7話 真相
「……ねえ、どうして貴女はここにまた戻って来たの? アッシュや他の四人に捨てられたクセに……クスクス」
「……そうですわね……普通なら戻ってくる事なんて、致しませんわ。でも、わたくしには、アッシュに聞かなくてはいけない事があるのです!」
追放されて戻ってくるのが普通じゃないって、自分でも分かってるよ。
でも、じっとしてるなんて真似は出来ない。
「アッシュに聞く事ね……そうね、例えばアルヴァンが貴女を殺しに来た事とか? それとも、エドワルドが貴女を殺そうとした事? クスクス……」
アルヴァンの事は、そこにいるグリークに聞いたのかも知れない。
でも、エドワルドの事は、わたしとロイしか知らないはずなのに。
「……お前が全部仕組んだ首謀者ってわけか……この女を狙う理由はなんだ?」
ロイが問う。けど、ナオはずっと笑っているだけだ。
アルヴァンやエドワルドに襲われたときの怖さとは、もっと別の怖さを彼女から感じる。
「なぜ? 前にも言ったけど、その女のことが邪魔で、殺したいほど嫌いだからよ クスクス……」
そんなにわたしの事が嫌いだったの、ナオは。
そんな素振りは、見せたことがなかったのに。
「……貴女、どうしてそこまで!」
「はっ……ずっと嫌いだったって言ったでしょ? 昔から人気者で、皆に慕われてて……暗い私とは大違い。親友のフリをして、影で私を笑い者にしてたくせに!」
「え……? わたしはそんな事してない! ナオを笑い者になんかしてないよ……信じて!」
「はっ……口ではなんとも言えるものね……ステータスオープン」
ステータス……オープン!?
なに、その単語……
「なに、驚いた顔してるの? 貴女だって、これを使って王子たちの心を操ったんでしょ? でなきゃ、あんたなんかが、王子たちに好かれる訳ないもんね!」
そんなの知らないよ……ステータスってなに?
彼女の前にスマホみたいな画面が浮かんでる。
あれがステータス? あれでアッシュ達の心を操ってるって事なの!?
「おい、お前! あの女、さっきからなにを言ってるんだ? なんかの魔法なのか?」
ロイには見えてないんだ。あの小さな画面が。
「それなんなの? それがステータスって言うの!?」
「クスクス……そうよ? これ、面白いわよね……この街の人たち全員のステータスを変更できるんだもの。
なにより私の思い通りに動いてくれるのよ? だからね、こう言う事も出来るのよ」
――きゃああああ!! 助けて、アッシュ!!
「大丈夫か、サクラっ!?」
ナオが叫んだと同時に、アッシュと数人の兵士が部屋になだれ込んできた。
アッシュは、敵を見るような目をしてる。
「イザベルか……サクラの言ってたとおり、君がボクとサクラを暗殺に来るとはな……」
ここに来ることを事前に、アッシュに教えていたんだ。
部屋の外で待機させて、こうなるように仕向けたんだ、この子は。
でも、チャンスだ。
アッシュの誤解を解けるかもしれないんだから。
この機会を逃すわけにはいかない。そのために、わたしは来たんだから。
「待ってください、アッシュ。わたくしは、この子も貴方も暗殺なんて――」
「嘘よ! だって、あの女は盗賊団のリーダーを連れて来てるんだよ? 彼女を信じるの、アッシュ……?」
ナオは泣きそうな表情を作って、アッシュに寄りかかってる。
アッシュも優しくナオを抱きしめてるし。
「……盗賊団のリーダー? そんな危険な奴を使って、ボク達を襲いに来たって言うのか!」
ナオは小さく舌を出して、ほくそ笑んでる。
その表情に、アッシュは全く気づいていない。
――プチ
「……全く……このぉ……」
「お、おい、女!? ちょっと落ち着けよ……?」
ロイは、わたしをなだめようとしてくれてるけど。
ナオの言うことを信じて疑わないアッシュに、もう限界だよ。
「このバカ王子ぃぃ!」
ゴツっ!
「ぬべらぼっ!?」
わたしの右ストレートが、アッシュの顔面に炸裂した。
ぶっ飛んだアッシュは、激しい音を立て部屋の壁に激突してしまった。
「お、王子ぃ!?」
「アッシュ様!?」
アッシュは白目を向いて、ピクピクしてる。
兵士達が心配そうに、アッシュの周りに集まってる。
「お前、やる時はやるんだな。ちょっと見直したけどね……この状況は、やっぱ不味いな」
「え……そ、そうです?」
怒りに任せてぶん殴ったのはいいけど、ロイの言うとおり、これは不味いかも。
一国の王子であるアッシュをぶん殴ったんだから、ただじゃ済まないよね。
「アッシュ! アッシュ!? このぉ……兵士達、この女を捕らえなさい!」
ナオはさっきまでと違って、余裕のある表情じゃない。
本気で怒ってる顔だ。
兵士たちも怖い顔で、わたしとロイを睨んでる。
「……チッ、いくぞ、女!」
「え、あ、ちょっとぉ!?」
ロイはわたしを荷物のように抱えると、テラスから一気に外に飛び降りると、そのまま屋敷を脱出した。
軽々とわたしを抱えたまま、ロイは夜の街を止まることなく全力で走り抜けた。
逃げるとき、ナオは大きな声で何叫んでた。
たぶんだけど、絶対に許さないとか、そんなのだと思う。
ロイとわたしを乗せた老ポニーは街を出てから、夜の間ずっと走ってくれた。
どこをどう走ったのかは分からない。
けど、盗賊団に襲われた森は行かなかったのは、分かったけどね。
そして、夜が明けた頃。
どこかの山の中に、わたし達はたどり着いていた。
倒木に腰掛けてる、ロイとわたし。
ぜぇぜぇと息を切らしている、老ポニー。
ここまで逃げてくれて、ありがとうって言ってあげたい。
そして、わたしは一つ決めた事がある。
「ね、ロイ。短剣、貸してくれる?」
「……お前、バカな真似しようって……」
わたしが自殺するとでも思ったんだ。
心配してくれてるのが分かるよ。そんな顔してるし。
「バカ……そんな事しないわよ」
怪訝そうなロイの手から短剣を取り、立ち上がったわたしは、自分の長い髪をバッサリと切り落とした。
「はぁ〜……スッキリした!」
「お前! 髪、いいのかよ!?」
ロイはビックリしてるけど、正直、髪なんてどうでもいいんだ。
これはわたしの決意表明。
もう、泣かないし弱音は吐かない。
ナオに全部問いただして、絶対に仕返ししてやるんだから。
「さ、いこ!」
「行こうって、どこにだよ? それにお前、その言葉使いはどうしたんだよ……?」
お嬢様喋りは疲れちゃったし、わたしには向いてないしね。
だから、本当のわたしを出すことに決めたんだ。
「どこって、道はどこにでも続いてるんだよ? いくよ、ロイ!」
「……はっ。こっちの方がいいな」
わたしはロイを引っ張りあげ、再び歩き始めた。




