思い出話
ラーシャ共和国 ボルスニー空軍基地
基地司令官室 0130時
「どういうことですか、これは!」
決して広くはない司令室に、グレイズの怒鳴り声が響く。
「ここまで来てまだ戦争状態ではないと⁈」
「私に言わないでくれ、大尉。私がどうこうできる問題ではないのだよ」
「ですが...!」
「カトリア側からの正式な宣戦布告はまだだ。つまり我々は、まだ自分の身を守ることしかできない」
「ウチにはまだ新入りがいるんです。このまま味方の援護も得られず敵が攻めてきたら...」
「それは私も分かっている、大尉。だがな、先の攻撃で近隣の味方基地は相当な被害を受けた。被撃墜ゼロはここだけだ。そんな状況で我々が増援を求めることはできん」
「...西部軍からの部隊移動は......」
「無理だ。我々は厳密には戦時下ではない。戦略レベルでの部隊移動はできない。悪いが、もうしばらくはこのまま耐え凌いでくれ」
「...了解しました。失礼します」
グレイズは、肩を落としながら司令室を出る。
先の攻撃で、グレイズたちのボルスニー基地に向かった敵編隊は、護衛機を失ったことで引き返した。
結果的に、ボルスニー基地は守られた訳だが、他基地の部隊は基地施設、航空機ともに損害を受けた。
ほとんどの作戦目標を完了したなら、次に狙われるのは確実にここだ。
だが、この基地とて保有戦力は2個小隊ほどしかない。
「腹を括るか...」
「何がです?」
「ぬぉ⁈」
突然視界の隅から出てきた真っ白な頭に、グレイズは飛び上がりかける。
「って、エリシャか...何してるんだ、こんな時間に」
「すみません、ちょっと眠れなくて」
「はぁ...来い、なんかスープでも奢ってやる」
「いいんですか?」
「あぁ、一度お前とはゆっくり話しておきたくてな」
「へ?」
戸惑うエリシャを連れ、グレイズはカフェテリアに向かう。
この時間だから、たいしたものは無いだろうが、自販機くらいは動いているだろう。
「大尉、どうしたんですか?貴方が私に奢ってくださるなんて、随分珍しいじゃないですか」
「お前それどういう意味だ?」
「え、あ...」
「まったく、変わらんなお前は」
「あはは...」
予想通り、カフェテリアは閉まっていて、電気も消えているが、入り口手前のスープサーバーだけは動いていた。
窪みにマグカップを置き、ボタンを押す。
注がれてくるコーンスープの香りに落ち着きながら、グレイズはエリシャに問う。
「お前、今日が初めての撃墜だったよな?」
「...はい」
「その、大丈夫か。誰だって初めて敵を墜としたときはなんかしらあるもんだ」
「大丈夫ですよ、私は。ちょっと眠りが浅いくらいです」
「そうか、いや、お前が機から降りるとき、随分思い悩んでいるように見えてな」
「......」
「なあ、何か悩みがあるなら言ってくれ。怒鳴るだけが、俺の仕事じゃないからな」
「大尉...... その、私...アチッ!」
と、何か言いかけたエリシャはスープに口からを付けた途端、悲鳴をあげる。
「おい、大丈夫か?」
「わはひ、へほひははふへふ〜!」
「なんて?」
「猫舌なんですよ〜、私」
「それは知らなかったな...で、なんだって?」
「......」
妙に間を置くエリシャに、グレイズは身構える。
「私、5年前家族を亡くしたこと、大尉に言いましたよね?」
「あぁ...」
その話ならエリシャが着任してすぐのころ聞いた。
彼女の両親は、5年前、彼女とはぐれ仕方なくシェルターに向かっていたところを、墜落機に押し潰された。
発見された遺体は、原型も分からぬほど損傷していたそうだ。
「そのときは、私、実感がなかったんです。両親だと言われた棺も、釘を打ってありましたし」
「......」
「それに......もう一人、亡くしたんです。私の大切な人」
「もう一人?」
「はい。......私の親友だった女の子です。セラって言うんですけど、昔は本当に仲が良くて。私は一人っ子だったから、彼女のこと、本当の姉みたいに思ってたんです。だけど......」
「目の前で、亡くしたのか?」
問うグレイズに、エリシャは頷いて返す。
「私の盾になって死にました。向かってきた流れ弾の爆風と破片から、私に覆い被さって守ってくれたんです」
「......」
「でもそのせいで彼女は死にました。下半身を吹き飛ばされて」
「......今ここで聞いていいものか分からんが、ならどうしてお前はこの仕事を選んだんだ?
お前にとってはその、友人の仇みたいなものだろう?」
「......約束なんです」
「?」
「セラとの...」




