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アイテムBOXに北海道丸ごと入っているので、異世界でも食べるものには困りません  作者: 柚木 冬
第一部

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92*コピー用紙はヤバい

 ニコニコ帰ろうとしたら、ボーナさんに睨まれた。

「この間言ってた融通してくれる商品の話、忘れてない?」


「いやだなぁ、覚えてますよ」

 完全に覚えていた。

 忘れたフリして帰ろうとしていたのだが、やはり無理だった。


「色々考えたんだけどね、この中に手に入る商品はあるかしら」

 メモを渡された。ジェマも横から覗き込む。


 ・紙

 ・顔料

 ・絨毯

 ・茶

 ・香辛料


 なるほど、そう来たか。


「顔料は以前もお話した通り伝手が無いので無理です。ただうちでは混ぜて色を作っているようですね。例えば赤と青で紫とか、青と黄で緑とか、赤と黄で橙とか」

「混ぜる……」

 ボーナさんは顎に手をやって考えている表情だ。


「鮮やかな色の鉱物や草花や貝や虫などを潰したり温めたりして成分を抽出して、それを混ぜることを繰り返して、色を作っているようです」


 遠回しに話しているが、天然顔料ではなく、合成顔料のことだ。


「何千パターンも何万パターンも繰り返して色んな色を作っていると聞きました。済みませんが詳しいことは解りません」


「職人の努力の賜物なのね。解ったわ。他の物はどうかしら?」



 絨毯とはペルシャ絨毯のことだろうか。

「絨毯も大した量は手に入りませんね」

 本物のペルシャ絨毯は高価だから、北海道にもそんなに量は無いだろう。ホテルの絨毯とかは沢山ありそうだけど、ペルシャ絨毯は特殊だからなぁ。



「香辛料も最近入って来ないんですか?」

 輸出規制か? 大航海時代が始まってしまうではないか。


「いいえ、特定の商会の所には入ってるんだけど、その商会が抱えて高騰してるのよね」


「茶もそうですか?」

「そうよ」


「なるほど。この中から選ぶとするなら茶ですね。緑茶紅茶は私も結構持っているので、融通可能です」



 ボーナさんが私の顔をじっと見る。

「一番上のはどうなのかしら? 紙は?」


 一番欲しいから上に書いたのだろう。


 このメモが紙である通りに、ローマ帝国には既に紙はある。あまり品質は良くないが、羊皮紙文化から紙に変わってきている。


 中国の紙は昔からあったが、西側には紙の伝来が遅れた。

 ようやく作り方を知り一般にも広まるようになってきたが、まだ手漉きレベルで原料も古布や草花なので出来があまり良くない。

 木材のチップから作るようになるには、人力だと厳しいだろう。産業革命が必要だね。


「ボーナさんが使う分だけで構わないなら、個人的にお渡しすることは可能です。でも商いはお断りします」


「それは手に入らない訳じゃないのに、売れないってこと? どうして?」


 うーん、ちょっと黙って考える。考えたが良い策は浮かばなかった。


「うちの紙が出回ると市場が混乱するからです。それを流したのが私だとバレると、どこかに捕まって終わりでしょうね」


「ギルドが守るわよ。出所は絶対に吐かない」


「でもここにいる人全員信じられますか? 何度もギルド長室を出入りしている小娘が疑われるでしょう。ギルド内に内通者がいるかもしれないし、ロビーには沢山の商人がいます。敵じゃなくても味方の別勢力かもしれない」

「そこまで言う物なの?」


 私はBOXから1枚の紙を取り出して見せた。


 それはとてつもなく白く、不純物の欠片もなく、表面はツルツルと手触りがよく、とても薄く、全体的に均等の厚さで、歪みもなく丁寧に四角に切断されている、完璧な紙。


 いわゆる普通のA4のコピー用紙だ。



 めちゃくちゃ安価なそれを、勿体付けてボーナさんに渡す。


 ボーナさんは宝物を受け取るように掌の上に紙を載せた。端を持って汚さないように気を付けながら、色んな角度から見る。


「……どうやってこんなキレイな物が出来るの」


「間違いなく市場が混乱して、商人や貴族、もしかしたら国まで私を囲い込もうとするでしょう。拉致され拷問されるかも知れません。私は多くの紙を売ることは出来ますが、一番の問題は、これを作る技術を持たないと云うことです。私を捕まえたところで、この国でこれを作ることは出来ないのです。私は拷問され損です」


「解ったわ。カノンちゃんの言う意味が」


「これも先程の話と同じ長年の努力の賜物です。先人たち職人が工夫を重ねて幾千万の工程を繰り返して辿り着いた製法です。もし製法を書き記したメモがあったとしても、何千人もの職人が揃わない限り作れないでしょう」


 製紙工場が必要だな。北海道には製紙工場もあるが、使い方は一切解らん。

 工場稼働するには、さすがに電気や石油が無いと無理だろう。


「そうね、出来ないでしょうね」


「私もいつかはこれを卸したい気持ちは持ってます。この紙があれば本も作れるし、色々便利になるでしょう。でもこれで殺されちゃ困りますので、守ってくれる後ろ盾が必要です。国に囲われて奉仕する気も無いので、皇帝陛下にさえ発言力があるような後ろ盾が必要です。それを得ることが出来たら、そのときに出しましょう」


