10話 おかしな少女との遭遇【フェーズ2】
わたしとロイ、エレは森の中を歩いている。
「なあ、餓鬼。お前、本当にギルドの人間なのか?」
エレは頬を膨らませると、プイッと顔を逸らした。
「……そうです。なにか文句あるです?」
「文句はないけどな……お前、どう見たってギルドに登録出来るような歳じゃないよな?」
ギルドに登録出来る歳じゃないって、この世界でも未成年労働はダメなんだ。
よかった。ここには労働基準法違反をした子はいなかったんだ。
「……問題無いです。エレは強いから、十三歳でも特例で登録できるです」
ますます顔を膨らませちゃった。
この顔、わたし知ってる。
幼い頃、両親に怒られるのが嫌で、嘘をついた時のわたしもこんな顔をした記憶がある。
なんだか、自分と重なって見えるなぁ。
「ね、エレちゃん。わたしに本当の事を教えてくれるかな?」
「……分かったです……えいっ」
わわっ!? この子、急にわたしの手を握ってきたよ。
握った手、小さいなぁ。
なんだか妹が出来たみたいな感じ。
「おい、餓鬼。なんでそんなにニヤニヤしてんだ?」
「うっさいです。お姉さんとの時間を邪魔するなです」
ロイ言われて気づいたけど。
そのニヤけた顔は少女のそれじゃなく、どちらか言えばおっさんが女子高生を見てるときのような……
ううん、そんな訳無いよね? わたしの気のせいだ、うん。
「でね。エレちゃんは、本当にギルドの人なの?」
「……本当はまだギルドに登録できてないです。ギルマスやってるお兄ちゃんに内緒で、ここまで来たです……」
ギルドって、MMORPGとかのギルドと同じ意味だと思う。
ギルマスって、たぶん『ギルドマスター』の事……だよね?
わたしが知ってるゲームの知識じゃ、クエストで魔物を倒したり、賞金首を捕まえたりするんだけど。
それってヤバくない?
わたしは賞金首の可能性もあるし、ロイなんか完全に犯罪者やってたんだよ?
その関係者と、一緒にいるのは良くないんじゃ……
でも逃げようにも、この子がしっかり手を握って、離してくれそうもない。
どうしたらいいんだろう、困ったな。
そうだ!
適当に話を聞きながら、どこかのタイミングでこの子と別行動を取ろう。それなら怪しまれない。
うん、我ながらいい考えだよ。
何か話すことがないかな……そうだ。
「ねえ。ロイはエレがギルドの人じゃないって、どうして分かったの?」
「ああ、それはだな。俺の盗賊団に、ギルドを辞めた元冒険者の奴が何人かいてな。それで敵対する組織の事を知るために――」
「あーあーあーあーあーあー!!」
「な、なんだ急に……って、ああ、そう言う事か」
ロイがバツの悪そうな表情をしてる。
わたしの言いたいことをロイも気づいたみたい。
それにしても迂闊もいいところだよ。
ギルド関係者っぽいエレの前で、敵対とか言葉を出すなんて。
ロイのバカ!
「あの、どうしたです? お姉さま」
「う、ううん。なんでもないよ、エレちゃん」
また話が逸れちゃったよ。もう、ロイのせいだよ!
わたしが睨んでも、ロイは全く気にしてるようでもない。
「でね、エレちゃん。エレちゃんは、どうしてこんな山奥にいるの? きっと、ギルマスのお兄ちゃんも心配してるわよ?」
「……エレの実力を認めないギルドの連中を、見返すためにやってるです。お兄ちゃんは関係ないです!」
ちょっと不機嫌そうに、赤い頬を膨らませたよ。
「なるほどな。自分の実力を知って貰おうってか。なかなか気に入ったぜ、餓鬼」
「……お前になんか気に入られても、嬉しくもなんともないです」
「ぐ……可愛げのない餓鬼だな……」
この子、ロイには素っ気ないよね。
まあ、出会ってすぐに、ロイをゴミ扱いするくらいだし。
「じゃあエレちゃんは、どうやって皆に実力を示そうとしてるの?」
「聞きたいです? お姉さま」
この子、わたしには美少女的な笑顔を向けてくるんだよね。
この違いはいったい、なんなんだろう? ま、気にしても仕方がないよね。
「うん、教えてくれるかな、エレちゃん」
「はい、お姉さま……あと、『エレちゃん』じゃなくて、『エレ』と呼んでくださいです」
「う、うん。分かったよ、エレ」
う〜……なんだろう、この違和感は。
な〜んか、この感覚を知っているんだよねぇ。
なんだったっけかなぁ?
「……? どうしたです? 何か変です、お姉さま」
「き、気のせいだよ、エレ。さ、さあ理由を教えてくれるかな」
「はいです、お姉さま!」
エレは実力があっても実践が無いし、ギルドに登録できる年齢にも達してない。
自分を小馬鹿にするギルドの人たちを見返してやりたい。
それでギルドに出ていた依頼書を、ギルマスにも内緒で勝手に受けてしまったみたい。
そんなの、勝手にしていいものなの?
あとで、すごく怒られるヤツなんじゃないんだろうか。
「一応聞いとくが、それどんな依頼なんだ?」
「……この山の麓にある小さな町の生活水が、毒のような水になって困ってる、って言う依頼です」
「それって、簡単な依頼なの?」
ツインテールが揺れるくらいに、エレはブンブンと顔を横に振った。
「何人かが先にこの依頼を受けたです……でも、誰一人戻って来てないです……」
ギルドの人が戻って来ないって。
それって、結構ヤバイ依頼なんじゃない?
「……お前みたいな餓鬼が、どうこう出来るような問題じゃねーんじゃないのか?」
ロイの言うとおりだ。
エレみたいな少女が、ギルドの冒険者でも達成できないクエストをクリアできるとは思わない。
危険すぎるでしょ。
「問題無いです。エレの実力はさっき見たはずです。だから、この山の先にある廃城に住む悪魔なんて、簡単に倒せるです!」
なんだか、よく分からないけど、とにかくすごい自信だ。
まあ、オークを一瞬で四匹も倒したのは、見たけれどもね。
けどなんだかんだで、エレはまだ子供でしょ。
それに悪魔……悪魔? 悪魔なんているの、この世界に!?
わたし知らないよ、そんなの。
『ロイヤルプリンス』に、悪魔なんていなかったよ?
どうも、この世界は、わたしが知ってる『ロイヤルプリンス』の世界と違うみたい。
それに、町の問題と悪魔が、どう関係するって言うの!?




