表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/14

7話:ハイドブリガンの闇

 ガラスの割れる大きな音がドアの向こうから聞こえる。そして数秒も経たぬ間に斬撃音が響く。


「シレリア、今の音って……」


「おそらく貴族、王族ばかりを狙う暗殺者団体『宵闇』の仕業かもしれない。レイト、城に来てすぐで悪いが手伝ってほしい」


「当たり前だ!」


 シレリアが丸腰の俺を見て言う。


「そうだ、これを持っていけ」


 シレリアから一本の剣を渡される。特に目立った装飾もない普通の剣だ。


「これは?」


「王国騎士内で使われる一般の剣だ。そこら辺の剣よりは上等だからいい武器になるだろう」


 よく考えたら今まで丸腰だったことを忘れていた。こんな状態でどうやって助けに行くというのだ。ありがたく剣を貰い、背中に着ける。

 そして、俺たちは部屋を出て音のした方向へ進む。長く、狭い通路は学校の渡り廊下を思い出す。目的地にたどり着くのに三十秒もかからなかった。黒装束を着た三人組と傷ついて膝をついた女騎士、その後ろでサイカが拳を握って立ちつくしていた。黒装束の一人がナイフを片手に女騎士に刺そうとする。それをシレリアが細い槍で防ぐ。


「ナタリス、大丈夫か!」


「シレリア先輩、残念ですが無事とは言えません……」


「くっ……そうか、なら後ろで下がっていてくれ。ここは私たちが引き受ける!」


 シレリアは光沢のある赤い槍を構え、前線に出る。


「レイト、君には真ん中の奴の相手を頼めるか。私は残った二人の相手をする」


 一人で二人を相手するというのか、圧倒的に不利だぞ。声をかけようとするがシレリアは二人に斬りかかっていった。シレリアを気にしていたせいか目の前の斬撃に反応が遅れた。慌ててのけぞったが完全には躱せず、頬から血が流れる。これは命のやり取りなんだ、やらなければやられる。俺は腕で血を拭き、決意する。一旦距離をとって魔法で攻撃するか、そう思ったが左目を狙うように斬撃が向かってくる。今度はかわす。どうやらそんな隙は与えてくれそうにないな。シレリアから貰った剣を抜き、斬りかかる。




 素早い動きと息の合った攻撃。これは厄介な相手になりそうだ。黒装束の一人が一気に距離を詰め、ナイフを横腹狙って突き刺してくる。咄嗟に槍の柄でナイフを止める。


「さすがは『双竜の騎士』。しかし、もう一本の槍を使わなくていいのですか?」


「……お前たちを倒すのには一本で充分だ!」


 ナイフを弾き、長い槍で二人まとめて振り払う。レイトの前ではああ言ったものの、一対二では非常に分が悪い。レイトが黒装束の一人を倒して救援に来てくれるのを待つしかないか。そのためにもここはなんとしてでも耐えてみせる。




 剣と剣がぶつかり合って火花が生じる。


「くっ、俺はお前に用はない! そこをどけ!」


「悪いがそう言われてどく馬鹿はいないと思うぜ!」


 黒装束のナイフを弾き、そのまま斬り上げる。黒装束のかぶっていた仮面にひびが入り、次の瞬間には真っ二つに割れていた。俺は黒装束の仮面に隠された顔を見て驚く。その顔はついこの間まで見た顔であった。


「……エイジ! なんで、お前が……!」


「……バレてしまっては仕方ないな、ここは引き返すとしよう。お前たち、行くぞ!」


 エイジは黒装束の二人を連れて割れた窓から帰っていった。俺たちはなんとか傷が回復したナタリスと膝をついて震えているサイカを連れてサイカの部屋へ戻った。


「状況を整理しよう。サイカ様を狙った暗殺者団体『宵闇』。そして、その団体をレイトの友人エイジが率いている可能性が高いということだな」


 シレリアが話をまとめる。まだ信じたくない、エイジが暗殺者団体のリーダーだなんて。まあ、サイカも災難だよな、まだ十四歳という幼さで命を狙われているのだから酷な話だ。そういえば俺も暗殺者に狙われていたような……。部屋全体が鉛のようにずっしりとした重い空気で溢れかえる。


