3話:夢見ていた日々
次の日の朝、俺は職員室に呼び出されていた。内容は編入の挨拶についてだ。
「――で、あたしが呼んだら教室に入ってきてくれ。後は簡単な自己紹介をして終わりだ」
「分かりました」
目の前で椅子に座っているのがクラスの担任らしい。紅のツインテール、明るい黄色の瞳。先生にしては若い、というより小学生のように幼い外見だ。
「何か質問はあるか?」
「そういえば、まだ先生の名前聞いてなかったんですけど」
「あ、そうだったか? 悪い悪い、あたしはサキだ。サキ先生って呼んでもらって構わないぜ」
「……サキちゃん」
俺は慌てて手で口を覆う。小学生のような外見を見ていたら思わずそんな言葉が出てしまった。サキ先生の表情は笑顔から怒り顔へと変わり、周りにいた先生たちはサキ先生の席から離れていく。
「おい、いい度胸してるじゃねえか……」
俺は咄嗟に逃げようとするがサキ先生に肩を掴まれて動けない。なんという力、肩が握りつぶされそうだ。サキ先生から凄まじい殺気を感じる。
「そんなに死にてぇなら今すぐ死なせてやろうかぁ?」
部屋中に響き渡る声と同時にパンチが飛ぶ。気づいたころには俺は激しい衝撃とともに吹き飛ばされていた。壁に衝突し気絶しそうになる。サキ先生が俺の目の前に立ち、もう一撃と手に力を入れた時、チャイムが鳴る。サキ先生はそれと同時に攻撃を止めてため息をつく。
「はぁ……まだ殴り足りねえがそろそろ時間だ。行くぞ」
「……はい」
ひとまず安心だ。あのまま殴られていたら確実に気を失っていた。俺はサキ先生に連れられて『4-B』と書かれた部屋に着く。
「じゃあ、お前はここで待っていてくれ」
サキ先生はドアを開けて中へと入った。俺はみんなから見えない角度で身を潜める。勢い良く閉められたドアに耳を当てる。
「えー知ってる奴もいるかもしれんが今日は編入生を紹介する。入ってきてくれ」
俺はドアを開け、広々とした空間に足を踏み入れる。教室の中は席に着いた生徒で溢れていた。全員が俺を見てる。一番奥の列にイリアの姿があった。俺は石で作られた教壇に立ってサキ先生の指示を待つ。
「じゃあ、自己紹介してもらおうか」
「えっと……レイトです。よろしくお願いします」
教室が静まり返る。何か不味かっただろうか。俺の隣で立っているサキ先生は退屈そうにあくびをしている。
「お前、もう少しマシな自己紹介できねぇのかよ」
「マシな自己紹介って言われても……」
「じゃあ、好きな女のタイプは?」
そんなの答えられるわけがないだろう。……いや、待てよ、俺はいつもこんな調子だから前世でものけ者にされていたんじゃないのか。俺は勇気を出して話そうと決意する。
「えーっと、髪は茶色のポニーテールが好きですね。基本、怖い人でなければどんな人でもいいですよ。異種族も大歓迎です」
つい勢いに任せて余計なことまで話してしまった。もちろん、これは二次元の話だ。みんな流石にこんなやつ引くよな……と思ったがみんなの反応は意外に良かった。
「レイトくん怖そうに見えたけど意外と面白い人だね」
「レイト! 俺もポニーテール好きだぜ!」
「キャー! レイトくん異種族も行けるなんて心が広い!」。
このような声が聞こえてくる。日本でこんなこと言ったら誰も近寄ってこないはずなのに。この世界の人は優しいというかみんないい人たちだ。異世界転生して良かったと思うと同時にこの場所を失いたくないという気持ちも感じた。先生は席を見渡してイリアの隣を指差す。
「イリアの隣が空いてるからお前の席はそこな」
俺は指をさされた席に向かう。やはり一番後ろの席は落ち着く。日本の学校と同じチャイムが鳴り響き、朝のHRが終わった。
休憩時間に入って間もなく左の席に座っていた女子が話しかけてくる。
「ねえ、もしかして君ってマンティコアを倒した編入生でしょ! 私、あの時君のこと見てたんだよね!」
