91*ジェマ商人(仮)になる
本日も盛況なり。
市場にいる人たちの間で広まったらしく、屋台のおじちゃんたちが次々にやってくる。
みんな重いピアスにはうんざりしていたようで、軽い小さいピアスに喜んでくれた。
値段も1,000デナリ~と手頃なので、手が出しやすいようだ。
市場に行き渡ったら、市場以外の人たちもやって来る。本音を言えば、その前にこの町から逃げたい。
でも優等生のジェマは許してくれないので、せっせと接客する私であった。
昼すぎに商業ギルドの人がやって来た。
「ギルド長が帰りに寄って欲しいそうです」とだけ告げて帰って行った。
ジェマの件か、ビタミンCの話がまとまったのかなとぼんやり思っていたのだが、お客さんたちの方がそれを聞いて慌て出した。
「すぐ行った方がいいんじゃないか」
「ギルド長をお待たせしたらいけないよ」
「あの人を怒らせたら大変なことになるよ」
大丈夫だよ。帰りに寄れって今の人も言ってたから終わってから行くよ。ボーナさん優しい人だよ。
と答えるも、市場の人たちは皆青い顔をしている。
相当ギルド長が怖いらしいので、何故か事情を聞くとこんな感じだった。
前商業ギルド長がここの領主と癒着して、色々と便宜を図っていたらしい。
領主のために手数料を増やしたり、領主の気に食わない商人を潰したり、領主に反論した外国の商船を出入り禁止にしたり、やりたい放題だったそうだ。
それが明るみに出て、前商業ギルド長は更迭され、当時レインディナの副支部長だったボーナさんが派遣されることになった。
実はここの領主とボーナさんは学生時代同じクラスで、侯爵令嬢のボーナさんは男爵令息だった領主を舎弟の様にこき使っており、当時から頭が上がらない存在だったらしい(想像がつくな)。
ボーナさんは家を出て大手商会に嫁いだため平民になり、領主は父親の跡を継いで男爵になった。
今は身分的には自分が上だと領主は権力を振りかざそうとしたが、沢山の証拠を突き付けられ、口論では全く勝てず、思わず手が出そうになったところ、逆に平手打ちされてぶっ飛ばされたそうだ。
その様子は沢山の人に目撃されており、へたれ領主と共に凶悪ギルド長の印象を残した。
平民が貴族を殴るなど言語道断なことだが、ボーナさんは元々侯爵令嬢、実家から睨まれたら男爵家なんて簡単に潰されるそうだ。
その後領主の元にも監査が入り、取り潰しまではならなかったが、一家は僻地に引っ越し、町の運営は現在代官が行っていて、領主はノータッチだ。
前商業ギルド長も今は、本部で小間使いの様な仕事をさせられているようだ。
そんな訳で、領主を平手打ちでぶっ飛ばしたシーンを町の人は忘れられないようで、ボーナさんが恐れられている。
悪役令嬢じゃん!
もしかして転生してきた?
だから勘が鋭いのか?
色んな理由があろうとも、今は可愛がられていることに感謝せねば。
早く行って来いと云う助言を断り屋台の営業を続けていたら、絡んでくる外国の商人を他のお客さんが追い返してくれたり、接客まで他のお客さんが手伝ってくれたりする。
結局閉店時間より30分も早くにお客さんがいなくなり、皆に背中を押されるように店を畳んだ。
「なんだかなぁ」
「……カノンさん……」
ジェマが後ろで立っている。
「どうしたの?」
「私冒険者ギルドで待ってていいですか?」
「いや、ジェマの登録だから本人がいないとダメじゃん。行くよ」
動かないジェマを引っ張る。ジェマってこんなに重かったっけ?
商業ギルドに着き、ジェマを引っ張ったままボーナさんに声を掛けた。
ボーナさんがギルド長室を指差すので、勝手知ったるで部屋に入りソファに座って待つことにする。ジェマは置物の様に固まっていた。
5分ほど待っていたらボーナさんがやってきた。
「随分早かったんじゃない? まだ来るの遅いと思ってたわよ」
「なんか他の屋台の人たちが手伝ってくれて、早く帰れたんですよ」
「あら、良かったわね。ジェマちゃんこんにちは」
ボーナさんがジェマに顔を向けて微笑むと、ジェマは「ひっ」と固まった。
「どうしたの? 体調悪いの?」
「いやさっき市場でボーナさんの話聞いて「カノンさん!」ボーナさんが元侯爵令嬢って聞いて委縮しちゃって」
「そんな昔の話。貴族だったときより平民の方が人生長いんだから、ジェマちゃんと同じ平民よ。気にしなくて大丈夫よ」
「だってさ。ジェマ言葉遣いとか心配しなくて大丈夫だよ」
「あ……あ……はい……ありがとうございます……」
「まだ硬いわねぇ」
「そのうち慣れますよ」
「じゃあ仕事しましょうか。この間の件ね、レインディナと話がついたわ。ビタミンCを来月の頭までに単価5,000デナリで1万個納品お願いできる? これ注文書ね」
「はい、承知しました。納品場所はここで大丈夫ですか?」
「あの大きさならアイテムバッグで運べるからここでいいわ」
5,000万デナリ、とジェマが小声で呟く。
「そして半年後までにレインディナの商人ギルドに5万個納品して頂戴。その任務をジェマちゃんにお願いします」
「はいっ!」
ジェマが急に呼ばれて起立する。
「ジェマちゃんは特殊商品専任商人と云う肩書になります。その他の取引は出来ない商人なので、正式な商人登録は成人してからね。でも州外に出るのは商人と同じなので問題ないわ、宜しくね」
「はいっ!」
「ジェマと屋台やったり出来なくなるのかな? その他の取引が出来ないってことは」
「ああ、その位目を瞑るわ。飽くまでもカノンちゃんの補佐ってポジションなら問題ないわ。ジェマちゃんが一人で外国に買付けに行ったりすると困るけど」
「それは無いです!」
「そういう訳でジェマ、エンジーナまでの予定だったけど、レインディナに行くの付き合って貰えないかな。終わったらエンジーナに戻ってくるから」
エンジーナとレインディナにも家を用意しないとね。
「大丈夫です!」
「またガチガチのジェマに戻ってるなー」
最初に会った頃こんな感じだったな。
「それで、これが登録の書類ね。目を通して記入してくれる?」
「ジェマは文字の練習中なので、書けないところは代筆してもいいですか? 署名は出来るので」
「大丈夫よ。ゆっくり読んで」
ボーナさんがジェマに詳しく色々と説明してくれる。ジェマもめちゃくちゃ頷きながら聞いていた。
一通り話が終わってジェマがサインする。
「えーとこれだけど……」
ボーナさんから手に滑り込まされたメモを見ると、『登録料10万デナリ、年会費30万デナリ、合計40万デナリ』とあった。
相変わらずだな、商業ギルド。
でも今3億デナリの取引を貰ったばかりなので、たった40万でいいんですか? と云う気分だ。
「口座からお願いします」
晴れてジェマが商人(仮)になった。ギルド証とバッジを貰う。
「冒険者バッジの隣に付けておくんだよ」
ジェマの襟元に付けてあげる。
「おめでとう」
二人でジェマに拍手を送った。
これで土曜も町の外にジェマを連れ出せる。
「ありがとうございました!」
ジェマはまだガチガチながら、ちょっと嬉しそうな顔をした。




