宣戦布告の嘘
「司令、中央参謀本部より緊急通達です!」
通信士官が、随分焦った様子でキャビンの司令を呼ぶ。
半ば強引に連れていかれた司令が戻ってくると、その顔は真っ青になっていた。
「どうしましたか、司令?」
「大尉。これを見てほしい」
司令に声をかけたグレイズが、言われるがままに、彼の握りしめていた紙を受け取る。
すると、今度はグレイズまでもが凍りついた。
その眼は、紙面のただ一点を凝視している。
「どうしたんですか?大尉まで」
エリシャがそう、グレイズに尋ねると、彼は恐る恐る答えた。
「カトリアが、宣戦布告した......」
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本日 10:00を以て、カトリア連邦議会は在カトリアラーシャ共和国大使館に対し宣戦布告状を提出。
共和国議会はこれを受領し、同刻を以て、ラーシャ共和国とカトリア連邦は正式に交戦状態に突入したものとする。
東部、西部両軍は、直ちにデフコン1を発令。
陸、海、空軍及び戦略空軍は第1種戦時体制に移行後、別名あるまで防戦に努めよ。
発 ラーシャ国防総省参謀室
宛 ラーシャ共和国全軍
11/3 1300
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沈黙が、機内を支配していた。
紙面が機内の全員に渡り、状況を把握しきれない幾人かが呆然とする中、エリシャが口を開く。
「どういう、ことですか...?」
「エリシャ... 伝えていなかったのは悪かった。だが...」
「中尉は...キース中尉は死んだんですよ⁈」
隠していた事実を弁明しようとするグレイズに、エリシャは叫ぶ。
「中尉だけじゃない... オウル隊のみんなも、艦隊のみんなも死んだんです...それなのに、私たちは騙し討ちだって知らされもしなかった‼︎」
瞼にいっぱいの涙を浮かべ、グレイズに掴みかからんばかりに叫ぶエリシャ。
その姿に、グレイズは、キースが死んだ後もいつも通りでいる様に見えたエリシャも、実は必死に隠していたのかと、今更気付く。
戦場では、感情に流されたヤツから死ぬ。
グレイズが常日頃から言ってきた戦訓を、エリシャはずっと守っていたのだ。
なんて強くて、健気な奴なんだと、関心する一方、そんな彼女にずっと嘘をついていたという事実が罪悪感としてグレイズを襲う。
「...兵員の士気を下げぬようにとの、上級司令部の指示だったんだ、少尉。大尉を責めないでほしい」
司令がグレイズに助け舟を出すが、所詮焼け石に水。
エリシャの憤慨は、彼女個人のものではなく、ここに居る全員の総意だった。
そして、宣戦布告の有無を隠すという愚を犯したのは彼らだ。
これにどう、言い返す事ができようか。
「そうだとしても...これは、あんまりです」
エリシャ自身、彼らに言っても仕方がないのは分かっている。
本当に悪いのは宣戦布告も無しにズルズルと攻撃を加えてきたカトリアで、彼らではない。
それに兵員の士気を下げないよう、騙し討ちの事実を隠すのは合理的だ。
騙し討ちを公表して士気が上がるのは、それこそ相手に対し、自国の国力が大きく上回っている場合くらいだ。
それでも、今のエリシャに、それを言うのを自制する余裕は無かった。
「大尉の、嘘つき......」




