80*ウベール観光
ウベールもアリッチェと同じアイボリー色の街だけど、アリッチェより黄色やオレンジの煉瓦が多くて少し明るい印象だ。アイボリー色は同じ石を使っているのだろう。
しばらくは住宅街が続く。15分位歩いてようやく、店がポツポツ増えててきた。
奥の方には、宮殿の様な大きな建物が見える。ここは州都なので、領主の館か、議事堂か、市役所の様なものかな。音楽ホールや舞台かもしれない。
人口10万人の街程度大したことないと思っていたけど、アリッチェに長くいた分すごく大きな街に見える。
一番人が賑わっているのはきっと市場だろう。
大通りを進むと、みんな左に曲がり出したので、市場かなと後ろをついていった。
しばらく歩いて行ったら、みんな建物の中に入ってしまった。市場じゃなかったかー。
こうやって適当に歩いていて上手くいった試しがない。やっぱり第7検索で勉強してくるべきだった。
ところでみんな入って行ったこの建物は何だろう?
どこかで見たことのある外観だと思ったら、冒険者ギルドだった。ああ、アリッチェの冒険者ギルドにちょっと似てるんだ。大きさは全然違うけど。
今日は別に冒険者ギルドには興味が無いが、折角辿り着いたので覗いてみようか。
9時半で朝のピークは過ぎているが、沢山の人がいた。求人票にも群がって取り合いが発生していた。
人のいないところの求人票を見ていたら、討伐依頼が多くある。あ、魔熊もいた。
いつも買取所に直接持って行っているので、討伐依頼を受けたことは無いが、自動的に依頼を受けたことにしてくれているらしい。
その分ポイントが溜まっているらしいのだが、現在のポイントも、ポイントとは何を意味するのかも解らない。
異世界モノの様に、ギルドランクとかは無いのでそれにポイントは関係ないだろう。
ポイントの説明って聞いたっけ?
イレーネさんとはいつも適当話になるし、ギルド長とは魔熊の話ばかりだし、買取所のおっちゃんとは魔獣と魔石以外の話をした記憶がないな。
ぼんやり見ていたら、丁度求人票を貼りに来たお姉さんと目が合った。
「いらっしゃい、登録ですか?」
笑顔で聞かれた。私が子供に見えたのだろう。
「いえ、登録済です」
冒険者バッジを指差す。
「上級魔法使い?!」
またそっちかい。その下の小さいのを指差して見せた。
「ああ、そうだったんですか。お会いしたこと無い気がしますが、ローマからですか?」
「いいえ、アリッチェです」
「アリッチェ? へー」
ちょっとアリッチェを下に見ている感じがあるな。
まあ、どこでもそんなもんか。地方出身者は田舎者呼ばわりされるよね。
「そうだ、ポイントって何ですか?」
「アリッチェでは説明してくれなかったですか?」
聞いた覚えはないんだけど、私が聞いてなかっただけかも。
「私が聞いてなかっただけかも」
「よく説明忘れる職員がいるんですよ。依頼を沢山こなすとポイントが溜まります。溜まったポイントは武器とか商品に替えられるんです」
説明してくれたのイレーネさんだしなぁ。
しかし本当にポイントのことだった。
「どの位ポイントあるのかどうやったら解るんですか?」
「あ、見てみましょうか? 資格証の番号教えて下さい。ウベールは交換できる商品が多いんですよ。あそこにあります」
おお、それは楽しみだ。聞いてみて良かった。パチンコ屋の景品みたいに色々並んでいるコーナーがあった。
ギルド証を渡して照合して貰う。
「番号でポイントが解るんですか? どうやって他の支部と連絡取るんですか?」
「各支部が本部に各冒険者の今日のポイントを連絡すると、本部がまとめて集計しています。毎朝その口座残高とポイント数が支部に送られてくるんですよ」
「紙で?」
「そうです。連絡箱があって、そこに入れると本部に送られるんですよ。不思議でしょう?」
アイテムバッグだ! 双方向の帰還魔法だ。
ちょっと見せて欲しいけど、見せてくれないよね、きっと。
「あ、ありましたね。え? 15万ポイント?」
お、結構溜まってる。15万デナリ分かな? 1万5千デナリ分なら大したものなさそうだなー。
「え? 番号合ってますよね」
彼女の手元を覗き込む。
「うん、合ってますね」
手書きかよ。
毎日夜に集計して、朝に各ギルドに送ってるんだよね。
支部いくつあるのか知らないけど、冒険者何人いるのか知らないけど、完全ブラックじゃない?
