87*家事したことなかった
今のジェマは男装のままだ。
いつも男装のときはさっさと帰って行くので、男装のジェマを連れ歩くのは初めてかもしれない。
髪の長さとスカートかどうかの違いだけだが、女装は商売用の少しだけ小洒落た格好、男装は絡まれないように少し薄汚れて見える格好にしている。
明日からのジェマは男装する必要は無いので、女子向けの服を増やしてあげよう。
髪はまだ伸びないので付け毛必須だが、地毛を一纏めにするときヘアピンが要らない長さになったので、一人でも結べるようになった。
ジェマの衣類セットを、魂さんアパレルチームに依頼する。
廃倉庫に戻り、小屋の位置に、BOXからリフォーム済みの小屋を取り出した。
「うわっ」
ジェマがまたびっくりして声を上げた。しばらくはこの状態だろう。大丈夫、私もそうだったから。
外観はさっきと同じだった。
二階に上がると、ジェマの要望通り部屋が小さくなっていた。
「まだまだ大きいです」
部屋が大きいと文句を言い続ける。
「これ以上小さくすると、家具が入らなくなるからね。それに家から持ってきた物を置かないとならないでしょう? 置く場所ある?」
「少ないから大丈夫です」
アイテムバッグは偽装の屋台入れなので、ジェマの荷物をスーツケースに仕舞って交換した。
本当に荷物が少ないようだ。
私が渡した衣類が一番場所を取っている。
部屋を小さくしたした場所は、狭い物置になっていた。
「スーツケースこっちに置いていいよ」
「それじゃあ同じことじゃないですか!」
怒るジェマも可愛い。
さっき依頼したジェマの衣類セットが既に完成していたので、クロゼットにどんどん入れていく。
「この組み合わせで着ると可愛いんじゃないかって、ユイたちが選んでくれたよ。どう思う?」
「可愛いです。私には可愛すぎます」
ジェマは自分が美少女だと云う自覚を持つべきだな。
「明日からは男装する必要ないから着替えなくていいよ。パジャマはここに入れておくね」
「洗濯はどこでするんですか?」
「ああ、洗濯したこと無いんだよね」
「え? したことない?」
洗濯機は1階にあるけど使ったこと無い。要らないなあれ。浴室乾燥機も要らなかった。
「この服には、浄化と劣化防止魔法が掛かっているから、汚しても穴が開いても時間が経てば自動的に元に戻る」
「なんですかー! それ」
「服だけじゃなくてこの小屋の中の物全部だから、掃除も要らないよ」
「じゃあ、私は何をお手伝いすればいいんですか? 料理ですか?」
「料理もしたことないよ。だって温かい料理が既に沢山あるんだもん。夜何が食べたい?」
「そうでした……私は何をお手伝いすればいいんですか?」
「売り子の仕事だよー」
「それは勿論ですが……」
「明日もよろしくね! じゃあ、下に行ってご飯にしよう。何が好き? 肉と魚ならどっち?」
「うーん、肉かな……」
子供が好きなものと云えばハンバーグかなぁ。
BOXの中の出来立ての料理は少ないのだけど、お客さんへ提供前だったと思われるハンバーグは割と沢山あった。ハンバーグのチェーン店とか多いのかな。
それとレンチンや湯せんで食べられるレトルトのハンバーグも大量にある。
今日はレストランの出来合いの美味しいハンバーグを食べることにしよう。
「米は大丈夫?」
ごはんは今まで食べさせたことが無いが、アリッチェでは割と食べられている。
「大丈夫です」
「でもこっちの米とホッカイドーの米は違うんだよね。こっちは硬めの食感なんだけど、ホッカイドーは柔らかいの。それが苦手って云う人もいるんだけど、試してみる? ダメだったらパンもあるから」
「はい、食べてみたいです」
ハンバーグは定番のデミグラスソース。アツアツの鉄板なので、触らないようにジェマに注意する。
ご飯を食べてジェマは不思議そうな顔をする。
「柔らかい。本当だ、こっちの米とは全然違いますね。甘くて美味しいです。私は結構好きです」
「良かった。私の主食だから、うちの食卓は米が多いと思う。おかずも食べてよ」
「こっちも柔らかい! これ肉ですよね? 前にパンに挟んでたのもこんな肉だった」
「前にハンバーガー食べたっけ。肉を細切れにしてるんだよ。故郷じゃ子供の好きな料理ナンバー1で、大人も大好きだよ」
1位はカレーかも。まあ、どっちも人気だろう。後は唐揚げとかかなー。
私はお魚大好きな渋い幼児だったので、ハンバーグもカレーも大好きだけど、鮭には負けてたよ。
ジェマはデミグラスソースがお気に召したらしく、付け合わせの野菜もソースに付けてぺろりと完食した。
野菜嫌いの子じゃなくて良かった。
「米は少し甘いけどあんまり味が無くて寂しいなって実は思ってたんです。でも解りました! この味の濃いソースを食べた後に米を食べると口の中がスッキリするんです。また肉を一口食べた後に米を食べるとサッパリするんです。ちょっと残ったソースと味が無い米が丁度いいんですよね。一口ずつ食べると丁度いいんですが、おかずの方が多くて米が足りなくなって失敗しました。次回はもうちょっと量を考えて食べます」
