86*特殊商品専任商人
商業ギルドを覗いたら、奥の方に座っているボーナさんを見付けた。
「ボーナさん、ボーナさん」
顔を上げて私を確認すると、奥を指差した。
いきなりギルド長室コースらしい。
別に今日はそういう話ではないのだが。
「すみません。一つだけ質問があって来たんですが」
「なあに?」
「未成年でも商人になれますか?」
「未成年だと商人見習いね。ギルド証が発行されるのは成人してからよ」
「やぱりそうですか。未成年が州外に行くのはどういう手段がありますか?」
「もしかしてこの間の子かしら。可愛がっていたものね。一緒に連れていきたいのね」
ふふっとボーナさんが不敵に笑う。
「私のお願いを聞いてくれたら、逃がしてあげてもいいわよ」
「うわーめちゃくちゃ怖いんですが。それって合法ですか? ジェマが追われるのは困ります」
「追われることにはならないわ。例外としてギルド長権限で商人にしてあげるから。公式には商人(仮)って状態だけど、門を出入りするときは問題ないわ。あの子は特別な物を運ぶ商人になって貰う」
運び屋か? うちのジェマに違法な物を運ばせる気じゃないだろうな。
ボーナさんだからそんなことは無いと思うが、逆にボーナさんだからやりかねない気もする。
「何ですか?」
「ビタミンCよ」
ん? ビタミンCって合法じゃないのか?
ジェマがうちの商品を運ぶの?
それだったら私だけでもいいんじゃん?
「ビタミンCをレインディナに運んで欲しいの。あの港には沢山の船が来るわ。アリッチェよりももっと沢山ビタミンCを求めている船がいる。私は元々レインディナの商業ギルドにいたんだけど、ここのギルド長が不祥事を起こしたから建て直すために一時的にこっちに来たのよ。来年レインディナに戻る約束になってるの。だからレインディナの商業ギルドにもビタミンCを卸して欲しいのよね」
「なるほど」
話が解ったような解らないような。
「沢山ビタミンCを卸して欲しいんだけど、カノンちゃんは大量の取引をしたがらないでしょう? もし沢山卸すお願いを聞いてくれるなら、あの子を州外に逃がしてあげるわよ、と云う提案」
「なるほどー」
やっぱり食えない女だ。元貴族め。
「あの子には、特殊商品専任商人の地位をあげる。どうかしら? 年に数十万個単位の取引をすることになると思うんだけど、それだけ融通して貰うことは可能?」
「可能ですね」
こっちも不敵に笑ってやる。もう1桁多くても構わない。
「では取引成立と云うことでいいかしら。正確な発注数はレインディナからの返事が来てからだから、少し待ってね」
ジェマはエンジーナまでの予定なのだが、レインディナにも行って貰わないとならないだろうか。
それこそBOXと帰還魔法で飛べばいいだけか。
「レインディナまで行こうとは思ってたんですが何ヶ月も先の予定でして、納品なら急いで行かないとならないですよね?」
「そうね、早い方が嬉しいけれど。そうね初回はうちの商船を使うわ。どうせ送る予定の物が沢山あるから。来月頭までに1万個の取引は可能? そしてその後半年後にレインディナでどうかしら? 一緒に船に乗せてあげたいけど、荷物が沢山になるから余裕が無いのよね。それに若い女の子には辛い環境だと思う。船で行くなら、専用の船を借りた方がいいわよ」
エンジーナは手前にあるから、直接レインディナに行かれても困る。それに第7の船は確かに辛いだろうなぁ、ちょっと想像するだけで乗りたくない。船でここまでやって来た設定の私だけど。
半年後レインディナか。もっとのんびり行こうと思ってたけど、間に合わないときはボートを飛ばせばいいね。
「はい、解りました。でもそれなら二度目も商船の方が早いんじゃ?」
「だからそれは口実よ。あの子に商人権限を与えるためのね」
「ありがとうございます。それではこちらもボーナさんにお礼を。欲しい商品はありませんか? 最近入って来なくて困っている商品とかあれば融通できるかもしれません。でも定期的には難しいですからね」
ボーナさんは目を瞑ったまま動かなくなってしまった。そして急に息を吐いた。
「時間を頂戴。欲しい商品が沢山ありすぎて、決められないわ。2、3日時間を頂戴」
「はい、勿論。融通できるものでしたら」
「レインディナ行った後、またどこかに行くのかしら? ビタミンCはまた納めて欲しいから、連絡は取れるようにしておいてね」
