96*アールレイの森
ジェマは時々動くので、生きてはいるようだ。たまに治癒魔法を飛ばしておいた。
エンジンを切って桟橋を出し、ジェマをうんしょっと立たせる。凄い力で柱にしがみついたままなので、指を一本ずつ剥がしていった。
「降りるよー。歩ける? 足元見てね」
まずジェマを桟橋に立たせておいてから、ボートの後始末をして、私も降りる。
ジェマの手を引っ張って桟橋を渡り、海岸に降りた。ボートをBOXに仕舞う。
海から少し離れた場所に小屋を出し、ジェマを休ませることにする。
そうか、さっきジェマをBOXに仕舞っちゃえば早かったかも。
靴を脱がせようとしたら、自分で脱いでくれた。大丈夫かな?
ジェマはすぐにトイレに走って行った。やっぱり気分が悪かったのかもしれない。
私もずっとハンドルを握っていた手を温水で温めて、治癒魔法と魔力マッサージを行った。
昼近いので、早目にご飯にしてしまおうかな。でもジェマは食べられるかな。食べられそうな物を探していたら、ジェマがトイレから出てきた。血の気が引いた真っ白な顔をしている。
「具合悪い? 吐いた?」
「……吐いてないです。風が強くて飛んじゃいそうで、掴まってました。すっごく速いですね、馬車の何十倍も速いと思いました」
思ったより大丈夫そうだ、良かった。治癒魔法が効いたかな。
「食欲はある? この辺もう魔素濃くなってきてるけど大丈夫?」
「おにぎり食べたいです」
大丈夫だな。おにぎり食べられる元気があるなら。
「何のおにぎりがいいかな。昨日アイテムバッグにも色々入れておいたから、私がいないときは食べてね」
「わあ、ありがとうございます」
色々種類の違うおにぎりとお惣菜を出して、私に味噌汁、ジェマにオニオンスープを出す。
昨日味噌汁を出したら変な顔をされたので、別のスープにしてみる。味噌汁はジェマには塩分が強すぎたらしい。オニオンスープは大丈夫みたいだった。
今日はおにぎり屋さんのおにぎり。コンビニやスーパーのよりは、だいぶ美味しい気がする。火魔法でちょっと温めると、出来立ての感じになって良い。
いくらのおにぎりを選んだ。うんまーい。いくらの醤油漬け具合がたまらない。さすが北海道。これは私もおにぎり日記をつけるべきでは。
ジェマはタラコおにぎりを選んだ。
「ん? 何ですか、プチっていいました。口の中、プチプチしてます」
「魚の卵だよー。私のも魚の卵だよ」
「カノンさんの卵は大きいですね。こっちは小さいです。プチプチ美味しいです」
なんだ、結構元気そうだ。全く動かないから心配してたよ。
「ボート大丈夫だった?」
「楽しかったです」
それ絶対嘘だろう。
「飛ばされそうでしがみ付いてましたけど、めちゃめちゃ速くって楽しかったです。海って楽しいんですね」
「ジェマ動かないから、怖いのか気持ち悪いのかと思ってたよ。とにかく早く陸に上がろうと思って、スピード上げたんだよ」
「だから速かったんですね。海が広くて感動しました。将来は船乗りもいいかもしれないです」
そんなに気に入ってたのか? こっちはジェマが死ぬかもしれないってヒヤヒヤしてたんだけど。
「車とボートどっちが良かった?」
「ボートです! 海がしょっぱいって解りました。何度も口の中に入って来ました。あ、このおにぎりと似た味がします」
「そうだね、海の魚だし、塩も海からだしね」
そうか、楽しかったのか、そうかそうか。
私の初日は梶山船長にしごかれて、ボロボロだった気がするぞ。
「じゃ、午後からだけど、森の傍まで移動して小屋を設置する場所を探そう。誰もいないといいけど、人がいたら場所移動しないと」
ギルドがくれた簡単な地図を見ながら考える。
「普通に5ヶ所のポイントを一周するなら、徒歩で2時間位らしいけど、魔獣と動物の数を数えながら移動すると、1ヶ所につき1時間位必要になるから、5時間+移動2時間で7時間。イレギュラーもあるからプラス2、3時間余裕見ておいた方がいいか。今晩は戻れないから、9時になったらちゃんと寝るんだよ。戻るのは明日のお昼位になるかな。食べ物は冷蔵庫とジェマのバッグに色々入ってるから」
「そうなんですか。カノンさんは外で寝るんですか? 危なくないんですか?」
「ううん、もう一つ小屋があるから」
「え?」
ジェマが目をパチパチする。
「これと同じ小屋がもう一つあるの。だから何も気にしなくて大丈夫。保護膜かかってるから森の中でも襲われる心配ない。今日はジェマの魔素訓練でもあるんだからね。魔素濃くて辛いかもしれないけど、頑張るんだ」
「はいっ、呼吸法覚えました」
