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ピクシーズ 第25戦略偵察飛行中隊   作者: 名無しの戦闘機性愛者
第1章 ラーシャ空軍ボルスニー基地飛行隊
24/37

巨鳥

「Wybern 1 FOX1.」


雲ひとつない青空を、一筋のミサイルの航跡が濁す。


「Wybern 2 FOX1.」


「3 FOX1.」


初弾に続いていくつものミサイルが母機から発射された。



ここは、ラーシャ軍の対空レーダーサイト。


暗号名 AAS-64。



その制空権の確保を命じられたボルスニー基地飛行隊は、目標上空を旋回中だったカトリア軍機に向け、容赦なくスパローを放った。


「Wybern 4 FOX1.」


「Wybern 5 FOX1.」


迷いも、悔恨もなく、エリシャはミサイルを撃つ。


殺らなければ、殺られるという事を、彼女はこの数日で学んだ。


そして自分は、れっきとした殺人者となってしまったことも。


「Wybern 4, splash. Good kill.」


今日もまた、1機墜とした。


パイロットは、脱出しただろうか。


それを考えるヒマすら、戦場に順応した彼女には無い。





カトリア連邦空軍 コールサイン 「リジル」



「話が、話が違う! 奴ら撃ってきたぞ‼︎」


カトリア軍の防空部隊、破壊した敵防空施設上空の継続的な制圧を命じられた、リジル隊。


戦闘空中哨戒ではそこそこ味方のなかで名の知れた部隊であった彼らが、敵1個小隊に掻き回されていた。


『ラーシャは宣戦布告前に先制攻撃をする事は出来ない』と言う暗黙の了解が完全に裏目に出た。


彼らはもう、自分の国を守る、立派な軍隊だったのだ。



「Rizil 3 check six! Break!!」


「Rizil 2 FOX2.」


「Mayday Mayday Mayday! I’m hit. I’m hit. I’m going down!!」


「Rizil 5 lost!」


隊長機に向け次々と上がる僚機の被弾と撃墜の報告、というよりかは怒号。


先程別の空域を担当していた部隊からも、似たような被害報告を受け取った。


かく言う彼も、すでに敵機が後方にいるのだが。


「Rizil 1 check six! Break!」


彼が随分減った僚機に助けを求めた、その時だった。



「All Katrian unit. This is LRAA-1. Evacuate battle area. Repeat. Evacuate battle area.」



妙に平坦な、人間とは少し違う声で、LRAA-1なる存在が無線で彼らに告げた。


直後、レーダーが東から迫る大量のグリップを映し出す。


尋常ではない数のソレらは、IFFを見る限りは味方だが...