茶色のサイドテールで茶色の目の少女は興奮して俺の机に手を置き近づいてくる。顔が近い。俺の心拍数が高まるのを感じる。こんなことで動じてたらきりがないぞ、そろそろ慣れないと。心の中で念じる。
「いや、大したことはしてないよ」
「何言ってるの、マンティコアは先生でも勝てなかった強力な魔物だよ! やっぱり君もDOKの優勝狙ってるの?」
「ああ、そうだけど君もってことは……」
「うん、ハルもね! 優勝狙ってるんだ!」
自分のことをハルと言う少女は目を輝かせて話した。やはり皆優勝を狙っているのか。
「あ、そういえばまだ名前言ってないよね。ハルはハルカだよ、よろしくね!」
ハルカは思い出したかのように自己紹介をする。俺はもう名乗ったから自己紹介は必要ないだろうと思い、差し伸べられた手を取り握手を交わす。
「ああ、よろしく」
「あ、ハルちゃんばっかりずるい!」
「私たちも話したいです!」
そう言って二人の少女たちはハルカの後ろに現れた。二人とも橙色のポニーテールで顔が瓜二つだ。双子だろうか。左側に立っている少女は左目をを隠し、対して右側に立っている少女は包帯で右目を隠している。二人とも見えている目の色は青だ。
「えっと……君たちは?」
「あたしはアイ・オルム! で、こっちが……」
「妹のレイ・オルムです。よろしくお願いします」
左側に立っているのがアイで右側に立っているのがレイのようだ。
「二人は双子なのか?」
「はい、そうです」
「あたしの方が先に生まれたから姉なんだ」
誇らしげにアイが言う。それを聞いたレイが付け加える。
「まあ、ほぼ同時に生まれたと聞きましたが」
「いや、それでもあたしの方が早かったね」
「いえ、私という可能性もあります。仕方なく譲っただけなんですよ」
などと二人の口論が始まった。数分後、まだ口論している二人を止めたのは先生の声だった。
「さあ、授業をするぞ。席に着け」
と厳つい顔をした中年男性が入ってきた。如何にも厳しそうな先生だな。みんなが席に座ると驚くことに日本でもお馴染みの号令をして授業を受ける。
「じゃあ、今日は――」
と五十分間の地獄の授業を終えて再び休み時間が終わる。俺は隣に座っているイリアに聞く。
「なあ、イリア。次の授業ってなんなんだ?」
「次か? えーっと確か数学のはずだ」
数学、俺の苦手な教科の一つだ。特に方程式が嫌いだった記憶があるな……。この暗い気分を変えようと別の話題に移す。
「……あ、そういえば今まで気づかなかったけど教科書とかノートとか使わないんだな」
先ほどの授業で使われていたのは生徒会室で見た魔力で動くスクリーンだけだ。そこに物語の本文を映して授業を進めていた。辺りを見回しても誰一人として教科書やノートを出そうとしなかった。
「教科書? ノート? それはどんなものだ?」
俺は再び驚く。
「え、あれだよ。教科書というのはスクリーンに映っていた文章が本に書いてあるものだ。そしてノートは授業のメモを取ったりする薄い本だな」
それを聞くとイリアは笑いだす。俺、おかしいことを言ったのか、心の中でそう思う。
「ふふっ、いやレイトは冗談で言っているのか? 紙を存分に使えるのは貴族や王族など裕福な者たちぐらいだぞ」
この世界には印刷という技術もないのか。エレベーターがあるんだからその技術ぐらいあるはずなんだけどな……。世界って不思議なものだな。
「ははは……ちょっと言ってみただけだよ」
この調子だと俺が異世界人だと気づくのも時間の問題だな。俺は焦りつつ早急に話題を変えた。
「そ、そういえばこの学校には貴族出身の人がいるけど皆優しいんだな」
イリアやエレナ、アイとレイも家名を持っている貴族だが平民を差別しているとは感じられなかった。この世界の貴族はみんな優しいのかと考える。イリアは暗い顔をする。
