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4話:D

「ふぅ……なんとか間に合ったな」


 昨日崩壊した修練場はイリアの言った通り元通りになっていた。中に入ると沢山の生徒があちこちに散らばって話している。


「すげぇ……一体、何人いるんだ……」


「実習に集められるのは騎士四年生から騎士六年生までだ。それ以外は昼からも座学ということになっている」


 それだけの人数が修練場に入っても自由に動けるだけのスペースはある。とてつもなく大きい建物だな。辺りを見回してみると、ミオやエイジの姿があった。ミオはこちらに気づいたようで手を振っている。

 体育館で言うステージのような場所に先生が一人立つ。魔法学の先生とサキ先生だ。魔法学の先生がマイクらしきものに近づく。


「えーみなさん、それでは実習を始めたいと思います。クラスごとに二列で並んでください」


 魔法学の先生がそう言うと全員が一斉に動き出す。


「はい、騎士四年生の人は第二魔法の習得をします。隣の人とペアを組んでください」


 俺は右を向く。相手はダイアモンドのように綺麗な、短い銀色の髪に銀色の瞳、そして餅のように白い肌。女子ならばスカートを履いているはずなのに、相手はズボンを履いている。


「レイトくん、だよね。ボクはリュン、よろしくね」


「ああ、よろしく。えーっと、男子ってことでいいのか?」


「あ、うん。よく間違えられるんだ」


 とても男子とは思えない透き通った声だ。スカートを履いていれば間違いなく女子と思える外見だ。


「ペアの確認はできたようですね。では、各々第二魔法の習得を開始してください」


 と魔法学の先生から指示を出される。俺には理解できない指示だったが、みんなは理解しているようだった。


「レイトくんは実習って初めてだったよね」


「ああ」


「じゃあ、説明しながら進めるね。まずは、どちらから魔法を習得するか決めるんだけど、今回は説明も兼ねてだからボクが先にするね」


 そう言うと、リュンは魔法を唱え始める。


「風よ、一つに集まり、凝縮、敵を狙い撃て、『ウィンドブラスト』」


 リュンの手から緑色の光が溢れ出る。それと同時に大きな風の球体が現れ、俺の目の前に放たれる。咄嗟に左腕を前に出し防ごうとするが、俺の目の前に現れた謎の結界に触れると同時にリュンの魔法は消滅した。


「い、今のは……?」


「風の球体はボクの魔法『ウィンドブラスト』。そしてレイトくんを防いだ結界は魔法学の先生の魔法『バリア』。先生の魔法があるからこそ、こうして実習が出来ているんだ」


「な、なるほど……」


「さ、次はレイトくんの番だよ」


 リュンは笑顔でそう言うが、俺は魔法の出し方すら知らない素人だぞ。


「魔法ってどうやって出すんだ……?」


「え、もしかして魔法……使ったことないの?」


 当たり前だろ……日本でそんなこと出来る人など一人もいないぞ。リュンは冷静さを取り戻し、丁寧に解説してくれる。


「魔法を構成しているものは『魔法言ワード』と言われる呪文のようなものなんだ。さっき唱えた言葉も魔法言ワードなんだ。第一魔法なら三節からなる魔法言ワードでいいんだけど、第二魔法、第三魔法と強力になってくると魔法言ワードの数も多くなり、戦闘でも隙を作ることになってしまう。その代わり、絶大な威力を誇る魔法を使うことができるけどね」


「なるほどな……」


 口ではそう言ったが、全くわからない。これから使い続ける内にわかってくるようになるだろう、と楽観的な考えで話を進める。


「じゃあ、どうやってその魔法言ワードは唱えるんだ?」


「使いたい魔法を頭の中で思い浮かべれば自然と唱えられるようになる。実際にやってみた方が早いかもね」


「わかった」


 実際に使いたい魔法を思い浮かべる……か。使いたい魔法……使いたい魔法……。超強力な風の魔法とか……か? すると、頭の中に自然と魔法言ワードが浮かび上がってくる。俺は体を乗っ取られたかのように唱え始めた。


「其は輝ける疾風、縦横無尽の槍、空を駆けよ、翡翠の煌めき、大いなる風よ、旋風以て、敵を穿て、『ゲイルランス・ザ・ドラグーン』」


 風が俺の前に集まっていき、緑の槍を形成した。目で追うのがやっとの速さでリュンを狙って放つ。リュンの目の前に結界が貼られる。緑の槍は衝突しても消滅せず、さらに威力を増す。結界にひびが入り、数秒も経たぬ内に壊れた。魔法学の先生はそれに気づき、高速で詠唱する。リュンに当たる寸前で再び結界が貼られ、緑の槍は消滅した。周りの生徒たちは何事かと俺を見る。


