84*ユイとジェマ
2人で昼食の残りを片付ける。
「私の秘密は、①とても大きいアイテムバッグを持っていて食べ物も長持ちして温かいまま ②変わった故郷の物を色々持っている それとあと一つ、③故郷と連絡が取れる」
「え、どういうことですか?」
「うちの故郷は遠い東の島なんだけど、向こうにいる人と手帳を介して話が出来るんだよ。商品に値札つける作業も大変だからお願いしてやって貰った。アイテムバッグが故郷の倉庫に繋がってるので、完成した物を納品して貰ってる」
「へー便利な魔道具なんですね」
まあ、この程度の話ならそういう反応だよね。
「それで故郷と話してるとき、私の目にはここに相手の顔が映って声が聞こえるんだけど、他の人からは見えも聞こえもしないんだって。私だけが独り言で外国語喋っているように聞こえるらしいから、手帳に向かって話してるときは気にしないでね。一人で笑ってるのは変な人に見えると思うけど」
「そうなんですか。大丈夫です」
何だかフワフワした返事だ。何言ってんの、こいつ? って感じかな。
「ユイー」
ユイに話し掛けた。
どれ位ヤバい奴かを見て貰わないとならない。
いや、知って欲しい訳でもないけど。
同じ家に住む以上、一人で笑っているのを見られる可能性かなり高いと思うし。
「はいよ」
「ねー、ジェマにはユイの顔も見えないし声も聞こえないんだよね。何とか見る方法はないの?」
「見るのは無理だけど、声だけなら大丈夫かなぁ。ちょっと聞いてみるね」
坂口さんに聞きに行ったらしい。
「あ、いいって」
速攻で帰って来た。承認早すぎる。
「カノンのイヤーカフをジェマに渡して」
「え、それだけ?」
「それだけ」
こっちに来て以来付けっぱなしのイヤーカフをジェマの耳に装着する。
毎日浄化かけてるから汚くはないよ!
「え?」
何だかよく解らず狼狽えているジェマ。
急に私が変なこと言い出したと思ったら、外国語で話し出して、イヤーカフを装着されたら、動揺するよね。
「え?……はい! よろしくお願いします」
急に明後日の方を向いて、ジェマが大声で答える。
ユイの声だけが聞こえているのだろう。
そう思ってたら、ジェマが急に笑い出した。
「解りました! カノンさんには本当にお世話になっています」
「いえいえいえ、そんなこと全然ないです!」
「本当ですか?! そんなことってあるんですか?」
何を話しているのかさっぱり解らないけれど、ユイが笑わせているのだろう。
これで一人喋っているヤバい奴に思われずに済む。
一人で喋っているジェマを見ると、確かに怪しいな。
ジェマがこっちに向き直り「終わりました」と、イヤーカフを取ろうとする。
手こずっているので外してあげて、私の耳に戻す。
「ユイ、ありがとうね。何か笑ってたけど、何話したの?」
「ううん、挨拶しただけだよー。さっきのリフォームだけど、ジェマが荷物取りに行っている間にやっちゃう? すぐ終わると思う」
「じゃあ、私もその間冒険者ギルド行ってギルド長に引っ越しの件伝えてくるわ」
「じゃあ小屋をBOXに入れておいてね」
「はーい、じゃあね」
連絡終了。
「ま、こんな感じで故郷と連絡を取れる。ユイに変なこと言われなかった?」
「いいえ、ユイさん凄く優しい人でした。カノンさんをよろしくって言われたけど、私の方がよろしくされる方です。ローマ語が苦手だからあんまり話せないって言ってました」
「えー私より上手だけどな」
ジェマにあんまり質問されないように、布石を打ったのかな。
「ジェマの部屋の工事をすぐにやってくれるらしいよ。じゃあ出掛けようか」
「あ、私、仕事着のままなので、家に行くなら着替えないと」
「あーそうか、家の周りで女の子の恰好だと危ないもんね。着替えて来て」
アイテムバッグに屋台が入ったままなので、空にしないといけないんだった。
隣の庭に出て、中に入っている物を全部出してBOXに収納してから、小屋に戻った。
「これって他の人も使えるんだよね?」
試しにそこにあったティッシュをジェマにアイテムバッグに入れて貰い、もう一回手を入れて取り出して貰う。
私も最初手こずったのだが、運営のアイテムBOXはちょっと離れてても空中でドラッグするような仕草をすると収納出来るのだが、第7のアイテムバッグは傍に行き直接手に触れないと収納出来ない。
