私が養います!
来ていただいてありがとうございます!
あ、アンナが頭を撫でてくれてる。アンナの手、あったかい。
…………あれ?アンナの手ってこんなに大きかったっけ?
「風邪をひいてしまいますよ」
「えっ!」
至近距離にものすごい綺麗な顔が!
「アリスター様?!私……寝てしまって……?すみませんっ!」
いつの間にかアリスター様の寝台にもたれかかって眠ってしまってた。看病しる私が寝てちゃダメなのに……。起き上がった時に上着が落ちてから、慌てて拾い上げて椅子の背もたれにかけておいた。部屋の中は静まり返ってて、アンナもクリスさんもケインさんもいない。
「エメライン、大丈夫ですか?疲れているでしょう?部屋を用意してもらっていますから……ゴホッ」
「アリスター様!大丈夫ですか?!」
水差しの水をグラスに注いでサイドテーブルに置いた。肩の傷に触らないように注意して体を支えてお水を飲んでもらった。
「ありがとう。もう私は大丈夫だから部屋で休んでください」
「大丈夫じゃありません!さっきまで死にかけていたんですよ?早く横になってください!」
「私は鍛えていますから、多少の怪我ならすぐに回復します。……どうか私のことはお気になさらず」
いやいや!これは多少の怪我じゃないでしょう?包帯を変えるのを見てたけど、かなり深い傷が肩や胸、腕にあって思わず目を背けるほどだったのに。言葉だっていつもよりもゆっくりで、話すのも辛いんだと思う。
「いえ!この怪我は私のせいです!人でも足りないみたいですし、せめて回復するまでお世話させてください!」
「いいえ!それは違います………………これ以上迷惑をかけるわけにはいきませんから」
「いやいや隊長!やせ我慢しないでお願いしましょうよ」
「婚約を解消してからの隊長は見る影もなかったんですからね」
いつからいたの?もしかして廊下にいたとか?ケインさんやクリスさん、他の隊員さん達がなだれ込むように部屋に入って来た。今は医務室ではなく(アリスター様が一番重症で重体だった)、砦の中のアリスター様の自室に移ってる。
「そうそう、ろくに食事も取らないで痩せちゃってさ。そんなんで戦闘に出るからこんなことになったんでしょうが」
「…………」
「…………」
アリスター様、黙っちゃった。私も何て言っていいのか分からない。……それって婚約解消が嫌だったってこと?でもメロディのことは?ゲームのストーリーってどうなってるんだろう……。もう関係なくなっちゃってる?ユフィーリア様は婚約解消しちゃったし、でも断罪はされてないし。他の攻略対象者はまだメロディのそばにいるよね?もう分からないことだらけ。約束の事もそうだけど、私はまだいろいろと混乱してた。
お昼前にアスルスワード侯爵と侯爵夫人が慌てたように部屋に飛び込んで来た。私はそっと部屋を出ようとしたけど何故かお二人に引き留められてしまった。お会いする機会はあまりなかったけど、お二人にはいつも優しくして頂いていた。だから婚約解消の事が申し訳なくて顔を合わせずらかった。それなのにお二人ともアリスター様がこの三年間王都に全く帰ってこなかったことを謝ってくれた。ご嫡男以外には放任主義だったらしく、あまり気にかけてなくともちゃんとやってるだろうと思っていらしたらしい。息子の顔を見て安心なさったのか、すぐに王都へ戻られるとのことだった。本当に放任主義なのね……。帰り際に「できれば息子とのことを考え直してもらえないか」って言われて言葉が出なかった。侯爵夫人は「ゆっくりでいいから考えてみてね」って笑ってくださったけど、私はどうしたいんだろう?
