89*家を建てる
廃倉庫に戻って、中に建てたテントやBBQコンロや最初から転がっていた丸太などをBOXに納める。
中がキレイになったところで、ボロボロの外壁をBOXに収納した。
サイズは大きいが、壁と天井しか無いので、一度の収納でうまくいった。
「ひっ……ええええええええー!」
廃倉庫がすっかり姿を消したので、ジェマが驚いて後ずさり腰を抜かさんばかりだった。
大声が響いたが、この辺りは人もいないので良かった。
BOXの中で外壁を分解して、朽ちたり火事で焦げているところは処分して、頑丈そうな石だけ浄化魔法を掛けてキレイにする。
「ジェマ、砂埃が舞うから向こうに避難してて」
物凄いスピードでジェマが逃げて行った。
風魔法でゴミを浮かしてBOXに収納して処分。土魔法で地面を均して圧縮して固める。周囲より地面が下がったので、BOXから北海道の土を出して補充して均して固めた。
次に大体1/3のところに線を書き、私の領分を決める。契約書にサイズまで書かれていなかったので、ちょっと位大きくても大丈夫だろう。
その内側を一周、幅30cm深さ1mで地面を掘る。
BOXの中でそのサイズの外壁を、さっきの石で合成して加工する。歪みやサイズのずれ調整やドアの取り付けなどは、魂さんたちに依頼してやって貰う。ちょっと図工が苦手なので。ちょっとだけね。
猛スピード(当社比100倍)で作ってくれたので、それをBOXから取り出して先程の穴にすっぽりと埋めた。
おお、寸分の狂いもなく嵌った。やっぱりプロは違うね。
穴の周りを一周回って隙間を土魔法で埋めていく。1m石が埋まっているのでグラつくことは無いだろう。外壁の内側からもしっかり埋めて補強する。
のっぺらぼうな外壁ではなく、家に見せているので、窓っぽい物もあるが、木窓を嵌めているだけで実際に空くことは無い。
天井には明かり取りで補強したポリカーボネートが埋め込まれ、その光が小屋の天井から差し込むようになっている。上から覗く人はいないと思うが、中の小屋には保護膜とプロジェクションマッピングが掛かっているので見えなくなる筈だ。
そして外壁の中に小屋と庭を設置した。丁度良いサイズだった。
外壁のドアの中と外に防犯カメラを設置して、ドアにも保護膜を掛ける。
長期で出掛ける時は土魔法で開かないようにガッチリ固定するつもりなので、戦車でも持ってこない限り壁をぶち破るのは難しいだろう。
「よし完成」
外観を見る限り非常に無骨な家だが、アリッチェにいない間に誰かに荒らされないための要塞が目的だ。周囲の倉庫と似た感じに同じ色で揃えているので違和感はない。
「ジェマー」
ジェマはかなり遠くまで逃げたようなので、探して歩く。倉庫5つ分離れたところでようやく見つけた。
「終わったよ。家に帰ろう」
「さっきびっくりしました。あんな大きい倉庫が」
「だからBOXが凄く大きいって言ったんだよ」
「えー普通のバッグの何倍なんでしょう。屋台が沢山入りますね」
戻って来たが、ジェマは周囲を見渡している。
「あれ? どこでしたっけ」
「ここだよ。さっきの土地の1/3だけが、借りた土地なの。だから残りは更地になってるでしょ」
「本当だ。じゃあ、この大きいのが?!