冒険者ギルドの本部にだけは勤めたくない。
コピー機の営業に行きたいけど、あんな物持ち込んだら騒ぎどころじゃないからね。
「集計ミスだと思います。15万ポイントってことは、1,500万デナリ分の討伐が無いと溜まらない数字なんですよ!」
うーん、3日に一度のペースで100万デナリずつ位貰ってるから、1ヶ月ちょっとでそんなもんじゃないかな。村へのおつかいもあったし。
「先月頭からなんで、大体1,500万デナリ位だと思います」
「はあっ?!」
信じて貰えないようだ。
「魔熊15匹位納めてますからね。1匹50万なので、それだけで750万でしょ? あとは鹿とか山羊とか色々。大丈夫、合ってますよ。15万ポイントで交換できる物ってありますか?」
「……魔熊……魔鹿……魔山羊……1,500万……」
なんだかフリーズしているようなので、さっきお姉さんが教えてくれた景品コーナーに向かう。
ファンタジーっぽい剣が30万ポイント、さすがに無理かー、でもあと1ヶ月溜めたら交換できるね。剣は別に要らないけど。
他にも色々あるが、高そうなのはやっぱりポイントが足りず、交換出来るのは安っぽいのばかりだった。
特に欲しいと思う物も無かったので、もうちょっと溜めてから交換しよう。来月いい物があるかもしれないし。
座ったまま動いていないお姉さんに、
「ありがとうございます。もうちょっと溜めてからまた来ますね」
と声を掛けたが、返事が無かった。
市場と魔道具屋さんの場所聞きたかったのになあ。
特に用事も無いので、冒険者ギルドを退散する。
丁度勢いよく入って来た人とぶつかるところだった。危ないなー前見て歩いてよね。
「南門前で乱闘だ! うちのトップパーティ2組が争ってるぞ!」
「どうしてあいつらが?」
「女を取り合ったらしい!」
やっぱりアリッチェと違って血気盛んだなぁ。アリッチェは結構和気あいあいな感じだもんね。
ウベールで冒険者なんてやっていけるか不安だなぁ。
自分の勘は当てにならないので、素直に道を聞くことにした。
「市場はどこですか?」
「市場? そこだよ」
あ、もう一本向こうの道に、屋台が見えた。
「ありがとうございましたー」
何故気付かなかった。こんなところにあったのか。
「わーお」
アリッチェの市場の3倍はありそう。
様々な屋台が犇めき合っていた。ここは飲食が集中して、多国籍な香りがする。
嗅ぎ慣れない匂い、美味しそうな匂い、潮の匂い、スパイシーな匂い、生臭い匂い、脂っこい匂い、香ばしい匂い、嗅いだことのないような匂いもある。
ここは貿易港で港町。知らない国の料理に、見たことの無い魚。
気になる店は沢山あるけど、まだお腹は空いていないので、飲食以外の屋台も見て回ろう。
あーこれは楽しいーアリッチェより色んな店がある。
特に外国からやってきた商品なんだろう、色彩豊かなものが多い。
残念ながら購入したいとまで思う物には至らなかったので、ひやかしで終わったが、海外旅行で屋台見たときの気分が味わえて最高に楽しかった。
沢山歩いたのでお腹も空いて来た。どれがいいのか解らないので、客が多い店を選ぶ。
丸いパンに、魔猪の香草焼きを挟んだサンドイッチ。
魔猪なんてクセ強すぎて大丈夫だろうかと思ったのに、ハーブが利いてて美味し―い。
魔獣は焼くと固くて美味しくない筈なのに。確かにちょっと固いけど、コリコリしたところがまた美味しい。ハーブで臭み消してるんだろうね。いいじゃないか、魔猪、また獲って来よう。
ドリンク系はあまり美味しそうなのが見当たらなかったので、BOXから水筒を出してお茶を飲んだ。
ウベールの市場楽しいな。全店制覇したい気分だ。
今日はちょっと寄っただけだけど、引っ越してくるのが楽しみになってきた。




