休暇を取ってください
来ていたいてありがとうございます!
「お帰りなさい、エメライン。大変だったわね。アリスター様のご容態はどう?」
「もう命の危険はないそうです。ただ大きなお怪我だったので、復帰の時期は未定だとのことです」
「……そう。早く回復なさるといいのだけれど……。それはそうとアスルスワード侯爵家から再婚約の打診が来ていますよ」
「え?」
砦でのお優しい侯爵夫妻の顔が浮かぶ。本当にもう一度婚約をって考えてくださってるんだ……。
私は一週間ぶりに王都のベルデ伯爵家に戻っていた。卒業試験もすぐだし学生の私がこれ以上学園を休むのは良くないと諭されて、一度ノールタウンへ寄ってから家へ戻って来たのだ。
「…………」
「もちろんアスルスワード様にこだわる必要は無いわ。他にも条件の良い縁談はたくさん来ているのですからね。エメラインがどうしたいのか、貴女自身がよく考えて決めていいとお父様も仰っているわ」
「はい、わかりました。よく考えてみます」
「ああ、アンナは私と一緒に来て頂戴。お話がありますから」
「はい。奥様」
お母様はアンナを連れて行ってしまった。
『隊長は傷ものに……』
あの時言われてハッとなった。そうだ。私のせいでこんな綺麗な方に酷い傷が残ってしまうかもしれないんだ。もしかしたら怪我の後遺症で戦えなくなって騎士をやめなければならなくなるかも。そうなったら、メロディとエリオット王子殿下を生涯守り抜くっていう誓いが立てられなくなってしまう。
またストーリーを壊しちゃったのかもしれない。アスルスワード様の希望も。こんなことならやっぱり嫌われておけばよかった。優しい方だから私との約束を守ろうとして頑張ってくれたんだもの。
「責任、取らなきゃ……」
この先もし騎士をやめることになってしまったらどうしよう。好きな方ができたとして、可能性は低いと思うけどその方に傷跡のせいで振られてしまって生涯独身なんてことになったら……。アスルスワード様が嫌じゃなければ結婚してお支えしていく道もあるかもだけど、せめて生活の支援をさせていただかなくちゃ。そのためにはやっぱり私の収入を上げないといけない。
とりあえずノールタウンでの次の計画のことも伝えてきたし、砦からの帰り際に料理長さんからまたレシピをいただいて、それも渡してきた。これからもっともっと頑張らなくちゃ。そういえば、白魔法使いさんからは弟子入りしませんかって、謎のスカウトを受けたんだけど何だったんだろう?私には魔法は使えませんからって丁寧にお断りしてきたんだけど……。まあいいや。今日は明後日に迫った卒業試験の勉強をしよう。勉強は少しづつやってきているし、たぶん卒業するのは問題無いと思う。私は自室に戻って早速教科書を開いた。
試験が終わった王立学園は開放的な雰囲気が溢れていた。みんな安心したように笑いながら卒業後のことについて話し合ってて、とっても楽しそう。最近は日増しに温かくなってて、学園の庭や王都でも花が次々に咲き始めていた。テストもたぶんそれなりに大丈夫だと思うし私も久々に明るい気分になっていた。もうすぐノールタウンにも春が来る。花がいっぱい咲いたらフラワーフェスティバルだ。また学園や王都で張り紙をさせてもらったり、ビラを配ったりしようかな。
そんなことを考えながら、学園の門へ向かうとなんだかその辺りが騒がしい。主に女の子達が騒いでるみたい。
「誰かが門のそばに立ってる……え?アスルスワード様?!」
「エメライン!!良かった、行き違いになってなくて!失礼します」
アスルスワード様は周りを取り囲んでいた女の子達をかき分けて私の方へ歩いて来た。その足取りは確かで、とてもあんな大怪我をしているようには思えないくらいだった。
「どうして……もう出歩かれて大丈夫なんですか?左腕は……」
「ええ。普段から鍛えていますからね。あの程度の怪我は何ともありません」
いや、だから、貴方死にかけてましたよね?本当にあの時のあの状態って何だったの?