」
ジェマが見上げて、またあんぐりする。前の倉庫と比べるとだいぶ小さくなってるんだけどなあ。
「昨日の家がこんなに大きくなったんですか?」
「いや、外壁だけ。中に入れば解る」
ジェマを押し込んで、外壁のドアをロックする。
まだキョロキョロしているジェマを保護膜の中まで押し込む。
「うわー、ありました!!」
「ジェマ、びっくりしすぎー。入るよ。あ、靴脱いで!」
「あ、そうでした、ごめんなさい」
土足文化はしばらく慣れないかもしれない。
「えええー朝と同じ家です」
「何故それにびっくりする」
「だって、あんな大きな倉庫が一瞬で無くなって。それなのに、あんな大きな家がすぐに出来て。もう私、どうしていいか解りません!」
「どうもしなくていいよ。来月からアリッチェ出るから、泥棒に入られないように頑丈な家にしたの。さすがに穴の開いた廃倉庫だと入り放題だからね」
「あーそうなんですね。じゃあ、カノンさんはまたアリッチェに戻って来るんですね」
「うーん、たまに遊びに来る程度かな。ずっと住もうとは思ってないけど。やっぱり海が見える街に住みたいし」
「じゃあどうして家を建てたんですか?」
「たまに遊びに来るために」
「それだけのために100万デナリも払ったんですか?!」
ジェマが、信じられません! みたいな顔をする。
「来なくなったら解約すればいいし。今度は外壁ごとBOXに入れておけば、他の町に家を設置するのも簡単だよ」
「はあ、カノンさん凄すぎる。さすがお姫様ですね」
「お姫様じゃないから!」
「平民にはお姫様の気持ちが理解できません」
崇められてるのではなく、呆れられてるな、これは。100万デナリが一番引っかかっているっぽいが、確かに大したお金じゃないしなー。
「ジェマに言ってなかったっけ? 冒険者ギルドから3日に一度100万デナリ入って来る」
「3日に一度?」
「あと商業ギルドから来月頭に5千万デナリ入って来る」
昨日のビタミンCの商談だ。
「5千万?」
ジェマにとっては、聞いたこともない数のようだ。
「私の時給が700デナリで、6時間労働の週6日」
「ごめん、給料安くて」
「安くないです。他より高いです。それに三食付きだから、他よりすっごく貰っている筈なんです! 5千万ってどの位働けばいいんですか?」
「比較対象じゃないから考えなくていいよ。まあ、私もびっくりしたんだけどね、いつの間にか5千万の話になってた。それもとりあえずの金額だから、多分もっと大きい取引になる筈。それが商人ってやつだよ」
「私大丈夫でしょうか。商人になるなんて」
「今回は仮だからね。ジェマのやりたいことを見付けていけばいいよ。私も冒険者や商人になりたいんじゃなくて、目指すのは海辺のカフェだから」
「かふぇ?」
「ああ、外国語だった。喫茶店? 料理店? お茶とお菓子のお店。海沿いの街だからウベールも候補だったんだけど、一昨日行ったけどごちゃごちゃうるさいところだった。ちょびっとしか見てないから、解らないけど」
「そうなんですねー。ウベール楽しみです、いいところだといいですね」
晩ごはんはかつ丼にした。
日本の調味料がジェマに受け入れられるか緊張していたが、分厚い豚肉にかぶりつき目を輝かせていた。
卵と一緒に食べる米が美味しかったようだ。良かった。
「食べたことの無い味でしたけど、大丈夫です。甘くてしょっぱくて美味しいと思います」
醤油や出汁が大丈夫なら、日本食問題ないかもしれない。
美味しいものを食べるときジェマは目がらんらんとするので、嘘を言っている訳ではなさそうだ。
でもかつ丼も、食後のデザートのシュークリームには敵わなかったらしい。
あまりの甘さに悶絶して、ジェマはしばらく起き上がれずにいた。
「凄いです。カノンさんお姫様です」
はいはいはい、何故か昨日から始まったお姫様ブームだ。
否定するのも面倒になって、はいはいと答えておいた。
でも砂糖も殆ど口にしたことの無い人生だったら、シュークリーム初めて食べたとき私もひっくり返るだろうな。お姫様の食べ物と思うに違いない。
屋台のおまけで渡しているべっこう飴だけでも、みんな凄く喜んでいるもんなぁ。
食後は、文字の勉強中と云うジェマに、ノートと鉛筆を渡した。教材は冒険者ギルド長が貸してくれている。
ノートを使うのが勿体ないと言うジェマに、ノート10冊渡しておいた。沢山書いて勉強するのだ。
私は読み書きの方は大体大丈夫なのだが、相変わらず発音が微妙らしい。
ご婦人たちと会話中に生暖かい目で見られることが多い。多分発音変だったんだろうなぁと思うが、みんな優しいので突っ込んでくれない。
ジェマに指摘してくれるよう頼んだが、青い顔をしていた。
一応上司だし、お姫様相手には言いにくいのかもしれない。
夜はお互い自主練にする。ジェマは文字の勉強、私は魔法の勉強だ。
甲田さんに言われた魔法陣の帰還魔法の練習を繰り返す。魔法陣に込める魔力量や流し込む速度を変化させ、魔法陣が耐えられるかきちんと起動するかの検証だ。
ジェマは2階の自分の部屋に籠っていたので見ていないが、消えてすぐ戻って来てまた消えてを繰り返す私を見たら、今日の比じゃない位びっくりしていたことだろう。
ああ、そういえば魔法ギルドに質問があったんだった。明日時間があったら寄ってみよう。