「いや、私たちが特殊なんだ。残念だが平民を差別する貴族は半数以上いる。貴族という権力を」
俺のそんな考えはイリアの言葉で砕け散った。平民を差別する貴族もいるということか。できれば会いたくないものだ。
「まあ、幸いこのクラスにはそんな者はいないから安心していいぞ」
「ああ、それは良かった」
俺は安心の息を吐く。イリアとの会話が終わるころにドアが開く音がした。入ってきたのは暗い青色のとんがり頭の若い男性だ。
「よーし! 授業をするぞ、みんな席に着いてくれ!」
生徒を見る先生の青い目からは熱い情熱が伝わってくる。みんな長袖の制服を着ているのに先生だけは半袖の体操着だ。大丈夫か、この先生……。
みんなが席に着いたとほぼ同時にチャイムが鳴る。
「よっしゃ! 起立、礼、着席!」
一時間目には生徒がしていた号令をなぜか先生がしている。それが終わると俺にとって地獄の数学が始まった、と思っていたのだが、
「さあ、今日は二桁の足し算をするぞ! みんな難しいから遅れるなよ!」
ここで衝撃の事実が明らかになった。二桁の足し算なんてその年で勉強することではないだろう。最初は俺を笑わせるためかと思っていたがみんなの表情を見てみるといたって真面目だ。どうやら嘘は言っていないらしい。そして難しいという言葉。あの計算のどこが難しいんだよ、俺でも解けるぞと考えが変わる。
「さあ、この問題を解いてみてくれ」
スクリーンに『34+19』という文字が表示される。みんなの行動は意外なもので、空中に指で文字を書く者や机の上に文字を書く者もいる。なんだ、あの技術は。文字の色は光る紫色。あれも魔力なのだろうか、と俺は何もできずにただ座っていた。先生はそんな俺を見て、
「どうした、レイト。解かなくていいのか?」
いや、あんな問題すぐ解けるだろ。
「あ、はい、解けました」
「おいおい、いくら何でも……」
最初に疑ったのは先生だった。次々に周りの生徒たちがひそひそと話し始める。
「答えは五十三ですよね」
先生は驚いた顔で、
「せ、正解だ……」
辺りは一瞬で静まり返る。授業が始まってから気づいていたがハルカは俺の方をずっと向いていた。事の一部始終を見ていたハルカは話す。
「ねえ、レイト、あの問題を見て数秒で答えが分かったような顔してたよね。何か解くコツでもあるの?」
「え、いや、あういうのは慣れだよ」
「な、慣れって……一体どんな暮らしをしてたらあんな問題解けるの?」
と驚いた様子で聞かれる。いや、一体どんな暮らしをしてたらあんな問題も解けないんですか、と言いたかったがクラスメイト全員の反感を買いそうなので止めておいた。
「それは、秘密かな」
とりあえず曖昧な返事をしておいた。この後も簡単な問題を解き、数学の授業を終えた。チャイムが鳴り、先生の元気な号令をして終わる。
「あーやっと地獄の時間が終わったよぉ……」
ハルカが横で背伸びをしている。授業が始まってから数分間、先生の話を聞かずに俺の方を見ていたからよほど数学が嫌いなのだろうか。まあ、前世でも数学が嫌いな人は多かったから当然と言えば当然か。
「ああ、お疲れ。さて、次の教科はなんだ?」
「次は……世界史だね」
世界史、そこそこ得意だった教科だ。数学のように今回もなんとかなるだろう。
「まあ、レイトなら楽勝だよね。数学も完璧だったし」
ハルカにプレッシャーをかけられる。頭が良すぎるのも考え物だな……と考えていると、世界史の先生が入ってきた。
「あーだりぃ……」
入ってくると同時に呟いたのが聞こえた。見たことのある紅のツインテール、低い背。間違いない、サキ先生だ。俺がずっと見ていると、サキ先生もそれに気づいたのか嫌そうな顔をして睨んだ。やはり、朝のことをまだ怒っているようだ。それを見ていたハルカは、