「……みんな、今日は城で休んだ方がいい。サイカ様も疲れたでしょう、今日は休んでください。それから、レイト、お前には色々教えたいことがある。昼食を食べたら庭園に来てくれ」


 食堂で俺たち四人は同じテーブルで昼食を食べたが会話が弾むことはなかった。シレリアに言われた通り庭園に向かった。人気がなく、この場にいるのは俺とシレリアの二人だけだ。


「……来たか」


「……ああ。教えたいことってなんだ?」


「それは戦いの中で教えよう。さあ、剣を取れ!」


 腰の剣を抜く前にシレリアが槍でまっすぐ顔を突いてくる。剣を抜いても間に合わないと判断し、横にずれてかわす。異常なほどの槍の速さに、台風並みの風を顔に受ける。よくあんな攻撃避けられたよなと思う。


「いきなり殺す気か! 危うく死にかけたぞ!」


 シレリアは突いた槍を引き戻し、俺の目を狙って槍を構える。


「当たり前だ、そんな調子ではこの先、生きていけんぞ!」


 今度は俺の眉間を狙って突いてくる。ただまっすぐ突くというシンプルな攻撃だが、目で追うのが精一杯だ。なんとか勘で防いではきたもののいつまで耐えられるかどうか。腰の剣で高速で近づいてくる槍を横に受け流す。剣同士の戦いであれば鍔迫り合いに持ち込むこともできるが、槍相手だとそうもいかない。弾いても弾いても何度も攻撃は繰り返される。俺の攻撃すらさせてもらえない。


「レイト、技量で勝てないのならそれを知識で上回れ」


 何年も槍を握って戦場に出ているシレリアと剣を握って三日の俺では天と地の差、だが、圧倒的に経験も足りない、何で俺はシレリアに勝っているというのだ。


「魔法を構成しているものは『魔法言ワード』と言われる呪文のようなものなんだ。さっき唱えた言葉も魔法言ワードなんだ。第一魔法なら三節からなる魔法言ワードでいいんだけど、第二魔法、第三魔法と強力になってくると魔法言ワードの数も多くなり、戦闘でも隙を作ることになってしまう。その代わり、絶大な威力を誇る魔法を使うことができるけどね」


「第六魔法の使用、そして、賢者ファイス・ロークニルただ一人が使えた伝説の技、『魔法言破棄ワードブレイク』の使用、充分、狙われてもおかしくないと思うが?」


 魔法を教えてくれたリュンの言葉、黒魔竜に狙われたとサキ先生が伝えたあの言葉。そしてシレリアが魔法を使ったところをこれまで一度も見ていない、ということは……! 俺の目に向けて槍を構えているシレリアごと吹き飛ばす威力で剣を振る。シレリアは地面を引きずりながらのけぞる。これで短時間の隙を作れる!


「ゲイルランス・ザ・ドラグーン!」


 風の力を凝縮して作られた一本の緑の槍がシレリア目掛けて高速で放たれる。シレリアは特に驚いた様子もなしに槍を横に振って俺の魔法を掻き消した。


魔法言破棄ワードブレイクを使ったのには驚いたがそれくらいではまだまだだ!」


 槍が上から振り下ろされる。ブンッと風を切る豪快な音とともに脳天に直撃する。なんとか柄の部分が当たって助かった、刃の部分なら間違いなく頭は真っ二つだ。

 ――訓練から一時間半ほど。シレリアの攻撃にも目が追い付き、反撃することはできないものの、防御だけならば完璧にこなせるようになった。


「そろそろ話そうか、この国の闇について」


 話している時でもシレリアの攻撃は止まらない。なんとか攻撃を捌きつつ、話を聞く。


「前王のいた頃は争いもなく、貴族、王族を狙う者もいない素晴らしい国だったんだ。だが、そんな日も長くは続かなかった」




「陛下、次はセステス様との食事会です」


 当時、騎士になって三年の未熟な騎士だった私は先輩の騎士、アキサ先輩と国王陛下の護衛をしていた。アキサ先輩は風になびく緑のロングヘアが特徴的で、正義を重んじる信念に溢れた人で誰からも尊敬されていた。事件は今の国王セステスとの食事会で起こった。


「ああ……久しいのうセステス、十年ぶりくらいか? お主も大きくなったのう」


「いえいえ、兄上、私なぞまだまだですよ」


 セステスは前国王の弟で私たちは食事会の護衛としてその場にいた。王がコップに入れられた水を飲む。セステスが不敵な笑みを浮かべ、それと同時に国王が水を吐き出し地面でもがき苦しんだ。