「All Rizil unit. Evacuate battle area!!」


コイツらといるのはまずい、と動物的な本能を感じた彼は、僚生き残った僚機に撤退を指示した。


そして彼らが、LRAA-1の指示した通りに戦闘空域から撤退し終えた途端。



何百というソレらから、大量のミサイルが放たれた。






ロックオンアラート。


その時エリシャは敵機を追っていた。


乱数機動で急旋回を繰り返し、必死の様子で逃げる敵機を、こちらもしつこく追い回していた、その時だった。


『ビー』と、ヘルメットのスピーカーから照準波警告。


すぐに追撃を断念。チャフを撒いて回避機動を取る、その瞬間。


先程とは明らかに違う、何十、何百ものロックオンアラートの大合唱が耳を聾するような音量で聞こえてきた。


思わず音量を下げるが、聞こえいるのは確かだ。


直後、レーダー上に異常な数のグリップ。


ついでにミサイル。



「Wybern 4, missiles incoming!!」


「Wybern 1 break! クソ!なんて数だ」


「なんだよコイツら!どっから来た!」


「Owl 4 is hit! Owl 4 is going down!!」


「Break Break!!」


一瞬にして混乱する無線。


その上AWACSから、さらに悪い知らせが届く。


「Witch-Watch to Wybern and Owl. A bogey is coming close. It’s a missile!」


「ウィッチウォッチ!ミサイルならもう来てる。撤退指示を‼︎」


「違う、ワイバーン1。高高度を別のミサイルが飛行している。巡航ミサイルの類である可能性が高い。警戒しろ」


「こんな時に......! Copy that Witch-Watch!」


と、大量の敵機が長距離ミサイルを撃ち終わり、エリシャたちの方に雪崩れ込む。


「大尉!敵機がコッチに‼︎」


「待ってろエリシャ!援護に向かう」


エリシャからの悲鳴のような無線に、グレイズは機体を傾けながら唸るように言った。



「やっぱり運がないな、俺」








さっきから鳴り響くアラートのせいで、耳が半分麻痺している。


後方には敵機が10機ほど。


その全てが、機銃にミサイルにお構いなく撃ってくる。


チャフもフレアもとっくに切れた。


降り注ぐ火の粉とかそういう次元じゃない数の敵機に、半分意識を失いながらも対応する。


ハイGターンを繰り返しすぎた。


視界は赤くなったり暗くなったりメチャクチャだ。



何度目かのロックオンアラート。


いつも通り回避しようとして、気づいた。



操縦桿の反応が、悪い。



気づけば計器盤がロックオンアラート以外の警告も叫んでいた。


「オイル漏れ...! こんな時に‼︎」


後ろに目をやれば自機が尾部から薄い白煙を噴いている。


いつの間に被弾したのか。


それすらも気づけないほどエリシャは消耗していた。


正体不明の敵に対する、焦りからのパニック。


だが。



「こんな所で...!」


墜ちてたまるものか。



フラップ、エアブレーキ展開。


ストール警告から少し遅れてピッチアップ。


失速し、落下する機体をどうにか持ち上げ、不恰好ながらもクルビットを成功させる。


機首が完全に後方を向いた瞬間、バルカン砲のトリガーを引く。


もとより狙っていないから、集弾率は最悪だが、固まって近距離にいる敵機に対しては、むしろ好都合だ。


敵機が2機ほど、20mmに引き裂かれて墜落する。


数こそ多いが、連中は極端に脆い。


ある程度被害を加えれば撤退してくれると、エリシャは祈った。


だが期待は裏切られ、生き残りは仲間が落とされたことに対する衝撃も悲哀も一切感じさせない無駄のない動きで散開する。


「どんなパイロットよ⁈ ...いや、そもそも...」


海洋生物のような、平べったい機体。


機体にかかるGを完全に無視した、異常な急機動。


「まさか...無人機⁈」


噂は聞いていた。カトリア軍はとうとう戦闘機まで無人化しようとしていると。


情報部からの物でもない、単なる噂として流れていた物だから、エリシャたちもさして気にしていなかった。


だがその噂がこうして目の前に、正確に言えば真後ろにいる。



と、衝撃。 至近弾を喰らったようだ。


右のラダーとエレベーターが吹き飛んでいる。


エンジンの調子もおかしい。



「これは...詰みかな......」



助けを呼ぼうにも、味方機は皆同じように追い回されている。


それにこの状態では、長くは飛べない。



さらに悪いことに、AWACSが叫んだ。


「A bogey incoming! Break, break!」



無理だよ、回避なんて。


エリシャは、引き延ばされる感覚の中で、それだけ吐き捨てるように言った。







