表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/21

メロディの失望とエリオットの失脚

ここまでお読みいただいてありがとうございます!




「あ、いた!」


補習をサボってベルデ伯爵家の近くをうろうろしていたメロディは、馬車から下りてきたアリスターの姿を見つけて駆け寄って行った。

「アリスター様ぁ!!……っ!」

その後からアリスターに手を取られて下りてきたエメラインを見て足が止まる。二人は見つめ合い、いかにも仲睦まじそうに見えるのだが、メロディの目にはそう映ってはいなかった。


(何あの子……何で一緒にいるのよ。相変わらず地味なドレスを着てるわね。アリスターの優しさに付け込んで懲りずに色目を使っちゃって!アリスターは私のなのよ?!)


「アリスター様っ!」

「バーネット男爵令嬢?どうしてこんな所に制服のままで……?」

エメラインの呟きが耳に届く。自分がドレスを着ていなかったことに気づき、メロディは急に恥ずかしくなった。ついでに自分が今現在王立学園で補習を受けてることをエメラインに知られてる可能性にも気が付いた。

「何よっ!今回はちょっと調子が悪かっただけなんだから!」

頭に血が上り、聞かれてもないことに言い訳をしたメロディに対して、エメラインはただ不思議そうに首を傾げただけだった。


「アリスター様、バーネット様は何かお話があるみたいなので、私はこれで……」

アリスターの手を離し、エメラインは一人屋敷の中へ入ろうとする。


(そうよ、そうよ。さっさといなくなっちゃって!私が最近忙しくて砦に行けなかったからって、アリスターがあんたになびくなんてありえないんだからね!)


そんなメロディの心の声に反してアリスターはエメラインの手を離そうとはしなかった。

「いけません。これから一緒に雑貨店を回る予定でしたよね?」

「で、でも……」

「私には貴女との約束以上に大切な約束はありませんよ」

「は?」


(この私が会いに来たのに、どうしてそっちを優先するの?エメライン(あんた)も何、頬を赤らめてるのよ!)


「バーネット男爵令嬢、私は貴女と何かお約束をしていたでしょうか?」

打って変わって冷たい声に変わったアリスターはエメラインの手を握ったままメロディに向き直った。

「い、いいえ。お約束はありません」

「ですよね?私の記憶違いじゃなくて良かったです」

「お約束はありませんけれど、でも!アリスター様は建国祭で私をエスコートしてくださったでしょう?だからもっと仲良くなりたくて……」

「エスコート?いいえ。私はただご両親とはぐれた迷子をお送りしただけですよ?」

「迷子……?子ども扱い?」

アリスターは笑顔のままだったが、とても笑っているようには感じられなかった。隣のエメラインも戸惑ったような顔でアリスターを見上げている。


「何か誤解を与えてしまったのでしたら大変申し訳ありませんでした。けれど貴女は確かエリオット第一王子殿下と懇意にされておられるはずでしたね。であるならば、もう少しマナーを学ばれた方がいい。殿下に恥をかかせることになってしまいます」

「なっ……!」

「身分が低い者から自分より身分の高い者に声をかけてはいけません。これは貴族社会の基本ルールです。教わっていませんか?それに私は貴女に私を名前で呼ぶ許可を与えていませんよね?」

エメラインは意外そうな顔でまたアリスターを見上げた。そんなエメラインをアリスターは困ったような笑顔で見つめ返す。

「私をアリスターと呼んでいいのは家族と仲間と……そして彼女だけです」

再びエメラインの頬が朱に染まり、アリスターは満足気に微笑んだ。


「私、気分が悪いので失礼しますわ!これからエリオット様とお会いするので!」

エリオットは学園にはいなかったが、少しでもアリスターを怖気づかせたいが為にメロディは嘘をついた。自分は王子の婚約者だ。結婚すればアリスターよりはずっとずっと身分は高くなる。メロディはプリプリと怒りながら、いつも使わせてもらっているエリオットの馬車に乗り込んだ。


