宣戦布告命令
カトリア連邦 ラリィバレー基地
カトリアの西端、ラーシャに最も近いこの渓谷地帯にあるカトリア連邦空軍の基地の、飾り気のない質素な司令室で、糊の効いた軍服を身につけた老人が電話口に表面上は穏やかに怒鳴っていた。
「だから、何度言えば分かってくれるのですか、今ラーシャに攻勢をかけるのは不可能です!」
グランエスト=シュベリア少将。
先のカトリア=ラーシャ紛争で緒戦の快進撃を支え、後にラーシャの南十字星からの空襲に怯えるだけになった祖国の為に、必死に防空指揮を執った歴戦の名指揮官である。
『シュベリア少将、それは我々も分かっている。だがな、貴官も分かっているだろう。このままいても祖国はいずれ崩壊する
OCTO諸国にばかり頼ってはいられんのだよ』
だが、電話の相手は、あくまで冷静に同意を求める。
『頼む、少将。祖国は今、危機に立たされているのだよ。君以外にこの状況を打開出来るものはいない』
「...了解しました、参謀長閣下」
グランエストはまだ何か言いかけ、だがそれを飲み込むと、電話を切った。
喜寿を迎えようとする我が身で、出来ることはこれ以上ない。
何のためにこのラリィバレーの基地司令にさせられたと思っていると、苛立つ自分を強引に落ち着かせる。
5年前、ラーシャの南十字星によって打ち負かされたカトリア連邦は、その後ラーシャの独立に伴いいくつもの植民地が連鎖的に独立。
天然資源の多くをカトリアの南の島嶼国集合体、OTCO連盟に頼らざるを得なくなり、今はかつての超大国の面影はなく、半ば生命線であるOTCO連盟の言いなりになっている、というのが連邦の現状だ。
そしてその危機的状況が、このようなラーシャに再び攻勢を仕掛け、植民地支配を取り戻そうという軍首脳部の考え方を生んだ。
と、唐突に部屋の扉がノックされ、過去を回想していたグランエストは現実に引き戻される。
「入れ」
「は!失礼します」
そう言って扉を開けたのは、先日着任したばかりの若い女性の通信員だった。
名は確か、セナ二曹だったか。
「どうかしたか?」
「は!先程、西部軍司令部より緊急電が」
「緊急電?見せてくれ」
「は!」
そう答えた二曹から、電文がプリントされた紙を、半ばひったくるように受け取る。
『発 カトリア連邦空軍西部軍司令部
宛 ラリィバレー空軍基地飛行隊
カトリア連邦議会は、10/7 0200時を以てラーシャ共和国に対し、宣戦を布告せんとす。
よって、連邦空軍は布告と同時に戦闘行動を開始。
貴隊を戦法に、敵地上空での航空優勢を確保されたし。
作戦書は下記の指定時刻まで開封しないこと。
10/7 0130』
クルビット機動ってかっこいいよね




