9話 おかしな少女との遭遇【フェーズ1】
「ど、どこまで、この山進むの?」
「なんだ、もう疲れたのか? 情けねぇなあ……」
わたし達は、今深い森に囲まれた山を進んでいる。
断崖絶壁じゃなくて、比較的に緩い傾斜だから、そこまではキツくはないんだけどね。
立ち止まったロイは、呆れた顔でわたしを見てる。
わたしは元々インドア派だから、こんな山登りなんか無理。
でも、まあ、わたしが原因であるから、仕方がないんだけど。弱音吐きそう……
「ほら、行くぞ。目的の国までは、まだまだあるんだからな」
「……分かってるわよ」
もう山に入って、道無き道を進んで二日が過ぎている。
まだまだ山が続いてるし。
どれだけ進めば、目的地にたどり着いけるんだろう。
アッシュをぶん殴ったせいで、指名手配されてる可能性があるみたいだし。
目的の港がある国まで、人目を避けて深い山を越える必要がある。
街道は目立つし、すぐに捕まってしまうってロイが言ってた。
元盗賊のロイだからこそ、説得力があるんだよね。
はぁ……とにかく今はお風呂、入りたい。
風呂なんか毎日必要ねえだろ、ってロイは言ったけど、女の子だから、やっぱり必要だよ。
「さっさと歩けよ」
「はい、はいっと」
こんなやり取りを、すでに何回もやってる。
今日中には、尾根を一つ越えておきたいって、言ってたなぁ。
このペースで、たどり着いけるといいなぁ。
でも、そうそう事が上手く運ばないのが、世の常なんだよね。
「チッ、まさかこんな所で出くわすとはな」
「……? どうしたの、ロイって……あ!」
木々の隙間から、こっちを見ている影がある。
緑の肌に、筋肉質の身体。木が遮って顔は、ちゃんと見えない。
隠れてるつもりだろうけど、身体が大きいから木からはみ出してるよ。
「……あれじゃ、バレバレだよね。で、あれは何?」
「何って、どう見てもオークだろ」
あれがオークなの?
他のゲームとかで見た事はあるけど、本物は初めてだよ。
「ね、どうして隠れてるんだろ?」
「そりゃ……不意打ちで襲ってくるためだろ……って、おい、オーク共。もうバレてんだから、出て来な!」
「ゴッフ」
「ゴフゴフ」
「ブヒブヒ」
「クッコロ、クッコロ」
他の場所からもオークが出て来たよ。合わせて四匹もだ。
うわぁ……思ったより豚鼻だ。下顎から突き出した牙も、鋭そう。
「四匹もいるのかよ……全く面倒くせえなぁ」
とか言いつつ、ロイは全然余裕の表情をしてる。
「オトコ殺シテ餌、餌」
「オンナ、楽シミ楽シミ」
にや〜っと笑うオークに、わたしの背中がゾゾっとした。
な、なんか気持ち悪いよ。
「……勝手な事言ってんじゃねぇ。お前らごとき、相手じゃねーんだよ」
「ロイ……」
いざと言う時には、頼りになるんだよね。
武器を構えてるロイは、どことなく様になってる。
にじりと、ロイは攻撃のタイミングを計ってる。
オークたちは、まだ武器さえ構えてない。
格下を相手してるつもりなんだ。
「……余裕なのも、そこまでだ。覚悟しろよ、オーク野郎共」
言って、ロイがオークに攻撃しようとした瞬間だった。
――てりゃああああ!!
突然どこからか、女の子の叫び声が響き渡った。
「な、なんだぁ、この叫び声は!?」
「あ、あそこだよ、ロイ!」
森の中から飛び出してきた少女。その手には、巨大なハンマー。
巨大なハンマーを少女は軽々と持ち上げている。
そして――
グシャっ!
彼女はオーク目掛けて、一気にハンマーを振り払った。
四匹いたオークたちの上半身は粉々になって、跡形もなく吹き飛んでいた。
「む!? 男……貴方もオークの仲間さんですね!」
少女は巨大なハンマーを振りかざし、今度はロイを目標にして、猛ダッシュで突進してくる。
「ちょ、ちょっと待て、餓鬼! どう見てもオークの仲間じゃないだろ!」
「問答無用です!」
聞く耳持たないの、この子は!?
このままじゃ、ロイもオークたちと同じ運命になっちゃうよ。
う〜仕方がない。
信じるわよ、イザベルの力と周回プレイで培ったパラメータ値を!
「ちょっと待ちなさい!」
オークを粉々にした自慢のハンマーを、こんな可憐なわたしが受け止めてやった。
「ふぇぇ!? エレの攻撃を受け止めたです!?」
この女の子は、かなり驚いてるようね。
まあ、ロイは若干引いてるけど。
「……お姉さんは、いったい何者なんです?」
「わたしはイザベル。こっちの人はロイ。少しは落ち着いて話をしましょ? ね」
バイトで会得した、営業スマイル。
どうよ、この極上の笑顔を見て。これでこの子も信用してくれる……はず。
「……ふむ。お姉さんは信用出来そうです。でも、そっちの男は信用しないです」
少女は無骨な巨大な鉄の塊を、軽々と一回転させて、地面に突き立てた。
「な、なんでだよ……俺のことも信用しろよ」
「家族以外の男は、全員ゴミです。死ねばいいです」
うわぁ……男はゴミって、ずいぶんと過激な事を言う子だ。
ロイは少し落ち込んでる。ゴミ呼ばわりされて凹んでるんだ。
可哀想だけど、ちょっと面白いかも。
凹んでるロイなんて、そうそう見れるものじゃないしね。
それにしてもだ。
この子よく見ると、すっごく可愛い美少女さんだ。
目もぱっちりしてるし、ひらひらした洋服も似合ってる。
亜麻色の髪、赤いリボンでツインテールも、服装にマッチしてる。
これは、男の子にモテそうだわ。
「ね、あなた名前は?」
「エレです。アマドアの街にあるギルドのエースをやってるです!」
可愛らしく、彼女はにっとはにかんだ笑顔をしてみせた。
って、ギルドのエース!?
この子はどう見ても子供だよ?
労働基準法は、いったいどうなってるのよ、この世界は!




