど実物はもちろん美形だけど私的にはそうでもなかった。自分のことで手一杯でお近づきになろうとも思えなかったし、そうしようと思ったとしてもメロディに早々に攻略されてて無理だったしね。それに、今はアリスター様の方がカッコいいと思ってる。
とにかくこんなイベントは知らない。無かったと思う。ということはイレギュラーが起こってるってこと。アリスター様と私の再婚約とか実際に色々ストーリーと変わってきちゃってるし、そういう事もあるんだろうか。被害が出てないにしても物騒だしアリスター様の事が心配だった。まだ怪我も完治してないのに……。
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「よっと!弱いなぁ。手ごたえが無いぜ」
ケインはゆらゆらしてる黒い影を魔力を込めた剣で切り伏せた。北東の荒野と違って魔物は抵抗もせずに霧散した。
「油断しないでください、ケイン副隊長」
「だってさぁ、クリス、これなら俺らがわざわざ出向かなくても良かったんじゃね?」
「まあ、我々でなくとも城の警備兵でも対処できそうですけどね」
クリスはため息をついて一振りもしなかった剣を鞘に納めた。
「この王都のどこかに巣があるのだろうか」
アリスターは眉をひそめて考えこんだ。ケインとクリスに緊張が走る。
「もしもそうなら、この先この王都が大変な事になってしまいます」
「でもさぁ、北東以外に魔物が出たなんて話は聞いたことが無いよな。何でまた急に?しかもこんな弱っちいのが出てくるんだ?」
「大地は繋がっていますから瘴気が流れ込んで来ている場所があるのかもしれません。とにかく早急に事態を収めなくては」
「応っ!」
「そうですね」
アリスターは普段は温和で優し気だが、こと魔物との戦闘となると人が変わったように凛々しく頼もしくなる。そんな隊長を彼らは誇らしく思っていた。
「これ以上エメラインを怖がらせるわけにはいきません!先日も私にしがみついてあんなに震えていて……可哀そうに……」
「…………」
「…………」
拳を握り締め、決意を新たにする隊長を生暖かい目で見つめる部下達。
「隊長、無事再婚約できたんだっけ」
「ああ。毎日ベルデ伯爵の屋敷へ行ってるそうだ。ノールタウンにも随行してるらしい」
「へぇ、領民にも受け入れられてるなら将来安泰だなぁ」
「先日、ドレスや指輪を受け取ってもらえたそうです。嬉しそうに話してましたよ」
「良かったなぁ。努力が報われて……うぅ……」
「さっさとこの件を片付けて、さっさと結婚式を挙げてもらいましょう」
「だな」
「行きますよ、二人とも。魔物の出現の傾向を見て巣のおおよその場所を割り出しましょう」
ケインとクリスは頷き合ってからアリスターの後を追って走り出した。
メロディは焦っていた。
(エリオットと結婚して南東の僻地へ行くのなんて絶対に嫌!)
しかしながら王立学園を落第または退学とまで言われてるメロディには碌な縁談が無かった。あの後それぞれの攻略対象者達に会いに行ったが、何故か皆、潮が引くようにメロディと距離を取り始めた。ましてやメロディと婚約してくれる者は一人もいなかった。貴族達の情報収集力は凄まじい。実際にはメロディと恋人同士であるエリオット王子から離れようとしていたのだが、事情を知らないメロディにはみんなの好意度が下がってしまった理由が分からなかった。
娘が可愛いバーネット男爵は王立学園に掛け合って、なんとか再試験を受けられるようにしてくれた。
(もしかしたら幾らかお金を摘んだのかしら)
メロディは勘ぐったが実際には男爵が何度も教師陣に頼み込んだ結果だった。
「努力の証を見せれば卒業させてくれるそうだ。今からでも頑張りなさい」
そう父から言われたのが特別再試の数日前。一応教科書を開くが全く身が入らない。勉強を教えてくれたり機嫌を取ったりしてくれる取り巻きもいない。すぐに飽きて自室を出たメロディの耳に使用人達の噂話が耳に入った。
「この王都に魔物が出たらしいわよ。怖いわねぇ」
(王都に魔物……?そんなイベント……そうだわ!あった!特殊課金イベントが!確かみんなと力を合わせてアイテムを三つ集めて魔物の親玉に投げつけると勝てるってやつ!それで一気にみんなの好感度が爆上がりするのよね)
全攻略者の好感度を最高値にする必要があるトゥルーエンドをゲーム終盤でも楽に目指せる有料のイベントが存在したのだ。コツコツゲームをプレイしてた側からは批判も多かったしメロディもそちら側だったが、諦めきれないメロディはその可能性に飛びつき、勉強そっちのけでアイテム集めに奔走した。
聞けば王都に幽霊のような魔物が現れ始めたという。
(ちょっと聞いてたのと魔物の感じが違うけど、まだ巻き返せるはずよ!)
ゲームストーリーに固執したメロディは結果的に再び間違った選択をすることになる。何故なら王都の中心地に出現した魔物の王は夜のうちにアリスター、ケイン、クリスが中心となった精鋭部隊によってあっという間に討伐されてしまったから。メロディが駆け付けた頃にはイベントの場所には焼け焦げた跡が残るのみで、何も起こらなかったという。再試験当日の事だった。
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