「どこか町に着いたら商業ギルドに顔を出すようにしますよ。商業ギルド同士でしたら連絡取れるんですよね。手紙のやり取りとか?」
「そうよ。手紙は商業ギルドに持参して依頼するの。アリッチェ行きの手紙は、他の支部からまとめて転送されてくるわ」
「それって魔法の連絡箱?」
昨日ウベールの冒険者ギルドで言ってたやつだ。
「手紙箱は別だけど、連絡箱と仕組みは同じよ。ギルドの書類で使われているのが連絡箱」
「もっと大きな商品は運べないんですか? 複数回に分けても、ビタミンCもそれ使えればいいですよね」
「そんな大きな物が入る箱じゃないのよ。5個位なら手紙箱で送れるかもしれないけど、送るたびに魔石使うから大量に送ると沢山魔石が必要になっちゃう」
「なるほどー。箱を作ったのは魔法ギルドですか?」
「大昔からあるから解らないわね。あ、でも一度作動しなくなったとき、本部が魔法使い連れて来たって聞いたことあるわ。結局老朽化だったらしいけど」
この仕組みを使えばかなり便利な輸送や通信が出来ると思うんだけど。
輸送に関しちゃ地球を上回るんじゃないか。
魔石代と船やトラックで運ぶ輸送費のコスト比較だよね。CO2も出さないよー。
今度魔法ギルドで詳しく聞いてみよう。
「それではジェマの商人登録は、交渉成立で良いですか?」
「レインディナと詳細を詰めるから数日待ってね。でも商人登録はギルド長権限でやってあげる。ビタミンCが無くなっても別の物を持って行って貰うわ。だからさっきの商品融通の件は忘れないでね」
「はい。よろしくお願いします。じゃあ、ジェマが待っていると思うので、帰りますね」
ボーナさんがヒラヒラ手を振ってくれた。
一礼してギルド長室を出る。
よしっ、ジェマを誘拐せずに済んだ。
ボーナさんに弱みを握られたが、こっちに損がある訳じゃないので問題ない。
今後も良い関係を築ければ良い。
冒険者ギルドに戻ると、ジェマはギルド長室で丁度欠伸をしていたところだった。
そうだった、ジェマは昨日色々考えすぎて一人で泣いていてあまり寝てないんだった。
今日は早く寝かせてあげよう。
「ただいまー。ジェマお待たせ」
「お帰りなさい!」
欠伸なんてしてませんよとばかりに立ち上がる。
上司じゃないんだからそんな態度は取らなくていいんだけど。あれ、雇用主だから上司か。
イレーネさんは受付に戻ったようだ。一応仕事中だもんね。
「ギルド長、さっきの件ですが、商人登録してくれることになったので、解決しました」
「そうなんですか? まだ12歳なのに?」
「仮商人ですが、移動は通常の商人と同等の権限になるようです。ご心配お掛けしました」
「それは良かったです」
「ジェマ、荷物は全部持って来れた? 忘れ物ない? ではギルド長、退去の手続きよろしくお願いします。ギルド長が全部手続きしてくれるそうだから、ジェマからもお礼言ってね」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「大丈夫です、任せてください」
もう一度お礼を言って、部屋を後にする。
受付のイレーネさんにも同じ話を繰り返した。
「良かった、良かったね、ジェマ」
ジェマは何の話かよく解っていないようだが。
「良かったです。カノンさんが連れて行ってくれることになりました。イレーネさんありがとうございました」
「ジェマーーー」
二人でヒシと抱き合って泣き出しそうな雰囲気になったので、
「今日でお別れじゃないんだから、まだ1ヶ月位あるんだよ。行くよ、ジェマ。バイバイ、イレーネさん」
と、二人を引き剥がす。
そろそろ仕事を終えた冒険者が押し寄せる時間なので、仕事の邪魔だ。
「カノンさん、さっき私の話してました? 商人って何ですか?」
「商人になると国中旅することが出来て、門を入るときにもお金取られないんだよ。いいでしょう?」
「はい」
「だからジェマも商人登録することにしたの。今度登録に行こうね」
「私が商人なんて無理です。それに未成年は無理なんじゃ?」
「屋台で売り子してるだけでもう商人だよ。未成年だけど、仮の商人にしてくれるんだって」
「まさか私のために賄賂を渡したとか……」
「難しい言葉知ってるね。違う違う。お金を払ったどころか儲かったのはこっちだ。ふっふっふっ」
「なんですかー?」
「ジェマは知らなくていいことだよ。ふっふっふっ」
「気になりますー」




