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8話:暗殺者との再会

 王城を照らす幾多の星々。城の屋上で一人、王女は星を眺める。静寂の中はっきりと聞こえた足音にサイカは振り向く。振り向いた階段から一人の男が現れる。ブレイバー学院の制服を着て、この辺りでは珍しい黒髪黒目の少年。


「レイト様……」




 あの後、城の個室を貸してもらって寝ようとしたがこんな状況で眠れるわけもなく城の中を彷徨っていたら屋上に出た。星空の下には驚くべきことにサイカが一人で立っていた。


「サイカ、どうしてここに?」


「実は、あまり眠れなくて……」


「奇遇だな、俺もだ」


 俺はサイカの隣に立ち星を眺める。


「やはり、星は綺麗ですね。大きく輝く星もあれば小さく輝く星もある、まるでこの世界に生きる私たちのようです」


「俺の世界では死んだら星になるとかいう話もあったけどな」


「死んだら星になる、ですか……」


 サイカはこちらに振り返る。


「もし、私があの星たちと同じようになったらあなたは見つけ出してくれますか?」


「……そんなこと、させない。俺が全て守ってみせる、だからサイカは死なない!」


 サイカの目から涙が頬を伝う。


「あなたなら、そう言ってくれると思っていました」


 サイカはまた上を向いて星空を眺めた。


「シレリアから、お父様のこと、聞いたんですね」


「……ああ」


「今回の事件はレイト様には関係のないことなんですよ、それでも手伝ってくれるのですか?」


「ああ、友達なんだから助けるのは当たり前だろ」


「友達、ですか……」


 俺たちが話していると多数の足音が階段から聞こえてくる。階段から現れたのは百以上の騎士を連れた中年の男だ。男は周りの騎士と同じような鎧に所々赤い線の入った鎧を身につけ、大きな体をも超える豪華な盾を構えている。男は俺たちに剣を突きつける。


「レイト、それにサイカだな。大臣の命令だ、ここで死んでもらう!」


 いきなり、男は俺に斬りかかった。すぐさま腰の剣を抜き、剣を止める。圧倒的な腕力で押し切られそうになるが、なんとか振り払ってサイカをお姫様抱っこする。


「れ、レイト様?」


「サイカ、しっかり掴まっていてくれよ」


 逃げ場を失った俺たちは十数メートルもある城の最上階から飛び降りるという一か八かの賭けに出た。俺はサイカを担いだまま、城から飛び降りる。


「きゃああああああ!」


 サイカの悲鳴と共に数秒の落下時間を体験する。地面に無事着地できたことに不思議な気持ちが溢れ出す。普通、あの距離から落下したら死ぬと思ったんだけど……もしかして、寿命を代償にする例の能力で身体も強化されているのか……?


「サイカ、しばらくこのまま走り続けるけど我慢してくれ」


「……わかりました」


 サイカの肌から伝わる温度が次第に熱くなっていくのを感じた。




「む、大臣、外が騒がしいようだが」


 夜遅く、そろそろ寝ようと寝室に大臣と向かった国王は剣のぶつかり合う音、騎士たちの声に疑念を抱く。


「きっと誰かが夜遅くに訓練をしているのでしょう」


 この無知な国王を誤魔化すのにはこの言葉で充分だ、大臣の予想は的中した。


「ふむ、それは精が出るな」




 街を照らす部屋の灯りもない真夜中、俺たちは暗闇の中をただひたすらに走り出していた。


「レイト様、これからどうするんですか?」


「とりあえず、エイジたちのところに向かおうと思う。サイカ、スラム街の場所ってわかるか?」


「スラム街、ですか。昔、一度行ったきりで記憶が曖昧なのですがなんとか思い出してみます」


 エイジの正体が俺にバレた以上、寮に戻る可能性は低い。そして、シレリアが言っていたスラム出身という情報。あくまでも可能性の話だが、今はそれに賭けるしかない。俺はサイカの指示通りになんとかスラム街に着くことができた。


「ここが……スラム街か……?」


 小学生くらいの見た目の少年少女たちが壁も屋根もない硬い道の隅で寝ている。みんな手足はやせ細っている。これが、この国の現状なのか……。俺たちは唯一灯りがついている寂れた廃墟に向かった。


「ここは……?」


 天井が崩れ落ちていて辺りには瓦礫の山ができている。横に立てかけられた掲示板には色々な人物の似顔絵が貼られていてその上には赤くバツ印がされている。一つ、バツ印のない似顔絵は間違いなくサイカのものだった。上にナイフが刺されている。


「よお、レイトか。何をしに来たんだ?」


 灯りの中心、瓦礫の上で少年は言った。横には黒装束の二人が並んでいる。


「エイジ、サイカはこの事件に関係していない、黒幕はこの国の大臣だ!」


 エイジは瓦礫の上から降りて俺の前に立つ。


「……どういうことだ?」


 俺はエイジにシレリアから聞いた全てのことを話した。それを聞くとエイジは唇を血が流れるほど噛みしめた。拳は強く握りしめられている。


「ふざけるな……! あいつらのせいでここの人たちが何人死んだと思ってるんだ……!」


「エイジ……」


「レイト、大臣暗殺の作戦は明日の夜、決行する。今日はここで泊まっていってくれ」


「ああ、わかった」


 俺たちはエイジに案内されて藁の束をベッド代わりにして寝た。藁の上で寝るのは初めての経験で肌に藁が刺さったりもして痛かったが、今はなりふり構ってられない。真夜中に走り回ったからかすぐに眠れた。


