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ハーブの香りのアロマランプ

来ていただいてありがとうございます!



「ねえアンナ。アスルスワード様のことで何かお母様に言ったりした?」

「ええ。砦であったことを全て奥様にお伝えしましたが?」

それが何か?という顔でアンナはお茶を淹れてくれた。やっぱりかー!!


最近どうも外堀を埋められてる気がする。お父様やお兄様、特にお母様はアスルスワード様に対しての当たりが柔らかくなった気がするし、二人で出かけるのを喜んで見送ってくれる。それに最近めっきり縁談が減った。図書館を利用するために時々学園に行くことがあるんだけど、今まであまり話したことのないご令嬢達から大変だったのね、おめでとうって言われたりする。中には涙ぐんでる子もいて、一体何が起こってるの?って不思議に思ってたんだ。お母様がお茶会かなんかでアスルスワード様のことを話してるに違いない……。


今日も卒業試験の結果発表を見に行ったんだけど、当たり前のようにアスルスワード様が一緒について来た。結果はなんとかいつも通りの順位だったし卒業は問題無し。まあ、すでに始まってる補習のお知らせは来なかったから大丈夫だとは思ってたけど、追加の課題(これは補習までは出なくてもいいけど、ちょっと点数足りないよねって人用)の提出も必要無くてホッとした。前世でもやってた一夜漬けはここでも有効だった。良かった良かった。


門の所で待ってたアスルスワード様の周りを、前みたいに女の子達が取り囲んでるってことも無くて、私が近づくと遠巻きに微笑ましそうな視線を向けてくるだけだった。何度も王都で一緒にいる所を見られてるんだから、再婚約間近って思われてても仕方ないのかな。

「どうでしたか?エメライン」

「はい。いつも通り可もなく不可もなくの成績でした」

「そう、良かったですね。今日これからは予定通りノールタウンへ?」

「はい。……やっぱり一緒にいらっしゃるんですか?」

「勿論!貴女の大切な場所を私も見てみたいですから」

今日もアスルスワード様は天使の……ううん、女神の微笑みだった。ちょっと眩しい。周りにいた生徒達(男女関係なく)からはため息がもれた。

「そうですか……」

私からは諦めのため息が出た。


何度断っても屋敷にやって来るアスルスワード様をお父様やお母様やお兄様、それにアンナまで歓待していてもうすでに婚約者みたいな扱いになってる。つまりは後は私の気持ちだけってこと。でもやっぱりよく分からない。嫌いでは無いと思う。たぶん。いずれは誰かと結婚しなきゃならないのなら、このまま再婚約した方がいいのかな。愛するより愛された方が幸せになれるって聞いたことがあるけど、そういうもの?……でも本当に信じていいの?






「ああ、これは良い香りがしていいですね」

柔らかなキャンドルの炎を見ながらアスルスワード様が微笑んだ。


ノールタウンでは新商品の企画会議を行った。今は様々なハーブを使ったアロマキャンドルを試作中だ。元々この世界には似たようなものがあったけど、ノールタウンの周辺に生息してるハーブは良い香りのものが多い。特にトゲトゲハーブは広い野原にたくさん生えていていて、一番いい香りがする。だから使わない手は無いよねってことで、商品開発をお願いしてたんだ。香り袋だけじゃ勿体ないものね。


「これが精油ですか」

ハーブから抽出した精油を瓶に入れたものを眺めてアスルルワード様は少し考え込んだ。

「これならランプの油に少し垂らしても使えそうですね」

「それはいい考えですね、アスルスワード様」

キャンドルだけだと灯りとしては少し弱いし、確かにランプの方がいいかもしれない。この世界には魔法を使った明かりなんかもあるんだけど、魔力を持ってる人が少ないからあまり普及してないんだ。

「では早速既存のランプ油との相性を調べましょう」

町長さんがメモに何かを書き付けた。


「実用的なのだけじゃなくて、可愛いデザインのランプを作ったらうけるかも……」

「いいですね!エメラインお嬢様!可愛くて良い香りのするランプ!私も欲しいです!」

今回会議に参加してる婦人会のケイトさんが賛同してくれた。こういう会議には各部署(?)の代表者が持ちまわりで参加してくれてる。大体ジョン君と町長さんはいるけど、それ以外の人達も参加できる大人は全員参加が基本だ。

「じゃあ、ちょっとその方向で進めてみましょうか」

ジョン君がまとめて、町長さんが頷いた。もうすぐここにも本格的な春が来る。ノールタウンの春は王都より少し遅い。間近に迫ったフラワーフェスティバルに合わせて、商品開発と準備は急ピッチで進んでいった。