ジェマにもしものことがあると困るので保護膜を掛けている。今は魔素遮断率を町並みに高くしてある。少しずつ慣らして遮断率を下げていく予定だ。
海岸を片付けてからまた車に乗る。
ジェマはまだ怯えていたが、自ら乗ってシートベルトも付けられた。
ユイにナビを頼んで移動する。
この辺の森には今誰も人がいないようだ。
エルゼダンテの森と比べると確かに浅い森のように思える。魔素の濃さと云うか緑の濃さと云うか。幹の太さが全然違うな。
「ここなら大丈夫そうだね。この辺に小屋建てちゃうね」
車を降りて森に入っていき、5分ほど歩いたところで小屋を出した。
木が並んでいたところにいきなり登場した小屋に、ジェマが驚いた顔をする。
「解る。私も最初びっくりした。これが小屋を避けたら木も復活するんだよ」
「どうしたらそんなことになるんですか?」
「うん、私も聞いたけど、よく解らなかったから、こういうものだと思って。ジェマ、魔素はどう?」
「はい、吐き気は大丈夫ですけど、頭はちょっと痛いです」
一時凌ぎだろうが、治癒魔法をかける。
「水分沢山とって寝てるといいよ。じゃあ何か困ったときは、天井に向けてユイを呼んでね」
何かあればユイからこっちに連絡が入ることになっている。ユイが小屋の保護膜の魔素遮断率を変更出来るので大丈夫だろう。
「解りました。カノンさんこそ気を付けてください」
「うん、じゃあ明日ね」
さーて、お仕事頑張りますか。
めっちゃくちゃ久しぶりの魔獣討伐なので、大丈夫だろうか。
歩きながら水弾や土弾を試し撃ちしてみる。威力は上がったと思うんだが、魔獣に気付くまでのスピードや走るスピードが下がっている可能性がある。
まずは索敵をしながら近くのポイントに向かう。
歩いて15分、初めての魔獣が引っかかったと思ったら、動物だった。
普通のリスだ。
魔素は殆ど含んでいないので魔獣ではない。尻尾フワフワで顔が可愛い。
こうやって見ると、魔リスと全然違うな。向こうはシャーッて感じだもんな。
エルゼダンテの森は魔素が強すぎて、外側にしか動物がいなかった。内側は全部魔獣なので、逆に全部討伐出来るので楽だった。
こっちは索敵に引っかかっても、魔獣か動物かを確認しなければならないようだ。
今度は魔獣かと思ったら魔石だった。拾うと色の薄い魔石だ。
冒険者ギルドでもバケツに入ったクズ魔石をたまに買い取るが、それも色が薄いのが多い。魔素を沢山含むと色が濃くなるらしい。それだけ火種とかに使える動力が増えるので、濃い魔石の方が値段も高い。
森から魔獣が出て来ないか安全確認のために調べているクセに、魔獣を探してしまう私がいる。
その後も動物ばかりで魔獣に会わないまま、最初のポイントに着いてしまった。
えー、この森穏やか過ぎん?
だって北口の草原の方が、魔鼠とかいっぱい出るみたいじゃない。前に会った冒険者が沢山狩ってたもんね。
ポイントで10分粘って索敵したけど、魔獣の気配なし。
いや、いない方がいいんだけどね。
「ねーユイ、もう次行っていいよね。1時間待ったところで変化ありそうに思えない」
「いいんじゃない。だって魔獣いないもん」
「よし、次行こう」
2番目のポイントに進む。
初めて魔鼠を見付けた。即座に水弾を撃つ。鼠に水晶弾じゃオーバーキルだしね。
「やったー初魔獣」
あとは色の薄い魔石を3つ拾った。
またポイントで10分待つが、何も出て来ないので、次に進む。
「この森の魔獣はハンターに全て駆逐されたんじゃないかな」
「そうかも。上から見ても全然いないよ」
「調査の必要なくない?」
「でも数を数えないと、任務成功にならないんじゃないの?」
「面倒な求人を受けてしまった。もう索敵しまくって走り抜けよう」
3番目まで走って行き、索敵の範囲を広げる。魔獣がいたら討伐して、動物は確認して、魔石は拾う。10分経ったら、4番目に走る。
「あっと云う間に小屋に帰れそう。ジェマに『もう帰ってきたの?』って言われそう」
本当にあっと云う間に終わってしまった。
森全体で、動物50匹、魔獣5匹(魔リス2、魔鼠3、討伐済)、薄い魔石7個。
10時間位かかるかもと思っていた仕事が2時間で終わってしまった。エルゼダンテと違って平坦な森なので、走りやすくて早く移動出来た。
「ジェマはどんな感じ?」
「頭痛いみたいで、大人しく寝てるよ。でもアイス食べてたから、そこまで酷くはなさそう。一晩ここで慣らした方がいいね」
「うむ。アールレイの森は問題なさそうで安心したけど、どこから村が襲われるか心配だから、周辺を見張って来ようかな」
「そうだね。カノン物足りないって素直に言いなよ」
「え? 何の話?」