「ねえ、なんで先生、レイトを睨んでるの?」
とハルカは目を輝かせて囁く。
「じ、実は――」
と朝に起こった出来事を話した。それを聞くと、ハルカは笑いをこらえていたが、数秒して耐えられず大声で笑った。
「くくっ、ふふ、ははは……あーはっはっはっは!」
ハルカは机をバンバンと叩いている。そんなに面白かったのか……。
「いやぁ、そんなこと言った人はレイトが初めてだよ! サキちゃん、ふふっ、あはははは!」
なんか、そんなに笑われると恥ずかしくなってくる。
「そ、そんなに笑う必要ないだろっ!」
「あーごめんごめん。しかし、よく生きて帰って来たよね、あのサキ先生から」
「ど、どういう意味なんだ……?」
「あれ、知らない? サキ先生は国王の警護をしていた騎士で、国王に襲いかかった者は全員、彼女の返り討ちにあったと聞いたよ。ついた異名は『薔薇の騎士』、怒らせると生きて帰れるか分からないとまで言われてる」
額から汗が流れ落ちる。つまり、俺が生きて帰れたのは奇跡ということなのか。チャイムの音が鳴り響く。
「あ、じゃあ続きはまた後でね」
生徒の号令で授業を始める。スクリーンに一人の男が映る。立派な髭の生えた黒髪黒目。
「さて、編入生にでも聞いてみるか。レイト、こいつ知ってるか?」
不意の質問に驚く。
「い、いや、知りません」
「おいおい、誰でも知ってることだぞ。じゃあ、イリア」
「はい、勇者アインス・クリムゾンです。彼は八人の友人と『ギルド』を組み、魔王を封印しました」
「じゃあ、そのギルドの名前は?」
「『光の騎士団』です」
「うん、正解だ。じゃあ――」
と、長い説明が続いた。俺はここであることに気づく。ここは日本ではないから戦国時代の話なんて出るわけがない、日本での得意不得意など関係しないのだ。なぜ、もっと早く気づかなかったのだろう。その後、サキ先生の話は全く頭に入ってこなかった。
気がつけば教壇にサキ先生の姿はなかった。みんなも席を立って話している。授業は終わったみたいだ。
「レイトが世界史苦手だったなんて意外だな」
そう言ったのは隣の席に座っているハルカだった。見たところ嬉しそうな顔をしている。
「まあ、人には得手不得手があるから気にすることはないよ!」
「全教科赤点のハルちゃんが言えたことではありませんけどね」
そう言って出てきたのはレイだった。それにしても、今の話が本当なら深刻な問題じゃないか……。俺でもせいぜい一教科だけだったぞ。
「全部じゃないもん! 魔法学だけは赤点じゃなかったもん!」
あまり変わらない気もするが、それよりも聞き覚えのない教科に興味が湧いた。
「魔法学?」
「レイトさんは編入したばかりだから知らないですよね。魔法学とはその名の通り魔法に関することを学びます」
――魔法。校長が校舎の崩壊を一時的に止めたのも魔法か。魔法をついにこの手で使える日が来るとは。
「ふふん、ハルは魔法学なら校内一位だよ!」
とハルカは威張っている。
そして、待ちに待った魔法学の授業を受けている。教えているのは、コートを羽織って魔女のようなとんがり帽子をかぶった若い女性。
「ハルカさん。魔法の階級は第一魔法から第九魔法までありますが、最高で誰が第何魔法まで習得したか知っていますか?」
「はい、賢者ファイス・ロークニルの第八魔法です!」
「正解です。階級の範囲としては、一番威力が弱い第一魔法から天変地異に匹敵するとまで言われている第九魔法までと定められています。みなさんは午後の実習で第二魔法の習得をすると聞いていますので楽しみにしていてください」
魔法学と聞いていたから魔法が使えるのだと思っていたが、どうやら実際に魔法を使うのは実習の時間らしい。魔法が使えないのは残念だが、魔法のことを聞いておいて損はないな。