「わぁ!アスルスワード様は絵が上手なんですね」

「ええ。幼い頃は画家になろうと思ってた時期もありましたよ」

会議室になってる集会所に居残ってランプのデザインを考えていたら、アスルスワード様が紙とペンでさらさらと可愛いランプのデザイン画を描き始めた。

「そうだったんですね……知らなかったです」

私との約束がなければその道に進んでいたのかもしれない。そうでなくてもあんな危ない戦いをせずに絵を描いて穏やかな生活してたのかもしれない。あんな大怪我だってしなくても良かったのに……そう思って少し胸が痛かった。


町の鍛冶屋さんにお願いしてアスルスワード様のデザイン画を元に、早速ランプを作ってもらった。鍛冶屋さんはふーむと一度唸った後、どんどん金属を打ち付けてデザイン画通りに形作っていく。

「すごい……!」

「砦にも剣を打つ凄腕の職人がいますが、こちらの鍛冶職人さんも負けず劣らず素晴らしい技術ですね」

キラキラした瞳で鍛冶屋さんの仕事に見入るアスルスワード様は小さな子どもみたい。この人ってこんな顔もするのね。


町の子ども達に剣を教えてとせがまれて笑顔で応じる優しいアスルスワード様。フラワーフェスティバルの為に空の樽(花を植えるプランター替わり)を運んでくれたり、土で服を汚しながら苗を植えるのを手伝ってくれたり……。嫌な顔一つせずにたくさん手伝ってくれた。この方本当に侯爵家の方なの?いや、私も大概人の事は言えないんだけど。


二人して汚れに汚れて夕方にノールタウンの屋敷へ帰って来た時は、アンナに物凄く怒られちゃった。

「まあ!なんですか!お二人ともそんなに汚して!すぐに湯浴みをなさってくださいましね!」

「ごめんなさい、アンナ」

「申し訳ないです、アンナさん」

アンナはお風呂の準備をしに走っていっちゃった。

「あの……すみません。たくさん手伝っていただいて」

「楽しかったですよ。こんなに楽しかったのは久しぶりです。王都も悪くありませんが、こういう暮らしもいいですね」

あ、今アスルスワード様と一緒にこの土地で暮らしていく未来がちょっとだけ見えた気がする……。ほ、本当にちょっとだけね!



「魔物が生まれた理由?」

お風呂に入ってさっぱりした後二人で夕食をとった。流石に今から王都へ帰ってくださいとも言えず、今夜はこちらに泊まってもらうことになった。居間でお茶を飲みながらのんびり話をした。日中は随分と暖かくなってきたとはいえ、まだ夜は冷えるノールタウンの屋敷では暖炉に火が入ってる。

「ええ。私は砦でよく考えていました」

アスルスワード様は魔物との戦いの中でそんなことを考えてたんだ。

「あの北東の荒野では大昔に酷い(いくさ)が繰り返されたと聞いています。恨みや無念を持ったまま亡くなった人もたくさんいたでしょう。そして魔物の中には好んで我々を襲って来るものとそうでないものがいる。人を襲わない魔物は野生動物と同じです」

「どうして違いが生まれるんでしょう?」

「そうですね……。まず魔物はどうやって生まれるか知っていますか?」

「たしか土中の瘴気が集まって魔物の元ができると教わりました。卵というか種みたいですね」

「種というのはいいかもしれません。種が芽吹く時に亡くなった人間の無念が一緒になって魔物が生まれることがあるのではないかと思っています」


私はお茶のカップを持って暖炉の前に座るアスルスワード様の近くに座った。

「無念……」

まだ生きていたかった。幸せになりたかった。最後に会いたい人がいた。

「それを持って生まれた魔物が私達を襲ってくる?生きてる私達が羨ましくて?」

「恐らくは。憎しみのようなものを向けられている気がするんです。まあ、私の考えだけで、確証などはないんですけれどね。でも戦う時には天の国へ行けるようにと祈りながら倒していましたね」

はははっと照れたように笑って、湯気の立つカップを口に運んだ。この人は優しいんだ。どこまでいっても。襲ってくる魔物達と戦いながらそんなことまで思いやれるなんて。


「でもそれだと、王都でも魔物が生まれてきたりもするかもしれませんよね?」

人が暮らしている限りは誰かを恨んだりする気持ちは存在するだろうから。あり得ない話じゃないかも。だって北東の瘴気の荒野とは地続きなんだもの。

「もしそうなったら怖いです……」

「大丈夫ですよ。もしそんなことになっても私がエメラインを守ります。私はその為に強くなったのですから」

アスルスワード様の手が私の髪にそっと触れた。大きな手、でも細い指。本当なら剣ではなくて絵筆を握っていたかもしれないはずの優しい手。


……顔が熱い。そんなことをそんな綺麗な笑顔で言わないで欲しい。いつまでもこだわって意地を張ってる自分が我儘な子どもみたいに思えてきちゃう。

「アスルスワード様……ありがとうございます」

「どうか、アリスターと」

「…………アリスター様」

「ありがとう、エメライン」

ホッとしたような笑顔のアリスター様の顔を暖炉の炎が温かく照らしていた。









ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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