南十字星
雪風マニューバがチョロっと出てきますよ、今回
「Witch-Watch to Wybern 1. Bandits coming close. 2 o’clock high.」
「Copy that. Head on.」
戦闘が開始されてもう3時間近くが経ってもなお、オーム湾は未だ、大混戦の様子を見せていた。
至る所で爆発が起こり、港湾施設は殆どが黒煙を立ち上らせている。
そして空からは、敵味方双方の航空機の残骸。
今もグレイズが放った機関砲弾が敵機のキャノピーを直撃し、コックピットを赤色に染めながらSu-34が墜ちてゆく。
直後、背後からロックオン警報。
「クソッ!一体何機いやがる⁈」
「Wybern 1! Bandit in your behind!」
「I know! ...サム、任せたぞ!」
「Copy. Wybern 2.」
直後、ワイバーン2、サム機がはるか上方からダイブ。
通常なら射撃するには誤射が危険なほど詰められた距離を、しかしグレイズが一番に信用する2番機はあくまで冷静に、M61のトリガーを引いた。
そして放たれた砲弾は、正確にエンジンを貫き、敵機を行動不能にさせた。
「助かったぞ、サム。流石だな」
「気にするなグレイズ、これが2番機の務めだ」
それだけ言ったサムは、軽くバンクを振ると、次の獲物に向け旋回を始めた。
「クールだねぇ... 流石はエースパイロット」
ラーシャ海軍空母 アルバトロス CIC
「敵編隊、30%の撃退に成功しました。残りも順次撤退に入っている模様」
「そうか、艦隊直掩機に通達。深追いは無用、損傷機は直ちに帰投させよ」
「イエッサー。アルバトロスより全艦隊直掩機へ、敵が撤退準備に入った。深追いせず、損傷した機から順次RTB。繰り返す...」
「これでなんとか、艦隊の全滅は避けることができたか...」
艦長がそう呟き、CICの面々が安堵のため息をついた、その時
「緊急!レーダー上に新たな未確認機多数!」
「なんだと⁈」
アンダーソンも、乗組員も心臓が止まるかと思うほどの衝撃に襲われた。
「不明機の総数、約50! まさか、今のが先遣隊なのか⁈」
「憶測は後だ、全戦闘機を集結させろ!港湾施設の予備機も全部出せ!」
「イエッサー!」
「カトリアめ...宣戦布告もなしに...!」
と、レーダー員の一人が声を張り上げる。
「...! 5フレンドリー、アプローチ!」
「味方機?増援か!」
「はい!コールサインは... “グリフィス”⁈」
一斉に、各所でざわめき出した。
「グリフィス? まさか、あの...」
「ああ、南十字星だ。だが、なぜ...?」
「先の戦争で撃墜されたはずでは...」
「南十字星、か」
それは魁星か、それとも凶星か。
知る者は、誰一人としていない。
「This is Griffith 1. I’ll join to the battle. Engage.」
高度1万メートルの、ダークブルーの空を、5機の戦闘機、F-22が美しい編隊を組んで飛ぶ。
上下に十字を組み、まるで航空ショーのようなその編隊はしかし、直後にその形を崩すと、下方に向けてダイブした。
落下の勢いでさらに加速。
敵直掩機に反応させる間もなく敵編隊直上に位置すると、5機は一斉にシーカーを開いた。
「Griffith 1 FOX2.」
そして先頭の1機が、尾翼に一際大きな南十字星のマークを付けた機体が、上空から逆落としに、敵攻撃隊へと襲いかかる。
僚機も続けてミサイルを放ち、蒼空に爆炎が浮かぶ。
編隊、特に先頭の南十字星が、敵機との衝突も恐れずに敵編隊の只中に飛び込み、機関砲をばら撒いて数機墜とす。
完全に混乱した敵編隊を、南十字星の僚機が着実に処理していく。
そして当の南十字星は、獲物に襲いかかるシャチのように、敵機を獰猛に襲っては地面に引きずり込んで行く。
遠方からその光景を見ていたエリシャはただ、突然やって来た彼らに対し、畏怖の念を抱かざるを得なかった。
カトリア連邦海軍航空隊 TFS-22
彼らの任務は、先遣隊の対応に追われ、損耗した敵艦隊にトドメを刺すこと。
事前に作戦計画を知っていた彼らは、その役回りから、出撃前からすでに慢心していた。
だが状況は、あの5機が現れてから急転した。
「Zap 3 check six! Break b......」
「Zap 3 lost! Diver 5,6 lost!」
「Damn it! I’m hit. I’m hit! I’m going down!」
「Mayday! Mayday!」
次々と耳元のスピーカーに飛び込んでくる味方機の被撃墜報告に、攻撃隊の直掩機であるザップ1のパイロットは我を失っていた。
「なんなんだよ...これ。話が違うじゃねえか!」
その叫びは誰に聞かれるわけでもない。
現に最後の僚機が、たった今彼の機体を掠めて墜ちて行った。
「Warning missile. Warning missile.」
計器の警告音も、もはや耳に入らず。
彼の目線は、彼の様子を伺うように並行して飛行する敵機に向いていた。
「南十字星... なんでコイツが、凶星がここにいるんだ......!」
それが、彼がこの世で放った最後の言葉になった。
わずか5分。
たったそれだけで、襲いかかった50機以上もの敵編隊は、壊滅した。
それもたった5機小隊で、だ。
戦略上は確実に全滅と表記されるレベルの損害を受けた敵の生き残りは、編隊も組まず一目散に撤退した。
そして当の南十字星はというと...