そのおかげで屋台でも万引きされそうになるとすぐ気付けるんだけどね。逆に言うとBOXは万引きし放題だな。やらないけど。欲しい物も無い。
「大丈夫だね。そんな感じで荷物仕舞ってきてね。でもバッグ盗まれたら大変だね」
「盗まれたらすぐに使用停止手続きをするそうです。気づくの遅れた人が、全部盗られたってギルドで話してました。カノンさんの大きいバッグは大丈夫なんですか?」
「これは私以外使えないようになってるから大丈夫だよ」
「今これ持っているだけで怖いです」
「ジェマの体にも保護膜掛けておくから襲われても弾くので心配しないで」
「やっぱり! カノンさん前にも魔法掛けてくれませんでしたか? 前に家の傍で酔っ払いに殴られそうになったのに、急に酔っ払いの方が手を押さえて痛がったんです。その隙に逃げられたんですけど、あれってカノンさんの魔法だったんですね?」
保護膜ってポヨンと弾くんじゃないの? 痛がるほど弾くの? 検証したいけど痛いの嫌だから、今度甲田さんに聞こう。
「じゃあ、行こうか」
外に出て小屋をBOXに仕舞うと、ジェマがびくっとなった。
「びっくりした。本当にこんな大きいものが消えました。屋台より大きいのに」
「小屋よりもっともっと大きいものも入ってるよ」
「すごい……」
「そうだ、さっきのユイが言うには、ジェマも魔力高いらしいんだ。今、魔法使えないんだよね?」
「使えないです。使える可能性があるんですか?」
「いっぱい練習すれば使えるかもしれない。魔法使えると色々便利だからやってみない? 水魔法使えれば井戸水汲む必要もないし、火魔法使えれば火打石も要らないよ。魔力で体力も上がるし、病気もしにくくなる。保護膜も自分で覚えれば敵から守れるようになる。旅に出ると盗賊も魔獣もいるから、自分の身を守る必要がある。私が傍にいるけど100%守れる訳じゃないから、ジェマにも自衛を身に着けて欲しい」
エンジーナに送り届けた後も心配だからね。
「魔法使えるようになりたいです。でも、魔法覚えるには学校行かないとダメだと思ってました」
「そうなの?」
「学校に行くにはお金がかかるので、お金持ちじゃないと行けないんです。アリッチェには無いのでウベールまで行かないとなりません」
「へー、うちの先生の教え方はかなり特殊だったから、それで学んだ私も特殊な教え方すると思うけどいい?」
「よろしくお願いします! 頑張ります」
「うん、少しずつね。でも私も知ってる魔法少ないんだ。本格的に勉強するには学校行った方がいいんだと思う」
学園編始まるか?
始まりません。
中の人32に今更学校は辛いわ。特に困ってないし。
「カノンさんがいいです。カノンさんに教えて欲しいです」
「まあ、無理の無い範囲でやって行こう。でも魔力を増やすには、魔素に慣れないとならないから、山に行くしか無いかなぁ」
エルゼダンテの森に放り込むようなスパルタはしないよ。甲田さんみたいになるものか。
でもウベールの傍にもエルゼダンテ程じゃない山は沢山あるので、魔石を拾いに行かないと。
その間、ジェマは危険の少ない山の入口あたりで小屋にいて貰えばいいだろう。
「山ですか?」
「そうそう。うちの故郷は魔素が少ないから魔石が足りなくて、なるべく拾ってきてくれって頼まれてるんだ。だから魔石拾いに行くとき、ジェマも一緒に魔素を吸いに行こう」
「魔石拾い頑張ります!」
「はは、気持ちは嬉しいけど、魔石が落ちているところは強い魔獣もいるからね。魔石拾いはジェマが強くなったときにお願いするよ。小屋の中にいれば魔獣にも襲われなくて大丈夫だから」
「頑張って早く強くなります」
これまで一人で虐げられることが多かっただろうから、強くなって自信を持つことも必要かもしれない。
この国は若い女の子が生きていくのは色々大変だと思うから。
まだジェマと出会って1ヶ月しかたっていないと云うのに、もう保護者の様な心境になってるよ、私。
やっぱり中の人が32歳のせいで、親心? 12歳の子ならあり得るか。
第7では一人で気ままに生きる気持ちでいたのに、あっという間に同居人が出来てしまった。
秘密も話してしまったし、劇的な変化だ。私の人生、これからどうなるんだろうか。