「陛下!」


 慌てて私たちは駆けつけたが、国王陛下はすぐに息絶えた。即効性の毒か。セステスの護衛をしていた騎士に剣を突きつけられる。


「おおっと、そこを動くなよ。お前らにはここで兄上と共に死んでもらうんだからな!」


 セステスが騎士の背後で部屋中に響く大きな声で叫ぶ。アキサ先輩は魔法を詠唱する。


「大いなる岩より生まれし、小さき石よ、一つの槍となり、爆散せよ、『ストーンバレット』」


 高速放たれた手のひらサイズの小さな石は壁に触れるなりすぐに爆発して私たちの背後の壁に大穴が開く。


「シレリア、早くここを出ろ!」


「で、でも、先輩……」


「お前が行かなければ誰がこの有り様を伝える! 私のことは心配するな、必ず帰ってくる!」


「……わかりました、必ず帰ってきてください!」


 私は後ろを振り向かずに壁の大穴から外に出た。アキサ先輩は帰ってこなかった。翌日、前国王の葬式と新国王セステスが即位した。


「兄上が謎の病で倒れたのは残念なことです。しかし、この私、セステスが兄上の遺志を継ぎ、皆が幸せに暮らせる国を作りたいと思います!」


 国民から歓声が上がる。私は式典の途中、騎士に一通の手紙を渡された。


『妙なことをすれば貴様だけでなく家族にも被害が及ぶぞ』


 私は怖くて何もできなかった。自分の行動一つで町で暮らしている母や父、妹にまで危険が及ぶかもしれないと。私は国王の護衛から前国王の娘の一人、サイカ様の護衛へと移された。セステスの政治はひどいもので一月も経たぬうちに崩壊し始めた。その時、現れたのが隣国グラッド帝国の大臣をしているダースという老人だった。老人と言っても杖はまだ使っておらず、元気な老人だった。


「セステス様、お困りでしょうか。私をこの国の大臣として迎え入れてもらえるのならば、その危機をなんとかしましょう」


 ダースは巧みな話術でセステスを説得し、ハイドブリガン王国の大臣となった。大臣の政治はひどいものだった。一時は大臣の助言で政治は立て直した、それが大臣の策略だった。


「セステス様、この国は資金が不足しすぎている、税金を三倍にしましょう」


「そうだな、そなたの言う通りにすれば成功するのだからそうしよう」


 初め、必ず成功すると言った大臣が政治を成功させたことでセステスからの多大な信頼を得た。そして、大臣のいいなりとなったセステスは大臣の助言を次々と聞いていった。




「――ということだ。税金の増加で払えなくなった者たちは家を捨てて、スラムに住み着いた。宵闇もその出身だろう、だから彼らが王女を狙うことも仕方のないことなのかもしれない」


 シレリアは武器を収め、俯いている。震えていたサイカの姿を思い出す。


「仕方のないことって、サイカは何もしてないだろ! そんなのおかしいだろ!」


「……理不尽なことを受け入れるしかないんだ! 私には……この国を変えるだけの力がないんだ」


 力がない、ついこの前までいじめられていた俺からすれば聞き覚えのある言葉だ。――だけど、今は違う。


「それなら俺たちを頼ればよかっただろ! なんで一人で解決しようとする!」


「た、頼る……?」


「ああ、エイジたちだって国を変えたいから貴族や王族を狙ったんだ。一人ではできないことでも俺やエイジたち宵闇の力があれば国だって変えられるだろ!」


 それを聞いたシレリアは驚愕に満ちた顔をした。そしてその顔はすぐにきれいな笑顔に変わった。


「ふふっ……まさか襲撃してきた暗殺者と手を組むとは考えもしなかったな」


 シレリアは手を差し出す。


「暗殺者の説得、頼めるか?」


 この手を取れば、後戻りはできない。俺が国王を殺したと知られたら学校での居場所もなくなるだろう。だが、この腐敗しきった国王が俺をいじめていた奴らと重なって見えた。どれだけ寿命を使おうともみんなは俺が守る、理由はそれだけで充分だ。俺は差し出された手を取る。


「ああ、もちろんだ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