「よう!グレイズ。会いたかったぜぇ! お、今はワイバーンって言うのか!」
「Shat out. Griffith 2. We are in battle area.」
「お堅いこと言うなって。士官学校の仲だろ?」
「はぁ... グリフィス1、おい隊長機!なんとか言ってやってくれ」
「......」
放任主義(?)の南十字星の2番機、グレイズの旧友であるラウル=グリード大尉が、そのグレイズに絡んでいるところだった。
「さっすが隊長〜 空気を読むべきタイミングが分かってらっしゃる!」
「単に無口なだけでは?」
「......一応喋るぞ...?」
そう、微かに呟いた南十字星に、周囲の機体、とりわけ彼の随伴機の面々が口を揃えて叫んだ。
「「「「しゃ、喋ったぁぁぁぁ!?」」」」
「いやおい、ちゃんと無線交信はしてるだろうに」
「で、ですが隊長! アンタ飯の席でも一言も喋らないじゃないすか!」
「失礼な2番機だな。墜とすぞ?」
そう言ってグリフィス1は、推力偏向ノズルとラダーを弄って 直 進 し た ま ま 機 首 だ け ラウル機に向けた。
「すみません... あと、さっきのセリフ、冗談に聞こえないのですが、それは...」
「......冗談じゃないからな」
「おい」
「冗談だ。もう弾薬も残ってはいないよ」
「隊長、その...今日はよく喋りますね。私らはもう、何がなんだか...」
「...ああ、話したい相手がいるからな。グレイズ大尉、悪いが、ワイバーンの4番機を呼んでくれるか?すぐ近くにいるはずだ」
「エリシャと? 構わないぞ。おい、聞こえていたな」
「ひ、ひゃい‼︎」
すると、今度はグレイズ機の 真 下 か ら 背面飛行の姿勢のエリシャ機が加速して這い出るように出てきた。
「ぬおわッ⁈ さっきからの衝突警報はお前か! この大馬鹿野郎‼︎」
「す、すいません... ちょっと途中から面白くなってきちゃって...」
「......面白いヤツだな。多分、近いうちにまた会うことになるだろう。その時はよろしく頼む」
「......はい?」
「いずれ分かるさ...生き残れよ、ルーキー。
All Griffith unit mission complete. RTB.」
「2 copy. また会おうなグレイズ」
「2度と来るな。...Good luck Griffith.」
「Thank you Wybern.」
5機は、来た時と同じような十字の編隊を組んで、夕日の方向に飛び去った。
「Witch-Watch to Wybern. Mission complete. RTB everyone. Repeat, return to base.」
「Copy that.」
そして彼らもまた、自分の家への帰路につく。
旋回し、巡航速度で水平飛行に入ると、エリシャはグレイズに話しかけた。
「いい人でしたね、南十字星って」
「そうか?俺はラウルのイメージが濃すぎてよく分からなかったが」
「私、実はもっと怖い人たちを想像してたんです。伝説の撃墜王だなんて言われるほどの人ってどんなだか、うまく思い浮かばなくて」
「そうか...まぁ、最初はみんなそう思うだろうよ。自分とかけ離れた存在なんてな」
「...でも今日、会ってみて分かったんです。やっぱり、普通の人だなぁって。 ちょっと変わった所はあるけれど、でも私、なんていうかあの人から優しい気持ちを感じました。 それに...」
「それに、なんだ?」
「すごく、懐かしい感じでした。会うのは初めてのはずなのに、まるで何十年ぶりの友達に会うような、そんな感じです」
「......?」
「すいません、変なこと言って。帰りましょう、お腹が減っちゃいました」
照れ隠しのように早口でそう言ったエリシャに、バイザーとマスクに隠れて見えない顔で微笑んだグレイズは、4機の僚機を引き連れてスロットルを上げた。
「さ、家に帰ろう」