「はあ、随分度胸の座った子ね。本当に15歳なの?」


 中の人は30超えてます。


「それに絶対平民じゃないでしょう」

「私もカノンさんはお姫様だと思ってます」

 怯えて固まっていた筈のジェマが急に会話に入って来た。


「ジェマ、急に変なこと言わない。いやーボーナさん、最近のジェマのマイブームで、私のことをお姫様って呼ぶんです。生まれてこの方生粋の平民ですから」


「ごめんなさい」

 顔を伏せるジェマ。謝ると余計怪しまれるからね。


「そう言うならそうなんでしょうね」

 ほらやっぱり信じてない。


「こんな言葉遣いの悪いお姫様がいるわけないじゃないですか」

「私だって言葉遣いの悪い侯爵令嬢だったわよ」


 ダメだ、否定すればするほどお姫様ポジションになる。


「それで、どうしてそんな大事な話を私にする気になったの? 黙っておけば解らないことじゃない」


「何故でしょうね。さっき市場で、ボーナさんが領主を平手打ちでぶっ飛ばしたって聞かなかったら、言わなかったかもしれません」


「カノンさん!」

 ジェマがアワアワしている。


 当のボーナさんはニヒルに笑った。

「じゃあ少しは信頼してくれたと思っていいのかしら?」

「最初に来た日から信頼してますよ」


「そう。これ返すわね、誰かに見付かったら困るわ」

 A4コピー用紙が手元に戻って来た。

 BOXに戻す。めっちゃくちゃ安いんだけどな、これ。



「じゃあ、どんなお茶があるのかしら?」


 それから3人でティーパーティをした。緑茶と紅茶を淹れて味見をした。


 この間淹れて貰った紅茶が渋かった理由が解ったよ。お湯に茶葉を入れて煮出していたそうだ。

 お茶の淹れ方が間違って伝わっていたんだね。よくあんな渋いの飲めてたな。


 スーパーで一番安く売っているレベルのお茶だが、先日ここで頂いたお茶より大分美味しい。

 外箱を取ったら、中は飾り気の無いアルミの袋だったので良かった。アルミの袋も十分変わった素材だが、ビタミンCの袋も同じだし、今の話の後でキレイに印刷された紙箱を出す気にはなれない。


 貴族の間でティーパーティが盛んなのではと思い込んでいたが、ここはイタリアなのでコーヒーの方が人気らしい。


 そう言っても、コーヒーも茶も最近広まって来た嗜好品なので、かなり数が少なく高価だ。お金持ちの嗜好品なので、平民にはほぼ出回らない。


 この間管理室で淹れて貰ったのもハーブティーだったもんね。こないだの紅茶より美味しかったけど。


 今ボーナさんが買っている茶の値段を聞いたら、目が飛び出る程だった。ジェマは本当に目を開いたまま固まっている。

 さすがにスーパーの最安商品を、その値段で売る気にはならない。


「少しずつ市場に流すことにしませんか? 他の商人も遠路はるばる持ってきたのに申し訳無いですから」


「そうね、カノンちゃんが拉致されても困るしね」

「私が殺されないようにお願いします」

「お願いします!」ジェマからもお願いしてくれた。


 コピー用紙は第7には存在しないが、お茶はインドや中国に行けばある。

 製造時に注意して、輸送中にカビない対策をすれば、同レベルのお茶を生み出すことも不可能では無いだろう。


 コピー用紙よりはお茶の方が殺される確率は低いと信じたい。


 とりあえず今日はお茶のサンプルを渡して、値段や個数は次回の話とした。



「さっきの話、後ろ盾に一人心当たりがあるわ」

「ボーナさんのご実家ですか?」


「うちはしがない侯爵家だもん。そんな後ろ盾にならないわよ」

 しがないって、侯爵って相当上位の貴族だよね。侯爵家はボーナさんの弟が継いでいるらしい。


「商会も持っているので、紙を流通するなら良い隠れ蓑になってくれそう。お優しい方で領民にも慕われているけれど、頭が切れすぎるから恐れる人も多いわ。ただ、あの家には厄介な女がいるのよね。弟経由で連絡した方がいいかしら。ちょっと聞いておいてあげる」


「ありがとうございます」


「いつアリッチェを出るつもりなの?」

「一応屋台の契約終了まではいようかと。なので次回更新はしません」

「寂しくなるわねぇ」


「しばらくはウベールにいる予定なので、用事があったら戻ってきますよ」

「良かった。毎週来てね」

 冗談じゃなさそうなのが怖い。


「その調子だと、半年後にレインディナに着けませんけど?」

「それも困るわねぇ」


 いい大人が駄々を捏ね出したので、今日はお開きにした。



 ジェマがげっそり疲れていた。気持ちは解るよ、私もかなり疲れた。

「疲れたときは甘い物だよねー」と、ショートケーキを食べた。


 疲れたとき以外も、毎日甘い物を食べている気がするが、気にするな。この体は新陳代謝が良いので太らない。



 気疲れしたので早く寝ようと言ったら、ジェマに文字練習をしてから寝ると言われた。


 そんなこと言われて大人が先に寝るわけにもいかないので、久しぶりにゴーレム魔法の練習をする。

 小さな可愛いロボットが出来たので、歩かせようとしたら足が取れた。


「無理なんだって! 私には作れないんだって!」

 泣きそうになったので、部屋に戻って海外ドラマを見てからふて寝した。


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