凄いな、ジェマ、いきなり核心に辿り着いてるし、いつもよりかなり饒舌だ。
「そういうときはね、米のお替りが出来る」
「そんなに食べちゃっていいんですか?!」
「成長期の子供はいいんです。特にジェマは同年代の子より小さいので、他の子より二倍食べても良い権利が与えられています」
「いいんですか? カノンさんと会ってから食べてばかりいる気がします」
そりゃあ餌付けしてるしねー。
「甘い物は別腹と云う言葉があります。ご飯でお腹いっぱいになっても、何故か入るんだよねー。ジェマに美味しいアイスクリームを授けよう」
「何ですかそれ」
北海道を貰って以来ずっと嵌っている北海道の牧場アイスだ。牧場巡りはさすがに一巡したが、ミルク以外にも味が多種あるので、それも一巡するには更に何年もかかりそうだ。
今日は今までの中で一番お気に入りだったミルクアイスクリームをジェマに進呈する。ラクトアイスじゃないよ、アイスミルクでもないよ、アイスクリームだよ。
「うわっ冷たい! 食べ物なんですか、これ」
「牛乳を凍らせた物だよー」
そんな単純じゃないけど、説明面倒くさかった。
「すぐ食べるとカチカチだから、5分位経ってから食べよう」
でもいつもは待ちきれなくて、火魔法で掌を少し温めてアイスを包んで少し溶かしたりしている。
コーヒーが温くなったときにも温められるので便利な魔法だ。前に生み出したドライヤー魔法の応用だ。
森で火魔法は恐くて使えなかったので、火魔法はあまり使っていないのだが、何気にこういう日常魔法で火魔法がレベルアップしているような気がする。コントロールが日々上手になっている。
と云うことで、今日もやっぱり5分待ちきれなくて、二人のアイスを少し温めてしまった。
「食べやすくなったから食べていいよ」
ちょっと滑らかになった方が絶対に美味しいんだよね。
「冷たーい、溶けるー、甘―い。こんなお菓子があるんですね。カノンさんこれ大好きです」
「私も大好き。そのアイスは私の一押しだよ」
「そんなの貰って良かったんですか? 返します!」
「いや。食べなよ。今日は私、こっちの気分だから。色んな味があるから、楽しみにしててね」
「ありがとうございます。この1ヶ月は、今までの人生で一番幸せです」
大切なお父さんとの思い出も、アイスで上回ってしまったかと思うと申し訳なく思う。
「やっぱり食べ物は幸せだよねー。バッグには大量の食べ物が入っているので、いっぱい食べていいからね。私も貰った物だからジェマが気にする必要ないからね」
「でも……」
「私一人きりじゃ食べ切れないんだから手伝ってよ」
「はい」
よし。二人でも全然食べ切れないんだけどねー。
さて、ジェマはお風呂に入れて、今日はさっさと寝かせよう。
お風呂の説明は、トイレの説明よりも時間がかかったが、ジェマは真剣に聞いていた。
シャンプーとかコンディショナーとかトリートメントとかボディソープとか洗顔料とか面倒くさいよね。
説明が面倒くさくて、「全部まとめてオールインに出来なかったのか?」と思う私がいた。ジェマもそうだろう。
シャワーヘッドが暴れているらしく「キャー」と言っている声がお風呂から聞こえる。
大丈夫、それは誰しも通る道。私だって今でもよくやる。
何とか無事にお風呂から生還したジェマの髪をドライヤー魔法で乾かす。髪が短いので、乾かすのも簡単だ。いいなぁ、私も本当は短くしたい。
「家にお風呂があるっていいですね。たまにお風呂屋さんに行くんですけど、すごく混んでて、お湯もこんなに透明じゃないんです。すごく熱いときと温いときがあって、今日は丁度良かったです。一人でお風呂に入れて、美味しいもの食べられて、お姫様になった気分です。カノンさんはもしかしてお姫様ですか?」
目をキラキラさせて饒舌に話すジェマの話をニコニコ聞いていたが、最後のセリフでずっこけた。
多分運営で聞いているユイも、大笑いしているに違いない。
「普通の平民だよー。それに本当のお姫様は一人で体洗ったりしなくて、侍女が数人がかりで洗ってくれるらしいよ」
「えー、それはちょっと恥ずかしい」
「人に体洗われるの嫌だよね。二人ともお姫様じゃなくて良かったね」
「お姫様じゃなくて良かったです」
昨日寝不足だった筈のジェマを早く眠らせる。
一人で寝るのはいつものことだが、場所が違うと落ち着かないだろう。
ジェマの体を魔力でマッサージしてから、寝かせた。多少はリラックス効果がある筈だ。
私もお風呂に入ってリラックスしてから、今日は魔法の練習は止めて早目に寝ることにする。
色んなことがあったので忘れていたが、昨夜は梶山船長の鬼の演習があったので寝不足なんだった。
ベッドの場所が変わったので少し落ち着かなかったが、魔力放出したら一瞬だった。