「何よ、あれ?!失礼しちゃうわ!もういい!アリスターなんて要らない!エリオット様に言いつけて降格処分にでもなんでもしてやるんだから!ああ!騎士団を辞めさせてやってもいいわね。二人して田舎の領地に引っ込んでればいいのよ!」


一人学園に向かう豪華な馬車の中でメロディは悪態をつき続けた。








「一体これは何の集まりなのですか?」


アイリス王国王城の国王執務室。呼び出されて入室した第二王子のエリオットは忙しい家族達が全て揃っていることに驚いた。そしてそこには宰相や主要な大臣達の他、何故かカルセドニー公爵とその令嬢ユフィ―リアもいた。狭くは無い執務室。なのにエリオットは異様な圧力を感じていた。


「ここへ呼ばれたこと。思い当たる節は無いか?」

父である国王がエリオットに尋ねた。思い当たる節はあったがそれをここで言うつもりはエリオットには毛頭無かった。

「いいえ。特には。兄上の立太子が決まったのでしょうか?」

それだけは困ると内心焦ったエリオットだったが、この場の雰囲気はそんなお祝いムードでは無いな、と考え直した。

「…………そうか。そなたから話すことは何も無いか。残念だ」

国王は一度深く息を吐いた。その行為がその場の空気を更に重くした。


「第一王子ローレンスに毒を盛っていたのはエリオット、お前だな?」


(バレた……バレた?バレたのか?何故気付かれたんだ?無味無臭の毒だったのに。そもそもあれが毒になると分かるはずが無いのに……。いやそんなことは今どうでもいい。まだ大丈夫だ。言い逃れは出来る。毒の入手には何人もの人を介してる。証拠は無いはずだ!)


エリオットの頭は急速に動いたが、全ての言い訳は二年に渡って丹念に調査された証拠や証言で論破され、エリオットは王室内での立場を完全に失う事となった。



最初に使ったのはじわじわとゆっくり体を蝕んでいく毒だった。エリオットが偶然見つけた書物の中にそれはあった。二つの食物を同時に摂取すると体に悪い影響が出ることがある。それを知ったエリオットは目障りだった優秀な兄を排除しようと思い立った。一つはお茶に忍ばせ、もう一つは良く使う調味料に忍ばせた。効果は覿面で、元々体が弱かった兄はじわじわと病んでいき、最近までは寝台から起き上がれない程になっていた。


しかし計算外なことが起こる。次第に次の国王にはエリオットをという声が大きくなってきていた矢先、突然兄ローレンスが復調し始めたのだ。エリオットが王立学園に入学し、メロディと懇意になってしばらくしてからのことだった。エリオットは焦った。焦って更に強く効果が出る直接的な毒物を使ってしまったのだ。疑われてることに気づくことなく。


結果、エリオットは王家から追放されることになった。本来なら王城の牢への幽閉よりも重い処罰がくだされるはずだった所をローレンスが温情を見せたのだ。「それは可哀相だ」と。優しい兄ローレンスの提案で、王籍を抜け南東の国境を守る伯爵家になることが決まり、生涯王国のために尽くすことが求められることとなった。ちなみにアイリス王国の南東方面には屈強な体を持つ遊牧の民がすむ高原がある。何度も襲撃を受け国境を侵されそうになっているという北東に次いで危険なエリアだった。


エリオットはその提案を甘んじて受け入れるほかなかった。この醜聞は表に出さない予定だという。この先誰にも知られず誰とも会えず幽閉されるのも、秘密裡に処刑されるのも嫌だった。もう王都へは戻って来られないだろう。何故なら遊牧民達の後ろには更に強大な王国の影があり、その全てをせん滅することは実質不可能だったから。華やかな王子の立場を追われ、生涯孤独に西の国境を守り続けるしかないのだ。


(メロディは一緒に来てくれるだろうか……彼女ならきっと一緒に来てくれるはずだ)


エリオットは目を伏せしばし項垂れた。次に顔を上げた時、以前よりずっと美しくなったかつての婚約者と目が合った。ユフィーリア・カルセドニー公爵令嬢は何か袋のような物を握り締めてローレンスの隣に座っていた。