チャイムの音が鳴る。楽しい時間ほど早く過ぎるとはこのことか。授業が終わると大半の人は弁当を持って他の席に集まり、残った人は弁当を持って教室を出ていく。おいおい、弁当が必要なんて聞いてないぞ。さすがに他の人から貰うのは悪いと思い、行く当てもなく教室を出た。
「あー腹減った……」
俺は、あれから二十分ほど校内を歩いていた。視界の奥に一本の木と、その下に置かれたベンチが見える。ちょうどいい、あそこで休憩しながら考えるか。そんなことを考えて近づくと俺は足を止める。そこにはイリアが座って弁当を食べていた。イリアもこちらに気づき、驚いた顔をする。
「れ、レイト! なぜここにいる!」
「いや、ここで休もうかと思ったら……」
グウゥゥゥ……と俺の腹部から音が鳴る。数秒してそれが俺のお腹が鳴ったと気づく。イリアは若干迷って、
「半分食べてしまったが……食べるか?」
と弁当と箸を差し出す。この空腹の状況下で手段を選んでいる暇はないか。
「イリアがいいなら、遠慮なく」
俺は少しのご飯と見たこともない野菜を一瞬で平らげる。
「本当にありがとう、イリア!」
「いや、構わないさ。私も最初は弁当を忘れていたものだ」
「今度からは弁当作ってこないとな」
そう決意したのはいいものの、俺はあることを忘れていた。
「そういえば、弁当箱持ってないや」
俺のそんな呟きが聞こえたのかセイナから二つあった弁当箱の一つを渡される。
「え、いいのか?」
「ああ、まだ予備はあるからな。だが、一つ条件がある」
「じょ、条件?」
難しい条件でなければいいのだが……と不安になる。
「今日みたいに、昼休みは私と弁当を食べてくれないか?」
イリアはほんのりと顔を赤らめて言った。
「そんなことで良ければ構わないよ」
イリアの顔には今までにないくらい喜びの表情が表れている。
「イリアは、他の人とは一緒に食べないのか?」
俺は今まで疑問に思っていたことを言った。イリアが俺以外の誰かと話しているところを見たことがないから不思議に思っていた。
「そ、それは……」
最後まで言い終わらない内にイリアは俯く。クラスで何かあったんだろうか? 今度、クラスメイトの誰かにでも聞いてみるか。
「あ、そういえば、あの後大丈夫だったのか?」
「ああ、あれくらいの傷、一日で治せるさ」
あれくらいの傷って……壁に叩きつけられていたぞ。絶対骨折じゃ済まないレベルだったと思うが。
「そろそろ時間か……。レイト、実習場所へ向かうぞ」
「実習場所とか聞いてないんだが」
「そうか、編入したばかりで聞いていないのか。実習場所はいつも修練場だ、急いで向かうぞ」
「え、修練場って昨日壊れたんじゃ……」
確かに昨日、俺の一撃で崩壊したはずだ。それはイリアも知っているだろう。
「昨日、先生全員で修復作業が行われたんだが知らなかったか?」
直したってそんなの無理……と思ったが魔法学の授業を思い出す。
「階級の範囲としては、一番威力が弱い第一魔法から天変地異に匹敵するとまで言われている第九魔法までと定められています」
つまり、建物の修復ぐらいなら魔法のプロである先生たちが集まれば簡単だということか。
「さあ、遅れない内に行くぞ」
俺たちは、急いで修練場へ走り出した。
修練場の横にある薄暗い倉庫。中には、この後の実習で使う魔物が大きな檻に入れられている。
「――獣よ、猛り狂え、本能のままに、『ヒデット』」
ローブに身を包んだ男の手から橙の魔方陣が現れる。使われた魔法は妨害系第一魔法『ヒデット』。対象に敵を無差別に襲わせる魔法だ。この魔法には対象を魔物しか設定できないという欠点があった。当然、魔物の敵は自分たちだ。そんな魔法を使う目的は一つしかない。
「昨日は謎の編入生のせいで失敗したが、今度は成功させてみせる……黒魔竜のためにも! くくく……はーはっはっはっ……」
男の不気味な笑い声が倉庫の中で響いた。




