7*異世界ナビのユイ
「モニ子、その領の名産品は何?」
「小麦です。5年前から年々収穫量が落ちてます。川の氾濫が大きな原因です」
モニ子とも大分仲良くなった。最近はローマ語の勉強も久しぶりに始めた。モニ子の指導のおかげで少し話せるようになってきた。
モニ子?
目の前のモニターですが何か。
ネーミングセンスが無いのは承知しております。
「メッセージが届きました」
「え? メッセージ? 読んで」
「対策委員会日本グループの坂口翔吾から。『お疲れ様です。転生体の準備が出来たので、明日10時にお伺いします。よろしくお願いします』以上」
「転生体! 体だよね。新鮮な死体」
「新鮮な死体? 検索します」
「わーーー検索しないでください!」
モニ子はAIなので、ところどころ融通が利かない。それは仕方ない。
AIだと思うけど、神様的な何かかもしれない。
「明日10時と言われても、時間がさっぱり解らない」
「タイマーセットします」
「ありがとうモニ子。5分前にお願い」
この部屋に入って、何日たったのかも定かじゃないし。
人に会うのは緊張するけど、この体じゃ身支度とか整える必要ないから楽だよね。
「須藤さんお久しぶりです」
「おはようございます」
やっぱりイケメン眼鏡男子だった。
あれ? 違う眼鏡してるね。こっちも似合います。
個室を出て廊下を歩きながら話す。
「めちゃめちゃご無沙汰してしまってすみません。転生体がなかなか見つからなくて、随分お待たせしました」
「いや、そんなに簡単には見つからないと思ってたので、大丈夫です。色々勉強できて良かったですし」
「健康な若い女の子で、言葉の読み書きができて、魔素が多く取り込めるしっかりした体がなかなか無くて、一年もかかっちゃいました」
「一年?! え、嘘ですよね。半月位の間違いじゃないですか?」
「あー魂の体は、あまり時間を感じないんですよ」
「え、それにしたって……一年って」
どれだけボーっとしてたんだよ、私。
「坂口さんも一年たっているようには見えませんが?!」
「ああ、これは職務上の秘密です」
「あ、そうなんですか」
「いや、単に老化を遅く設定しているだけですね。ここは時間の動きがまちまちなので、部屋によってはあっという間に100年たっちゃうんですよ。そしたら一気におじいちゃんでしょう。それでは仕事にならないので、体の老化をほぼ止めているんです」
また何だか解らない話になった。理論で理解しようとしても無理なので、そういうものだと諦めることにする。
はい、思考放棄しました。
「これから須藤さんにも転生体に入ってもらいますので解ると思いますが、外見の調整はご自身で出来ますので、美人にも出来ますよ」
「すごい! 整形いらずですか?」
「ただ途中で顔を変えると、周囲に不審がられますから。知り合いが出来る前に決めてくださいね」
「でもローマ帝国の美人の基準が解らないなー日本で可愛いのとは違いますよね。あんまり美人すぎるのもなぁ」
「任せてください。その道のスペシャリストを呼んであります」
「それは良かったです」
「この部屋です」
IDカードで中に入る。
きっと研究室っぽいところに連れていかれて、転生体は液体の入った円柱のガラスケースに入っているんだと思っていたが、普通の会議室だった。
奥の席にベージュのニットを着た女の子が1人座っていた。20歳前後に見えるけど、きっと人生〇回目の年上だろう。
「須藤花音さんです」
坂口さんが私を紹介する。
「よろしくお願いします。ユイです」
「第7に行ってからの須藤さんのナビゲーターを担当してもらいます」
「どうぞよろしくお願いします! では一人で行くわけではないんですね」
「いいえ、残念ですが、私はこちらにいるので一緒には行きません。タブレットをお渡しするので、それを介して繋がっています。いつでも傍にいるので安心してくださいね。花音さんの見たもの、聞いたもの、全てこちらに共有されていますので、いつでも話しかけてください。頑張ってお手伝いしますからね! あ、見られたくないプライベートは、気を利かせて後ろ向いているのでご心配なく!」