『衝撃弾頭の着弾を確認。レーダーコンタクトロスト。撃墜機の有無は不明、味方機からの報告を待つ』


エリシャたちの混乱など知る由もない巨鳥は、淡々と、その電子の声で報告する。


が、その報告はレーダーに飛び込んできた1機の機影により中断される。


『ボギー1、接近。敵性と判断。エンゲージ』


巨鳥が、その敵機に向け、先程エリシャたちを巻き込んだ弾頭の次弾を発射しようとした、その時。


レーダーに映っていた何十もの味方機が、突然消失し始めた。


直後、全ての機が回避運動。


しかし単機の敵は、それを上回る機動で味方機を1機ずつ確実に喰っていく。


『13フレンドリー、ロスト。接近中のバンディット、最優先攻撃目標と断定』


巨鳥が、ミサイルの発射を急ぐ。


だが敵機は、その意図を悟ったかのように、急速に戦闘空域から離脱を始めた。


『敵機、有効射程より離脱。攻撃中止』


敵機の離脱を受け、銀色の巨鳥も、心なしか恨めしそうに、生き残ったわずかな味方機とともに、戦闘空域から引き返した。








「うぅ...?」


警告音に、目が醒める。


直後、知覚したのは痛み。


混乱するも、必死に冷静さを保つ。


まずは自分の状況確認をしようとして、真っ先にヘルメットのバイザーが割れているのに気づく。


ついでに額から血が流れているのも。


「...ッ! どうりで...痛い」


それ以外は特に大きな怪我は無し。


問題は機体の方だ。


右尾翼が吹き飛んでいるのは分かっていたが、主翼まで根元からポッキリ逝っていた。


エンジン出力も片方がゼロ。


つまりエリシャの機体は、完全に右半身不随というわけだ。


F-15の安定性がなければ確実に墜落していた。


で、警告音の正体は、機体が深刻なダメージを負っていることへの忠告とあと一つ。


「Pull up! Pull up!」


高度警告である。


「うげっ!」


即座に操縦桿を引く。


ボロボロの機体に無理を言わせて上昇したせいで、機体のフレームが悲鳴をあげる。


それにしても操縦し難い。


右の尾翼も主翼も無いのだから当然ではあるのだが。



「Witch-Watch to all unit. Can someone respond? Can you here me?!」


と、雑音だらけの無線機が、AWACSからの声を拾う。


「Witch-Watch. This is Wybern 4. I got damage. I can’t fly so long.」


「Copy that. Wybern 4. RTB. Wybern 1,2,3 and 5 have already returned.」


「Copy.」


朦朧とする意識の中、無線に応答する。


大したことはないと思っていたが、額の出血はかなりの量だったらしい。


だんだんと、眠くなる。


操縦桿を握る手も鉛のように重くなり、うっかり手を離して...



「ワイバーン4、まだ生きてるか?」


その声に、失いかけた意識を必死に取り戻す。


気付けば、彼女のすぐ隣を飛行する1機のF-22。


尾翼には、南十字星。


「グ、グリフィス1...どうしてここに?」


「我々は即応軍だ。必要とあらばどこへでも行く」


我々、と言うがエリシャの目にはグリフィス1の1機しか見えない。


どこか高高度にでもいるのか、それともエリシャが単に幻覚を見ているのか。


後者の心配は杞憂に終わった。


『周囲の敵はあらかた片付けてきたよ、引き金さん』


『ピクチャークリア。敵はいない。味方もいないけどね、引き金さん』


さっきから開きっぱなしのオープン回線に、妙に人間離れした2人の少女の声が聞こえてきた。


直後、エリシャと南十字星の真横に2機の戦闘機が急降下してきた。


Suシリーズに似たノーズと、ずんぐりとした胴体。


機体下部の巨大な垂直補助翼と、装甲に覆われて中が見えないコックピット。


Su-30とF-22を足して2で割らない感じの機体。


それは、いつの日かボルスニー基地から目撃した謎の機体?


「フレイ、フレイヤ。その名前で呼ぶのはやめてくれ。それとワイバーン4、航法装置は生きてるか?」


そんなエリシャの疑問は歯牙にもかけず、南十字星はエリシャに聞く。


「...だめです。GPSも自機のセンサーも死んでます」


「ならボルスニーまで我々が誘導する。付いて来られるか?見たところかなりの深手のようだが」


「大丈夫です。まだ飛べます」


「頑張れよ、まだ死んでほしくない。

Witch-Watch. This is Griffith 1. I’ll escort Wybern 4.」


「Copy that. Griffith 1. Good luck.」


返事を受け取るやいなや、ボロボロの鳥を、3機が寄り添うように飛びながら、彼らは基地を目指して飛び始めた。

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