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ピクシーズ 第25戦略偵察飛行中隊   作者: 名無しの戦闘機性愛者
長距離戦略打撃群 第25戦略偵察飛行中隊
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ブレイク

「Caution! Bogey inbound! Recon 2, your behind!!」


 上空で敵機を警戒していたロングキャスターからの、警告無線。


 その意味は考えるまでもない。背後に敵機がいる、狙われている、それだけだ。


 それだけだが、しかしグレイズもエリシャその報告の恐ろしさを否応にも分からせられる。



「偵察活動を取りやめる!エリシャ!」


「Recon 2 break! Chaff launch.」



 ひとまず目くらましにチャフをばら撒き、グレイズが古い機体に無理を言わせ、回避運動をとる。何十年も前に造られた機体は、現役で使われているとはいえその性能はあまりにも心許ない。


 そのうえ今は偵察装備のRF-4だ。地上を見下ろすことに特化した、完全非武装の丸腰。


 辛うじて1線旧の機体に張り合える、そのエンジン馬力を以て、ライトターン後に急加速。ミサイルの軌道に対して垂直の、一番被弾の確率が低いポジションを取る。


 そのまま悲鳴をあげるフレームを無視して、ダイブ。急加速によって猛烈な勢いでエアインテークに飛び込む空気の風切り音が、Gでシートに体を押し付けられるエリシャの腹に響いた。



「This is Recon 2! Bandit, bandit! I need help!」


「Recon 2, this is Grifith 1. Grifith squadron goes to help. ETA 120 seconds.」


「Hurry up! I can’t wait!」



 前席が僚機に向かって吠える中、エリシャはチャフを追加放出。ディスペンサーから放出されたアルミ片は、敵の索敵波を乱反射させ、その追尾能力を奪うはずだが、果たして。


 ふと、キャノピーの奥に何かが映り込む。



「……あれは?」



 橋だ。


 街の区画を分断している川の、そこに架かっているいくつかの大型橋のうちのひとつ。目視できる程には遠くない。


 そしてその高さは、ようやくファントムが1機入れるくらいだ。



「大尉!コントロール貰います‼」


「は……なにぃ⁉」


「I have control!」



 言うが早いか、エリシャは後席にもある操縦桿を掴むと、そのまま倒して橋の方へ旋回する。


 前席と後席で制御はシンクロしているので、最悪お互いの操作が干渉しあって墜落の危険性もある非常に危険な行為だが、今はそれを気にしている暇すらない。


 増槽投棄、コックピットアビオニクス、リコンからコントロールへ。



 ダイブ。


 

 スロットルは最大のまま、川へ向かって急降下。後席にパイロット用のHUDもなく、そもそも前方の視界は前席のイジェクションシートに阻まれて見えない中、レーダーディスプレイと高度計、水平儀を頼りに水面すれすれを飛行する。


 前席のグレイズが無線越しに吠え、僚機が一斉にこの奇っ怪な行動の説明を求めるが、構わない。



 後で謝りますから、ぜんぶ。だから今は、死ぬわけにはいかない。



 そう、胸中に呟き、一度だけ瞬きすれば、そこには醒めきった思考に目覚めたエリシャの見つめるコックピット。


 バックミラーを見れば、そこにはもう命中直前まで迫った敵弾。今にもエリシャたちを粉微塵に粉砕せんと迫るそれを尻目に、アフターバーナーを再点火。


 目指すは前方の、橋の下。


 そこに辿り着く前にミサイルが着弾すれば、死ぬ。そこに向かったとして、少しでも操縦にミスがあれば、橋に激突して死ぬ。


 だが、そうでなければ。



「いっけぇぇぇぇ!!」



 最高速度のまま、後方に水しぶきを立て、周囲の建物の窓ガラスを1枚残らず粉砕しつつ、橋へ、その下の水面からの僅かな隙間に突入。


 グレイズまでもが顔を伏せる状況に、しかし前も見えないエリシャは臆せず突っ込む。



 文字通り、紙一重の差を。針穴を通るように、エリシャの駆るファントムが水面と橋の僅かな隙間を潜った。



「引き起こし、今!」



 橋を潜り抜けた、その直後。エリシャは渾身の力を込めて操縦桿を引き、フラップを下ろす。


 ほとんど設計上の限界を超えて、エリシャの機体は急上昇する。翼のフレームが悲鳴を上げ、酷使されたフラップが接合部から丸ごと千切れ飛んだ。


 だが、エリシャは自分のすぐ後ろ、追いかけてくる敵弾の軌跡を見て確信する。



 勝った。



 敵機を屠るためだけに存在するミサイルは、恐怖など一切感じない。与えられたプログラムの通りに、忠実にエリシャの駆るファントムを追いかけたミサイルはしかし、突如眼前に現れた障害物に、その身体を無残にも爆散させた。



 眼下に、自機を執拗に追いすぎたが故に自分から目の前の橋に突っ込んでいったミサイルの爆発を確認すると、エリシャはシートに身を沈めて深く息を吐く。


 機体の損傷による警告音は、グレイズの怒鳴り声が無ければ耳に入らなかった。



「エリシャ‼お前何考えてる!」


「…大尉……」



 機体のコントロールを奪い返したグレイズは、いつの間にか現れた南十字星の編隊とともに、基地の方角へと進路を取る。


 ここからはシートに阻まれてよく見えないが、きっとグレイズは、すごい顔をしているのだろう。


 そう思っていたから、次の一言に不意打ちを食らった。



「だが……よくやった、エリシャ」



 いつの間にか、無線は機内のみの対象になっていて。


 グレイズは、未だ警告音響くコックピットの中で、心底安心したように深く息を吐くと、そうエリシャに言った。



「思い知らされた。お前には、天性の才能がある。俺なんかとは比べ物にならん、才能がな。……俺にはあんな真似はできない」



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