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ピクシーズ 第25戦略偵察飛行中隊   作者: 名無しの戦闘機性愛者
第1章 ラーシャ空軍ボルスニー基地飛行隊
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TAB-25

“彼”が帰還する。




どこまでも続くかのように思える岩砂漠に、1機のF-22が、フラップを目一杯広げて、ランディングギアで地面を踏む。


静止した彼の機体に駆け寄る整備クルーたちに紛れて、彼の愛犬が主人の帰還を喜ぶように吠えながら駆ける。




ここは、ラーシャ共和国空軍の中でも曰く付きの、長距離戦略打撃群 第25戦略偵察飛行中隊付飛行場という名称を与えられた地。


通称 TAB-25。


その専属飛行隊たる彼と、その随伴機を含む2個小隊は、編成番号v401の暗号名で呼ばれる、空の特殊部隊だ。


彼らの部隊名は、ピクシーズ。


「グリフィス」と、「フェアリィ」の2個小隊から成る、戦略レベルでの強行偵察、超長距離侵攻に特化した部隊。



その、グリフィスの隊長機が、たった今、この基地に帰還した。


「お疲れ様です、中隊長。ライリィがおやつも食べずに待ってましたよ」


「......悪かったな、待たせて」


そう言って彼は、自分に戯れるオオカミ犬を撫でる。


この岩砂漠では到底役立ちそうにない真っ白な体毛を撫でてやると、ライリィと呼ばれた犬は嬉しそうに寝転がった。



「...やっぱり無口ですね。空の上じゃあんなに喋ってたのに」


その声に彼が顔を上げれば、そこには飛行服も脱いですっかりラフな格好になったラウルがいた。


「......?」


「ったく、何が『?』ですか。 本当によく分からない人だなぁ」


そう言うラウルは、別に敬意も何もない、形だけの敬礼をすると、兵舎に向かった。






彼に、正式な階級はない。さらに言えば軍人ですらないし、もっと言えば名前すら誰も知らない。


部隊の人間は皆、彼の経歴を何も知らないから、皆好き好きに「隊長」だとか「中隊長」などと呼んでいる。


それに空の上ではいつもコールサインだから、彼は必要がない限り人に名前を教えることはない。



それが彼の持ち合わせた、唯一のプライドだった。







ボルスニー基地 兵舎


「ふぁぁぁ〜疲れた〜」


基地に帰還したエリシャは、コックピットから降りると兵舎に走り、対Gスーツも適当に脱ぎ捨てると硬いベッドに飛び込んだ。


「こらエリシャ、お行儀悪いぞ。きちんと...ってもう寝てるのか」


後から入ってきたキースが叱ろうとして、すでに夢の世界に入ったエリシャの寝顔にその気が失せる。


仕方なく代わりにスーツの後片付けをしてやっていると、会話を聞いていたらしいグレイズが入ってきた。


「無理もないだろう。コイツ、今日は相当頑張ったみたいだからな」


「おや、大尉が褒めなさるとは珍しい」


「整備班の連中に聞いてな、エリシャの機体、20mmすら尽きていたらしい。翼もシワがよっていたってよ」


金属製の戦闘機というのは、急機動を繰り返すとどうしても機体に架かる負荷で翼や動翼にシワができる。


今のエリシャ機は、まさにそういう状態だった。


「今フレームチェック中らしい」


「ま、中々に面白い機動を見せてくれましたからね、コイツ。特に大尉の真下から這い出てきたり」


「あれは俺もビビった。一歩間違えれば墜落だぞ、あれ」


「ははは... ところで、来る予定の増援は?」


「......キース、ちょっとここでは話せない。場所を変えよう」


そう言ってグレイズは、キースを無理やりスクランブル用の耐爆バンカーに連れ込んだ。


本来待機中の戦闘機が格納されるが、今は全機が集中整備中で誰一人いない。


「明日到着する。予定よりレーダーサイトが被害を受けててな、復旧待ちだったらしい」


「さっさと来てもらわないと、東部軍は壊滅ですよ。上層部は何を考えているんです?」


「それがな......お前たちには言っていなかったんだが、カトリアはまだ宣戦布告していないんだ」


「......はぁ⁈」


「元々は布告無きまま東部を制圧する予定だったらしくてな、だがそれが敵さんからすれば予想外の方向に転がった」


「この基地は陥ちず、艦隊も大部分は守られたこと......ですか」


「そうだ、だから向こうも相当焦っているだろうな。それで、何をしてくるか分からないから司令部はリスクも承知でこっちに増援を寄越した」


「ただ、布告が無くては戦略規模での大移動は出来ないと」


「そうなるな、残念ながら。まぁ、1個中隊もあればこの基地は守れるだろうが、このままではな...」


「ジリ貧で負け確定ですね」


「幸い、ウチのコマンダーは緊急時の後退マニュアルを作ってくれている。万が一はそれに従うんだぞ」


「了解です。大尉」


言いようのない不安が襲う中、キースはまだまだ青いエリシャの事を考えていた。


操縦の才能こそあれ、軍人としては不安要素しかない彼女は、仲間を見捨てることはできないだろう。


きっと撤退命令など、聞かない筈だ。


そんな時、エレメントのペアとしての自分は彼女を守れるのかと、彼は延々と自問し続けた。

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