「いい気味だと思ってるんだろう?」

「そのようなことは……」

「ありがとう。エリオット。お前がユフィーリアに酷い扱いをしてくれたおかげで僕は自分の体に起こっていることに気付くことができたんだよ」

ローレンスが会話を遮ってユフィーリアを抱き寄せ、二人は微笑み合った。


「ユフィーリアが?」

「僕の大切な人を呼び捨てにしないでくれる?」

「申し訳ございません。兄上。カルセドニー公爵令嬢」

「見舞いに来てくれたユフィーリアが最初に食事の味がおかしいことに気が付いてくれたんだ。それ以来調査が済むまでユフィ―リアとカルセドニー公爵が僕を守ってくれたんだ。感謝してるよ」

「…………」

「アイリス王国は僕とユフィ―リアが守っていくから。お前も力を貸してくれるよね?」

「はい。微力ながら……。この度はご温情に感謝いたします」


唇を噛みしめながら深く頭を下げたエリオットは理解していた。


(これは温情なんかじゃない。飼い殺しだ。戦い続けて死ねと言われたんだ。監視され、少しでも翻意を見せれば暗殺されるだろう……)


この先の人生を思い、エリオットは絶望的な気持ちになった。








王立学園の特別室には誰もいなかった。


「今日も補習があるはずなのに、なんで誰もいないの?せっかく今日は勉強しようと思ってきてあげたのに」

本来ならば教室で受けるはずの補習だが、メロディが嫌がったので教師が特別室へ赴くことになっていた。それなのにその教師の姿もない。

「何よ!先生までいないの?こういうの職務怠慢とかいうんじゃなかった?」

メロディは教科書を投げ出しふかふかなお気に入りの椅子に座り込んだ。


「ああ、メロディ!今日は来ていたんだね」

「まあ!エリオット様!」


(ああ!やっぱりエリオットが一番ね!アリスターなんておじさんよ!おじさん!そうよ!私は王太子妃に、王妃になるんだからアリスターの一人や二人、いなくてもいいわ!)


「エリオット様!聞いてください!先生が来てないんです!それにアリスター様が……」

「その前に僕の話を聞いてくれるかな?」

「え?は、はい」

エリオットが自分の話を遮るのは珍しい。いつにもまして深刻な表情に押されてメロディは口をつぐんだ。


「…………は?南東の国境へ?王籍を抜けて?王子様じゃなくなるの?」

エリオットは自身に起きたことを罪の部分は避けてメロディに説明した。

「ローレンス様とユフィーリアが?」

「それからもう君は補習を受ける必要が無いそうだ。勿論王子妃教育も必要無くなる」

勉強嫌いのメロディにとってはそこはありがたいことだったが、次の言葉を聞いて足元が落ちていく感覚に陥った。


「先生方が怒ってる。君は真面目に補習を受けてなかったそうだね。落第か退学を選べるそうだ」

エリオットがやや疲れたように説明した。

「だからもし落第を選ぶのならもう一年学園で頑張るといい。退学を選ぶなら僕の卒業後に一緒に南東へ来て欲しいんだ。いいかな?」

エリオットの言葉がじわじわと頭にしみ込んでいき、少しずつ理解が及んでいく。


「つまり私は王妃にはなれないの?」

「僕の事情でごめん。でもどの道君の身分と成績では王妃になるのは難しかったんだ。だから側妃または寵妃という形になったと思う。それも大変だしかえって良かったんじゃないかな?はははっ」

エリオットの乾いた笑いがやけに耳障りに響いた。


「…………そんなのイヤっ!!」

「メロディ?!」

エリオットはこんなのおかしいと泣き喚き続けるメロディを必死で慰め続け、何とかバーネット男爵家へ送り届けた。



その後、二人の周囲からは人が離れていきエリオットとメロディが言葉を交わす機会も減少していった。












ここまでお読みいただいてありがとうございます!

※第一王子の名前を変更しました。クリストファー→ローレンスです。すみません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