 ――辺境の小さな村。一人の少年が村の門を出る。それを見送る村人たち。


「アインス、本当に行ってしまうのかい?」


「はい、必ず魔王を倒して帰ってきます」


「あの頑固なお主のことだ、引き留めるなどということはしない。だが、気をつけて行ってこいよ」


「もちろんです。それじゃあ、行ってきます!」


 村人の半数は泣きながら手を振っている。アインスは腰に下げた素朴な剣を身に着け、魔王を倒す旅に出た。


 俺は勢いよく起き上がり、目を覚ます。天井から指す陽の光が暖かい。


「い、今のは……」


 アインスと呼ばれていた少年、アインスってどこかで……。部屋のドアが開かれる。ドアから姿を現したのは年端もいかない銀髪銀目の少女だ。俺たちを襲撃した黒装束と同じ格好をしている。


「レイト様、朝ご飯ができましたよ」


「あ、あの、君は?」


 少女は片膝を突いて答える。


「拙者はサリィです。暗殺者団体『宵闇』の当主であるエイジ様に仕えています」


 拙者という武士のような一人称でサリィは話す。


「俺はレイト、よろしく」


 手を差し出すが、サリィは問答無用で俺の手を叩く。突然の出来事に何が起こったのか理解できなかった。


「……え?」


「まだあなたを信用したわけではありません! 拙者が信用するのは兄様とエイジ様だけです!」


 ……なんと面倒なことだろうか。こんな幼い頃から人を毛嫌いする奴なんか初めて見たぞ。思わずため息が出る。


「はあ……わかったよ。とりあえず、行こうか」


 外に出るとエイジが鍋いっぱいにカレーを作っていた。その前にはスラムの住人が並んでいる。


「よお、レイト、遅かったじゃないか。お前の分はこれだ、持って行けよ」


「ああ、ありがとう」


 俺は誰もいない静かな廃墟で食べる。一昨日食べたばかりではあったがいつ食べてもカレーは美味しい。


「隣、いいか?」


 謎の黒装束を着た青年に話しかけられる。なんとなく予想はしているが、


「いいですけど……誰?」


 と聞かずにはいられなかった。銀のロン毛で黒い無地の鉢巻が特徴的だ。


「おっと、自己紹介が遅れたな。俺は、レクス、エイジ様に仕えている。そして、サリィの兄だ」


 この人がサリィの兄だったのか。レクスは俺の隣に座る。


「レクスたちはなんでエイジに仕えてるんだ?」


「昔、エイジ様の祖父は暗殺者団体『宵闇』を作った。儂たちの先祖は代々、彼に仕える家系で、こうして今もエイジ様に仕えているというわけだ」


「エイジの親はどうしてるんだ?」


「……数年前に亡くなった。暗殺をした人の関係者から復讐されてな」


 俺は俯いて黙り込んだ。何と返せばいいのかわからない。


「まあ、殺せばそれを恨む人が出てくる。結局、殺すだけでは何も解決しないのかもな」


「でも、大臣たちは……!」


 昔のことを泣きそうに話すシレリアの顔が映り、俺は歯を嚙みしめる。レクスは俺の肩を叩く。


「レイト殿、怒りで人を殺めるなよ。必ず死と向き合うんだ」


「どういう意味だ……?」


「ふっ、いずれわかる時が来るさ。今は殺すということを考えろ」


 殺す、正直これから殺すというだけで体の震えが止まらない。今まで殺したことだってないんだ。

 俺はご飯を食べると夜まで時間を潰すため適当にスラムの中をうろついた。しばらくするとゴミの山に沢山の子供の姿が見えた。子供たちはゴミを一生懸命あさっている。


「君たち、何をしているんだ?」


「食べ物を探してるんだ! ほら、これとか!」


 小学生くらいの子供は笑顔で食べかけの骨付き肉を見せる。


「親は、いないのか?」


「お母さんとお父さんは小さい頃、病気で死んじゃったんだ。医者の人たちはお金がなくて行けないって言ってた」


 ……これが、お前の作りたい国だったのかよ、セステス! 半分は子供に対する哀れみ、半分はセステスたちに対する怒りの状態で廃墟に戻った。

 ――橙の夕日が廃墟を照らす。エイジは城内の地図を広げて作戦会議を開く。


「よし、みんな集まったな。まず、城に入るところだが、城壁を越えて侵入する。その後、兵にバレないように城内に入って一気国王と大臣のいる玉座まで突き進む。何か質問はあるか?」


「サイカはどうするんだ?」


「王女を一人でここに残せば間違いなく襲撃されて即死だ。かといって人員を裂く余裕もない、最後まで守りながら進む。他に質問はあるか?」


 エイジは周りの顔を見て話す。誰も質問する者はいない。全員がこれからの戦闘に真剣な表情だ。


「ないようだな、よし、行くぞ!」

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