「今日はエメラインを口説きに来ました」
「…………はい?」
聞き間違い?今、目の前の美青年からすごい言葉を言われたような気がする。
「私は貴女を手に入れるまでは諦めません」
そう言って微笑んだ顔は今までに見たことがないくらい綺麗で、周りの女子生徒達から悲鳴が上がるほどだった。
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「休暇を取ってください!」
「しかし……」
「どうせ今ここに隊長がいても役に立たないでしょう?」
「酷いですね……」
寝台の上にゆったりと座ったアリスターが悲しそうに微笑んだ。
「とにかく一度王都へ戻ってください」
「おおっ!あのクリスが手厳しいこと言ってる!」
「そこっ!ちゃちゃをいれないっ!」
エメラインが王都へ戻った後の砦では、第八部隊の隊員達が訓練の合間に療養中のアリスターの部屋に見舞いに来るのが常になっていた。
「でもまあ、隊長は働きすぎだしなぁ。上が休まないと下も安心して休めないぜ」
「副隊長は関係なくサボってますけどね」
「そこ!うるさいぞっ!」
「大体、どうしてベルデ伯爵令嬢を帰してしまったんですか!」
「卒業試験もあると言っていましたし」
「試験なんて普段からしっかりやっていれば後でどうとでもなります!」
「さすが秀才!言うことが違うねぇ」
「ケインは黙っててください!」
「しかしさすがに婚約もしてないのにこれ以上縛り付けるわけには……」
アリスターはこの期に及んでも、まだもじもじ指をいじっていた。
「それです!なんでもう一度求婚して婚約の約束を取り付けておかないんですか!」
「でも大丈夫じゃね?あのお嬢さんは男気あるし、他の奴と婚約する気は無いって言ってたし、無責任なことは言わないだろ?」
「甘い!彼女は今や注目の的なんですよ?ムスタ豆粉の事業は恐らく我々の想像よりも大きく広がっていくでしょう。彼女は金の卵を産む鶏だと思われているのです。つまり引く手数多なんですよ!」
「それもこれも隊長がほっぽっといたおかげだな」
「うう……」
クリスとケインの容赦ない攻撃がアリスターを打ちのめした。
「でも!隊長はこの砦のアイリス王国の英雄ですよ!隊長がいなかったらこの平和はなかったです!」
一番年若い隊員が隊長を助けるべく声を上げた。
「そうですよ!魔物もめっきり減りましたし!!」
更に賛同の声が上がる。
「ありがとうございます。でも魔物の討伐は皆で成し遂げたものです。それにこの周囲の掃討が終わっただけで、魔物はまた復活してくるかもしれません。油断はできないのです」
「……隊長はご自分がどこぞの見知らぬ令嬢や他国の女性と結婚させられることになってもよろしいのですか?」
クリスが寝台のそばに仁王立ちになって腕を組み、アリスターを見下ろした。
「え?!それは嫌ですねぇ」
「貴方はご自分が政略結婚の対象になる可能性に気付けていますか?」
「確かに私は侯爵家の令息ではありますが、四男ですし……」
「甘いです!貴方は今や王国を魔物の脅威から救った英雄なんですよ?」
「先ほども言ったようにそれは私だけの功績ではありませんよ。それに私には傷跡が残るでしょうし……」
「でも美しい顔は無事です。それに愛のない結婚なんて貴族間ではざらでしょう?」
クリスの言葉を聞いてアリスターはしばし考え込んだ。
「…………それは嫌です。エメラインじゃなければ結婚なんてしたくない」
「だったら!もう一度想いを伝えて、求婚すべきです!何度でも何度でも!」
「もう一度……と言うか、私はまだ一度もエメラインに気持ちを伝えたことはありませんが……」
アリスターは頬を染めて照れたように微笑んだ。その顔は女神のように美しくはあった。あったのだが……。
「…………」
「…………」
「…………」
「?」
「…………マジっすか?」
「何やってたんですか!あんたはっ!!さっさと休暇を取って会いに行って来い!」
とうとうクリスが切れた。
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