「ホント勘弁してよ。隠し撮りとかしないでね」
釘を刺す坂口さん。
「するわけないじゃないですかーーー。坂口さんには絶対に教えません!」
「いや、絶対何かする気だろう!」
「しませんってばーーー」
何だか兄妹のようなノリの二人を、近所のおばちゃんの様な眼差しで見守ってしまう。
坂口さんも時々闇属性になるクール眼鏡男子だと思ってたけど、妹に甘い単なるお兄ちゃんだったんだな。
ユイさんは明るく話しやすそうなタイプで良かった。これから色々教わることも多いだろうし。
例え顔が見えなくても、しばらくはずっと一緒にいるのと同義だもんね。
「何もしませんってばー。現地に馴染むにはやっぱり彼氏作ることだろうから、頑張りましょうねー花音さん」
「いやー彼氏はしばらくいいです」
「大丈夫。今まで男運が悪かっただけです」
坂口さんがきっぱりと言う。
あなたは、一体私の何を知っているんだ。
聞きたいけどやめておこう。思い出したくもない記憶は全て忘れよう。
「じゃあ、転移前の確認を色々していきますね。質問はどんどん聞いてください」
と、ユイさん。
「最初の転移先は、ローマ帝国の南端、イタリア半島の踵のところになります。花音さんは外国から来た旅人設定です。若い女の子が一人で旅してくるというのは、第7では疑われるので、売られそうになって逃げてきたということにします。この世界奴隷売買とかありますから。細かい設定はじっくり詰めましょうね」
「はい。本当に捕まって奴隷にされないように気を付けないと」
「私が傍にいるから大丈夫ですよ。花音さんには早く魔法を学んで強くなっていただきます。地上最強の女を目指しましょう」
「いやいや、筋肉ムッキムキの未来が見えました」
「魔法はそんなに筋肉いらないので大丈夫でーす。用意したボディは、オーバーホールしてかなり頑強にしてますので、強いし超健康ですよ」
「それは有難いです。視力は? コンタクト不要ですか?」
視力0.01の女だったので、色々きつかった。
「5.0見えます」
「見えすぎでは?! それって透視できちゃうレベルなのでは?」
「坂口さん、透視の魔法ってありましたっけ?」
「あるね。でも服が透けるんじゃなくて、相手の体も透けて向こうが見えるだけだから、銭湯には使えません」
「花音さん残念です」
「銭湯を覗く気はありません!」
それは男のロマンかもしれないが、女には関係ないだろう。仮に見えたとして……うーん、おっちゃんの裸には興味ないな。
話が脱線したので、坂口さんがその後を引き継いで話し始める。
「それで、最初は町じゃなくて人のいない森に転移します。そこに小屋を用意していますので、まずはそこが仮住まいになります。森には魔獣がいて魔素も濃いです。第7の転生体ですが、まだ高濃度の魔素には慣れていないので、小屋の周りに魔素をブロックする保護膜を張ります。体が慣れてきたら、少しずつ結界を緩めて魔素を取り込んでいきます。転生体は容量が大きいので、魔法を使うときは沢山使えて便利ですよ。大丈夫になったら魔法の練習です。正直3か月位は小屋から出られないと思ってください」
「ええ、そんなに?」
「その間必要なものは小屋の中に用意します。なるべく辛くないように頑丈な転生体を用意しましたが、普通の体ならすぐに持たなくなる可能性があります」
「本当に大丈夫なんですかー?」
めちゃくちゃ不安だ。転生体最強とか頑丈とか言ってたのはこれのせいか。今後死んだら私どうなるの?
「安心してください。第7で生まれた体ですから、体自体は魔素に順応しています」
本当かなぁ、私やっぱり騙されてないよね。
といっても誰に相談すればいいのか、然るべき部署があるのかも解らない。
「大丈夫ですから、新生活旅行気分で行ってきてください!」
「すぐに連絡しますねー!」
手を振っているユイさん。
ええ? もしかしてもう行くの? 心の準備はーーー?
慌てているうちに、瞼が重くなって、意識が落ちた。