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アリスターの体は一時の危篤状態が嘘のように回復していた。傷の痛みはもちろんあったが、愛する少女がそばに付きっきりでいてくれるのだ。心はここ最近で一番軽かった。エメラインが勧めてくれればいくらでも食欲がわいた。そうなると気になってくることがあった。
(彼女はいつまで一緒にいてくれるのだろうか……)
エメラインとはもう婚約を解消してしまったのだ。アリスターは自分の過ちを自覚していた。婚約状態であることに安心しすぎて彼女を放置して、一人で突っ走ってしまったのだ。嫌われてしまっても仕方がない。だからこそ一度は諦めたのだ。それでもこうして自分を心配して駆けつけてくれているのだからもしかして……と淡い期待を抱いてしまっていた。アリスターは思い切ってエメラインに尋ねることもできずに、彼女の厚意に甘えている自分に悶々とした思いを抱えていた。
「なぁ、お嬢さんはまだ婚約者を決めてないんだろう?」
静かで穏やかな空間に爆弾を落としたのはケインだった。
「な、ケイン、おま、バカ!!」
午前中の訓練を終えた隊員達が何人かアリスターの様子を見に来ていたのだか、副隊長の恐ろしい発言にその場にいたみんなが凍り付いた。
「私はどなたとも婚約するつもりはありません。微力ながら領地の発展に尽くすつもりです」
それまで笑顔でアリスターの食事の介助をしていたエメラインが少し硬い表情になった。反対にアリスターの表情がパッと明るくなる。
「だったら!隊長でいいじゃないですか!」
「私でって……」
信頼する部下の言葉にちょっぴり傷つくアリスター。
「そうですよ!」
「隊長はさぁ、今回の件で傷ものになっちまったし、引き取ってやってよ。お嬢さんならそういうの気にしないだろ?」
ケインは全く悪びれもせずにエメラインに言い放った。ますますエメラインの表情が強張り、それを見た隊員達は焦った。
「傷ものって…………」
「ケイン副隊長……それはちょっと……」
「失礼だと思いますよ?」
あまりの言い草に他の隊員達から批判の声が上がる。エメラインはとうとう両手を握りしめて俯いてしまった。
「ケイン!!」
アリスターが珍しく大声を出してケインを止めた。
「エメライン?この怪我は貴女のせいではありません。どうか気にしないで。私は女性ではありませんし、傷跡についても全く気にしていません。ケインの言ったことは無視してくださいね」
「じゃあ隊長はこのまま指をくわえて見てるんですか?惚れた女が他の……」
「ケイン!!いい加減にしろ!」
(私だってそんなことを受け入れたくはない……。けれど一番大切なのはエメラインの気持ちだ……)
アリスターの心の声に呼応するように部屋の中に重い沈黙が落ちた。
ちょうどその時、クリスがアンナを手伝ってお茶のカップをのせたトレーを持って部屋に入ってきた。
「どうかしましたか?…………ケイン?お前また何か余計な事を言ったのか?」
「別に。俺は隊長の事を心配してるだけだ」
「だから、それが余計だと言ってあっただろう?!」
「分かりました!」
それまで黙っていたエメラインが突然と立ち上がった。
「え?」
「責任は取ります!もしもアスルスワード様がこのお怪我の傷跡のせいでご結婚が叶わなかったら、私が一生養います!!」
エメラインは拳を握りしめて宣言した。
「おー!男前!!」
ケインがぱちぱちと手を叩いた。
「かっこいい……」
「すごい……」
隊員達から次々と賞賛の声が上がった。
「確かに……ですが何かが違う気がします……」
クリスはお茶のトレーをテーブルに置いて、額に手を当てた。
「アンナ!次の休みにはノールタウンへ行って、フラワーフェスティバル計画の練り直しをするわ!」
「はぁ……。アスルスワード様、責任を取って下さいませね」
アンナは恨めしそうにアリスターを見つめた。
「……は、はい」
アリスターはそう答えるしかできない。
「何を言ってるの?責任は私が取るのよ!さあ、もっと新たな特産品を開発して、領地を豊かにするわよ!」
(これは喜んでいい事なのでしょうか……?)
アリスターもまた愛する少女の決意表明を複雑な気持ちで聞いていた。
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