「れ、レイトくん……今のって第五魔法だよね……体の方は平気なの?」


 リュンが心配そうに俺を見る。


「体の方って?」


「魔法の威力が上がっていくと使用する魔力量も増えていくんだ。その魔力量が足りないと体に疲れが出たり、気絶、最悪死亡することもあるんだよ」


 そう言われるが、特に体の疲れは感じられない。周囲がざわざわと話し始める。


「おい、お前ら静かにしろ! 次に進むぞ」


 サキ先生が場を治めた。みんなは素直に先生の方を向いて話を聞く。


「今、先生が倉庫にいる魔物を全員分連れてきてもらってる。各自、習得した魔法を駆使して戦ってみてくれ」




 男たち三人はサキ先生に頼まれ、倉庫に向かっていた。いつも通りの雑用だ。一人の男が魔物の凶暴さを不審に思った。


「おい、なんかこの魔物たちおかしくないか?」


「そうか? 気のせいだろ」


 男の予感は正しかった。檻の中の魔物は鉄格子に突進し、檻を壊した。


「うわあああああ!」


 男たちはなすすべもなく魔物に殺された。




「うわあああああ!」


 男の悲鳴が静寂の修練場に響き渡った。それと同時に大きな足音が聞こえる。即座にサキ先生が指示を出す。


「お前らはステージに上がれ! そこで待機だ、いいな!」


 俺を含め、生徒たちは急いでステージに上がった。サキ先生と魔法学の先生はステージから降りる。足音がだんだん大きくなっていく。勢いよく扉が吹き飛ばされ、魔物が現れる。白い鬣、マンティコアほどではないが、俺の倍以上ある大きな体。サキ先生も、一体だけならば大して驚かなかっただろう。俺たち全員分を用意していたんだ、数は百を優に超えていた。


「不味いな……」


 サキ先生の呟く声が耳に入った。


「パイア、後ろに下がって魔法で援護してくれ」


 パイアというのは魔法学の先生の名前だろう。サキ先生が剣を構える。通常の剣よりも太い大剣。赤い炎が剣を包んでいる。あれがエレナの言っていた国宝武器アトレイルだろうか。サキ先生が魔物を斬るとそこから炎が燃え移り、対象を焼き殺した。魔法学の先生も魔法言ワードが三節からなる第一魔法で援護する。第一魔法でも生徒の第二魔法より段違いに強い威力を誇っている。その後も、二人は次々と魔物を倒していくが、男の声で戦いはさらに困難なものとなる。


「灰の力、万物に働く力、重力よ、敵の自由を奪え、束縛せよ『グラビティ』」


 声の対象は灰のローブに身を包み、フードをかぶって顔を隠している男らしき人物だった。男は空中に浮いて戦いを観戦している。男の魔法の影響か、サキ先生の動きが鈍くなっている。あのままでは確実に殺される、俺は迷う暇もなくステージから飛び出した。


「レイト、なんで来たんだ!」


「この数をたった二人でなんとかなるわけないでしょう、俺も手伝います!」


「……わかった。お前は、左側を頼む」


「了解!」


 とは言ったものの、昨日の剣はイリアを背負うために捨ててしまったから武器と言える物は何も持っていない。となると、手段は一つ。俺は魔法を詠唱する。


「其は輝ける疾風、縦横無尽の槍、空を――」


 だが、詠唱の途中で魔物に突き飛ばされる。――時間が圧倒的に足りない。どうする、詠唱さえなければ……詠唱さえ……。こうなれば、最終手段か。迷っている暇はない。

 望め、力を。寿命を代償として!


『寿命七年消費――ステータスが更新されました』


 機械音声が脳内で響いた。感じる、魔法言ワードなど使わなくとも……!


「ゲイルランス・ザ・ドラグーン!」


 緑の槍が魔物をまとめて貫く。だが、魔物は怯むことなく襲ってくる。槍を一本一本撃っていたんじゃきりがない。考えろ、イメージするんだ。まとめて吹き飛ばせる魔法――自然と頭に浮かんでくる。


「バーンフレイム・ザ・プロミネンス!」


 腕を大きく上に掲げると空中に炎の球体が現れる。天井は三十メートルを優に超えているのにそれに届きそうなほど大きな球体だ。魔物の群れへと放たれた炎を球体は地に触れた瞬間、大爆発を起こした。爆音と熱風。全ての魔物は一掃され、校舎は跡形もなく吹き飛ばされる。見上げると青く明るい空があった。生徒たちは魔法学の先生が貼った結界で全員無事だった。怪しげな男の方から手を叩く音が聞こえる。


「これはお見事、レイトくんで良いのですかな?」


「ああ、そうだ。お前は何者だ!」


 この場にいる全員の視線が男にいく。


「私の名前はDとでも名乗っておきましょうか。何者か、という質問に関しては黒魔竜に関係する者と言えば理解いただけますかな?」


「こ、黒魔竜……!」


 Dは不気味な笑い声を上げると煙が彼の身を包む。逃げるDを追いかけようとするが、煙の中は見通しが悪くDの居場所さえわからない。辺りを見回していると、耳元でDの囁く声が聞こえる。


「レイトくん、あなたは実に面白いです。あなたも彼と同じ『転生者』なのでしょうかねぇ……」


 俺は驚かずにはいられなかった。こいつは俺が転生したことを知っている!


「……ま、待て!」


 言い終わったころにはDの姿はそこにはなかった。

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